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 第217話 『 グッバイ・メジャー 』



 「……」

 「……」


 ……俺と王様が無言で向き合う。


 俺の口にはパッキーと呼ばれる縦長のクッキーがくわえられていた。


 「では、行かせてもらうよ」


 そう言って王様がこちらに顔を近づける。


 「……」


 ドキドキッ、ドキドキッ


 「……」


 ドキドキッ、ドキドキッ



 ――そして、王様の口がパッキーの先端を捉えた。



 『おぉ~~~~~っ!』


 いや、『おぉ~~~~~っ!』じゃないよ! ロキも笑ってんじゃねェ、ぶち殺すぞ!


 ゆっくりと食べ進める俺と負けじと前進する王様。


 (……あっ)


 ……そこで俺はあることに気がついた。



 ――俺、パッキーゲームのルール知らねェじゃん。



 (……えっ、これどうやったら終わりなんだ? パッキーを食べきったら終わるのか? じゃあ、パッキーが折れたらどうすんだよ? どっちの勝ちなんだ?)


 真意を確かめたい所であったが如何せん、既に王様の何かぼそぼそした唇が目の前まで迫っていた。

 とにかく、今の俺に出来ることはパッキーを食べることしかなかった。


 (……まずい、この距離になるまで気づかなかったけど王様の口、ちょっと臭い、納豆みたいな臭いするぞ)


 そんなことを考えている内に、唇と唇の距離は後一センチまで迫っていた。


 (落ち着け、伊墨甲平! 俺は諦めの悪い男だろ! 頭を回せ、アスモデウス邸で培った思考力をここで生かすんだ! 俺と王様の距離、パッキーの長さ・硬さ・味、食べる速さは秒速五ミリってとこか……さあ、考えろ。セシルさんなら、ペルシャならどう考える? 俺の知ってる頭の良い奴ならどう動く? いや……もしかしたら



 ――ちゅっ♡ 俺と王様の唇が重なった。



 ……ごめん、間に合わなかったよ。いや、誰に謝ってるんだ、俺?


 『……』


 俺と王様は唇を離し、無言で見つめ合う。


 「……ぽっ(///」


 いや、『ぽっ』じゃねェよ。どちらかと言えば『オエッ』だよ。

 とはいえ、過ぎたことを嘆いても仕方がないので俺はカサカサした唇の感触を脳味噌から消去して切り替えることにした。


 「ささっ、次行きましょうか、次!」


 半ば強引に進行させ、王様ゲームは三周目へと移行する。

 それから姫とクリスがパッキーゲームをしたり、ロキとメジャーがパッキーゲームをしたりと三・四周目を消化した……パッキーゲーム好きすぎだろ、お前ら。

 ……そして、五週目。


 「 俺が王様です 」


 遂に俺が王様となった。


 (……やっとこのときが来たか)


 俺はこの瞬間をずっと待っていたのだ――クソみたいな席順を変える瞬間をな……!


 (仕込みなら既に終わっているのさ――この部屋の天井裏にな)


 そう、俺は事前に影分身を仕込んでいたのだ。

 そして、天井にいる影分身と各人が何番の棒を引いたのかを情報共有すれば、ピンポイントで命令を下すことが出来るという寸法である。


 (丸見えだぜ! ロード=メジャー……!)


 俺は不敵に笑い、命令を下す。


 「――〝6番〟は一階の玄関に俺が置いた箱を取って来てくれ」


 それが俺の命令であった。


 「……あっ、僕ですね。箱を取ってきたらいいんですね」


 計画通りメジャーが立ち上がる。


 「ああ、頼むよ」

 「では、少しだけ席を空けますね」


 そう言ってメジャーは何も疑うことなく、部屋を出ていき箱を取りに行った。


 「……」



  思  い  通  り  !



 (……これで邪魔物は排除した! 後は空いたハーレム席に座ればいい!)


 そして、メジャーが離席したことにより王様ゲームが一時停止となる――狙うのはこの間隙であった。

 俺は立ち上がり、グラスを持ってハーレム席を目指して歩を進める。


 (自然な感じで挨拶して、着席して、乾杯。自然な感じで挨拶して、着席して、乾杯。自然な感じで挨拶して、着席して、乾杯)


 頭の中でのリハーサルは完璧であった。

 後はそれを実行す


 (――なっ! あれはっ!?)


 俺はメジャーが座っていた席を見て、衝撃を受けた。



 ……座席の上にメジャーの私物と思わしき、ラッピングされた小包が置かれていた。



 (あいつーーーッ! 席をキープしてやがったなーーーッ!)


 ペルシャへのプレゼントだと思われる小包をどかして座るのは、些か不自然過ぎた。


 「……」


 俺はメジャーの席をスルーし、テーブルを一周して、自分の席に戻った。


 「……えっ、今何がしたかったの?」


 王様が至極真っ当なツッコミを入れた。


 「さあ、何がしたかったのですかね?」


 「いや、こっちが聞いているんだけど」


 くそ~~~っ! 次こそは絶対に席替えを成功してやる~~~っ!



 ……俺は失敗を糧に次なる作戦を企てるのであった。








 「 無いじゃんっ、箱ッ! 」



 ……玄関を一通り確認した僕は一人ツッコミを入れた。


 伊墨隊長が箱を置いてきたと言っていたが、明らかにそれらしき物は見当たらなかった。


 「……あの人、またテキトーなことを言ったなぁ」


 それなりにあの人とは交流があったので、こういうことをしてもおかしくないと納得は出来た。

 目当ての物が無いことを確認できたので二次会の会場へ戻ることにした。


 (……何かやり返したいなぁ)


 またパッキーゲームでもさせようかと僕はささやかな復讐を企てる。

 前回も彼には振り回されたのだ少しの反撃ぐらい許される筈である。


 「…………ん?」


 僕は廊下の窓越しに庭の景色を覗き込む。



 ――銃口?



 ……銃声が鳴り響く。


 窓ガラスが割れ、廊下に飛び散る。

 銃声は三、四……いや、五回は鳴り響いた。


 「……」


 ……沢山の足音が聞こえた。


 「……」


 ……床が……真っ赤に染まる。



 「 〝α01〟こちら〝フォックス03〟、2210侵入完了 」



 …………声が……聞こ……えた。



 「 これより王宮内にいる人間を抹殺します 」



 ……………………伝え……ないと…………皆に…………ああ……………………。


 「……」



 もう、何も聞こえない…………………………………………………………………………。



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