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 第218話 『 夜雨 』



 「……銃声?」


 ……王宮中に鳴り響いた銃声のような音に、その場にいた人間は凍りつくように固まった。


 「クリスッ! キャンディッ! ロキッ! ソフィアさんッ!」


 俺は直ぐ様四人の名を叫ぶ。


 「私はペルシャ様達を護る」

 「キャンディも皆の護衛をするの」

 「僕も皆さんを避難させます!」

 「私は侵入者を排除します!」


 ……流石は〝王下十二臣〟、話が早くて助かる。


 「俺も侵入者の排除に回る! 皆を任せたぞ、クリス! キャンディ! ロキ!」


 俺とソフィアさんはクリスとキャンディとロキと国王一家を残して部屋を飛び出した。


 「私は見晴台から敵を狙撃します、甲平様は中の敵をお願いしますっ……!」

 「わかりました! お互いの無事を祈ります!」


 俺は廊下を駆け抜け、ソフィアさんは窓から外へ飛び降りる。


 (……さて、近くにいるな)


 曲がり角の手前で俺は足を止める。

 耳を澄まさなくても、迫り来る沢山の足音が聴こえてきた。


 「……悪ィがここから先は通行止めだ」


 静かに小太刀を抜く。

 良く研かれた刀身が照明を反射する。



 ――防弾ジャケットにフルフェイスを身に付けた男達が曲がり角から飛び出した。


 「敵だ! 撃て!」


 ……その手には拳銃やら小銃が握られていた。


 「さて、一仕事と行こうか」



 ……俺は真っ正面から男達へ向かって飛び出した。







 「――外へ出て、王都へ避難しましょう!」


 ……ロキくんが皆の前に立ち、避難を促す。


 「……」


 そんな中、わたしは一つの違和感に気がつく。


 (……侵入まで甲平くんでさえ気づけないレベルの隠密能力があるのに、それなのにどうして銃を使ったんだろう?)


 わたしの家族はこの部屋に全員集まっている。恐らく殺されたのは使用人の誰かだ。しかし、わたし達に対してならともかく、一使用人を殺害するのに銃を使うなんて、王宮内に侵入していることをバラしているようにしか見えなかった。

 そして、一発目を皮切りに王宮中で鳴り響く銃声。


 「――ちょっと待って」


 わたしの制止の声に一同が固まった。


 「キャンディちゃん、外を窓から見てもらってもいいかな」

 「わかりました」


 わたしのお願い通りに、キャンディちゃんは窓から外の景色を見渡した。


 「どんな感じかな?」


 「……敵の姿は見当たりません、数名の使用人が王都へ避難しようとしています」


 ……やっぱりね。


 「避難は王都じゃなくて、王族専用の避難ルートを使った方がいいと思うの」


 「どういうことかね?」


 わたしの発言の真意をお父様が確認する。


 「敵の動きに違和感があります……そう、まるで私達を外へ誘導しようとしているような」


 「……なるほど、確かに暗殺にしては派手過ぎるな」


 お父様はわたしの説明をすぐに汲み取ってくれた。


 「だから、地下のルートを使いたいと思います。宜しいでしょうか、国王陛下」

 「……」


 頭を垂れるわたしに、お父様は無言で考え込む。


 「……わかった。ここから最短の第8ルートを使おう」


 お父様が頷き、わたし達は第8ルートを目指すことになった。



 ――そんなときだ。



 バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラッ……!


 ……けたたましい爆音が夜の王都に響き渡った。


 「……この音は……まさかっ!」


 わたしはテラスから顔を出し、外から王都へ向かう使用人らを探しだす。



 「 建物中へ避難してください! 外は危険です! 」



 わたしは大声で使用人らを呼び止めた。


 (……話には聞いていたけど、実物を見るのは初めてだね)


 爆音と強烈な横風が王宮の窓や壁を震わせる。


 (駄目だ! 声が届いてない!)


 わたしの声は爆音に遮られ、外にいる使用人には届いていなかった。


 使用人らは逃げる足を止め、空を見上げた。



 ――そこには象や鯨よりも巨大な鉄の飛行体があった。



 鉄の外装に、巨大なプロペラ……その名は?



 「……ヘリ、コプターッ……!」


 確か、ここから遥か遠くに位置する神聖ルシファー帝国で開発された飛行兵器であった。


 (超質量物体の飛行技術はまだペルセウス王国にはまだない……遥か先の技術力)


 その一つが王宮の上空を旋回していた。


 「……下からノズルみたいな物が出てきたの」


 わたしよりずっと目の良いキャンディが〝何か〟を見つける。次の瞬間――……。




 ――王宮に霧状の雨が降り注いだ。




 ……発生源はヘリコプター。霧状の雨はあっという間に王宮を濡らした。


 「……どうして、雨?」


 その疑問はすぐに解明される。



 ――鮮血が噴き出した。



 ……わたし達ではない、外にいた使用人達だ。


 使用人達は全身の穴という穴から大量の血を噴き出し、その場に倒れ込んだ。


 「……まさか……細菌兵器?」


 それもまた、ヘリコプターと同様にペルセウス王国には無い超技術であった。


 (……飛行兵器ヘリコプターに細菌兵器……やはり敵はルシファー帝国)


 ――神聖ルシファー帝国。


 ……世界の三割を統べる最大にして最強の国家。


 (……どうして、ペルセウス王国を狙っているの?)


 わたしは窓の外を見つめながらそんな疑問を抱く。

 窓を隔てた外の世界では、使用人達が血を噴き出しながら断末魔を上げていた。



 ……しかし、その断末魔はヘリコプターの風切り音に遮られ、わたしの耳には届かなかった。


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