第221話 『 特記戦力 』
「……周りは随分と盛り上がっているようだね」
「……」
――ペルセウス王宮2F、中央フロア。
「私達もそろそろ始めないか――センドリック=オルフェウス」
「私も同じことを考えていた所だよ――アルベルト=リ=ルシファー」
……〝老兵〟と〝第一位〟が対峙していた。
恐らく〝Σ〟が暴れているのか、床は揺れ、天井から欠片のような物が落ちてくる。
私とオルフェウスは静かに睨み合い、その空間には張り詰めたような緊張感が漂っていた。
「ならば、お言葉に甘えてこちらから行かせてもらおうか」
私は真っ直ぐに正面の敵を見つめ、ゆっくりと口を開く。
「 〝王命を下す〟 」
その攻撃に歩みは必要ない。
ただ物言う口さえ有れば十分であった。
「――センドリック=オルフェウスよ、我が軍門に下れ」
――〝王道〟。
あらゆる人種の人間に対し、命じたことを強制的に実行させる〝血継術〟である。
(この能力は相手の実力・意思の強さに拘わらず適応される……そう、相手が最強の老兵だろうと
「 何か言ったかね 」
――既に私の目と鼻先まで刃が迫っていた。
「――っ」
不意打ちではあったものの、私は咄嗟に首を傾げながら後方へ跳び、突き放たれた刃を回避する。
「動揺で動きが鈍っているぞ、小童め」
「――」
――否、彼の不意打ちは終わってはいない。センドリックは突いた刃を振り払い、私の肩を切り裂いた。
「……」
私は出血する肩を押さえながらセンドリックと距離を置く。
「……耳栓か、食えない男だね」
そう、センドリックの耳には耳栓が填められており、私の命令は彼には届いていなかった。
「有名になりすぎるのも考えものだね、こうして初対面の相手に対策されてまうのだから」
世界最強戦力である〝七凶の血族〟、その中の頂点に立つ私の〝血継術〟は世界的に知られていた。
「だが、有名なのは〝血継術〟だけだ……貴方は知らない――私の〝奇跡〟をね」
私は斬られた肩に手を添えた――次の瞬間。
「……血が止まった?」
……そう、私の肩の傷は癒え、出血も治まっていた。
「治癒の力がペルシャ嬢だけの思っているのであればそれは思い違いだよ」
そもそも、治癒の力を持つのはペルシャ=ペルセウスだけ……その情報を各国に流したのは私であった。
ペルシャが稀少な〝奇跡〟持ちと知れば、取り込もうとする者や最悪亡き者にしようとする者が現れるであろう……私の狙いはそれであった。
(……出来れば私が手を下す前に死んでいてくれた方が良かったが)
流石は〝王下十二臣〟と言うべきか、今日という日までペルシャを守り抜いていた。
「しかし、その中でも貴方は別格だ」
ペルセウス王国最強戦力――〝王下十二臣〟の中には最も警戒すべき戦力が四人いる。
一人目は〝防御力〟――セシル=アスモデウス。
二人目は〝生命力〟――ファルス=レイヴンハート。
三人目は〝可能性〟――伊墨甲平。
そして、四人目――……。
〝戦闘力〟――センドリック=オルフェウス。
「だから、私が貴方の相手を引き受けた」
セシル=アスモデウスはアスモデウス家の引き継ぎで不在。
ファルス=レイヴンハートは日付変更まで蘇生することが出来ない。
伊墨甲平は――……。
〝特記戦力〟の3/4が万全ではない今、最も警戒すべきは目の前の男であった。
「――」
――センドリックが長剣を手に飛び掛かる。
「何を言っているのかは聞こえないが、悠長にお喋りとは余裕だね」
私は迫りくる凶刃を短剣で受け止める。
「これを受けるとは少しはやるようだ。だが、これなら?」
センドリックは更に刃を激しく打ち込んでくる。
「――っ」
まるで豪雨のように降り注ぐ斬撃の雨に私は凌ぎ切れずに傷を創っていく。
「やはり純粋な剣技では貴方の足元にも及ばないようだ」
そんなことは最初からわかりきっていた。そんな私が何の対策もせずに戦いを挑む筈がなかった。
「さてと、出し惜しみせずに見せようか――もう一つの〝奇跡〟をね……」
治癒の力も、
〝神の子〟も、
ペルシャ=ペルセウス一人だけではないのだから……。