第215話 『 七色キャンドルと祝福の火 』
『……』
……大広間に静寂が訪れる。
「……準備はいいか、お前ら」
俺は軽く弦を弾いて、張り具合を確かめる。
「いつでもいいよ♪」
「準備オーケーや!」
ベースを肩に掛けたファルスが頷き、ロキがスティックを軽く叩いて同意を表する。
俺はステージの上から大広間を見渡す。
そこには沢山のギャラリーが俺達に視線を集めていた。
期待のざわめきが沈黙を伝播してこちらまで伝わってきた。
ギター良し!
マイク良し!
(準備万端だ……!)
俺はギャラリーを見下ろし、マイクの電源を入れる。
「紳士淑女の皆さーん! 初めまして、『ブラック・ロック・パレード』でーーーすっ!」
……ちな、さっき命名。
「本日はペルシャ=ペルセウス第一王女の誕生日を祝して、バースデーロックを捧げたいと思いますのでェ、皆さんも一緒に盛り上がっていきまShow!」
ワッッッ……! とギャラリーから歓声が上がる。俺の知名度もあるが、意外に盛り上がりそうで安心した。
「それでは手短にメンバー紹介をさせていただきまーす! まず、リーダーは俺、天才ギター&ボーカリスト――CO☆HEYッ!!」
大きな歓声が大広間に響き渡る。
「続いて、クール&ビューティーなイケメンベーシスト――FA♡RSッ!!」
ファルスが微笑みながらペコリとお辞儀をする。会場のお姉様片から黄色い声援が飛び交った。
「最後は、イケイケムードメーカーな変態ドラマー――† LO・KI †ッ!!」
『……』
「何やねんこの沈黙ぅ!?」
……知名度と顔面偏差値の暴力は残酷であった。
「それじゃあ、まず一曲目――『七色キャンドルと祝福の火』! 行っきまーすッ……!」
白ける前に俺はMCを終わらせ、演奏を開始する。
「……」
「……」
「……行くで」
俺達は目線で合図し、ロキがドラムスティックを弾いた。
カンッ、カンッ、カンッ
――ジャーンッ……!
一刀両断、俺のギターを皮切りにベースとドラムが軽快なリズムを奏でた。
ダァーッ! ダァーッ!
ドゥーッ、ドゥッ、ドゥッ、ドゥーッ
タタンッ、タンッ……!
キャッチーで軽快なイントロが駆け抜ける。
(……良し、いい感じだ)
出だしは誰もズレてはいない。音もいい感じに纏まっていた。
(喉の調子は――万全だ……!)
俺はギャラリーの真ん中にいるペルシャを真っ直ぐに見つめる。
『君が生まれたこの惑星を誰かが楽園と呼んだね』
『青い空と海と茂る緑を誰かが綺麗と呟いたんだ』
『だけども、卑屈な僕には全部 灰色みたいに見えてしまうんだ』
控えめなギター、静かでありながら軽やかなテンポ、ここの主役はベースとドラムだ。
『世界は全然優しくないよね、楽して生きるには難しすぎるよね』
『腹が減ったらご飯がいるし、働かなければ食パン一切れも食えやしないんだ』
『この世界は楽園なんかじゃない、生きてるだけで幸せなんて絵空事、世迷い言、この世界は楽園だなんて思えやしない』
……俺が生きてきた世界は血と争いの世界だった。
前の世界では娯楽もあまり無かったし、趣味なんて見つけられなかった。
そう、俺はずっと退屈な日常を過ごしていたんだ。
『だけども、君はいつだって馬鹿にみたいに笑っていたね』
『君は楽しいことを見つける天才で、僕を楽しませる道化師だ』
『世界でたった一人しかいない笑顔製造機って、恥ずかしくて言えないけど僕は密かに思っているよ』
姫が前よりずっと笑うようになったんだ。
俺もそうだ。今が一番楽しかった。
『言葉にするのが恥ずかしくて、だけど伝えたい想いがあるのさ』
『「出逢ってくれてありがとう」、「生まれてきてくれてありがとう」、そんな青い言葉なんて言えないさ』
『だから、バースデーソングを歌うんだ』
『七色のキャンドルにありったけを込めるのさ、それなら恥ずかしくなんかないだろう――……』
……だから、俺は感謝していたんだぜ――ペルシャ。
『赤色には愛しさを、青色には慈しみを、緑色には安らぎを込めた』
『黄色には優しさを、白色には素直さを、オレンジ色には温かさを込めた』
『一番好きな藍色は夜の空の色みたいだから、君の隣で一番星を探したいんだ』
俺と姫をこの世界に連れてきてくれてありがとう。
俺達と最初に会ってくれてありがとう。
楽しい毎日をくれてありがとう。
……俺はありったけの感謝をギターに乗せて、ペルシャに伝えた。
ギャッ、ギャッ、ギャンッ!
ドゥンッ、ドゥンッ、ドゥンッ!
タタタンッ、タタタンッ、タタタタ――タンッ……!
……最後にギターとベースとドラムを合わせるように止め、俺達の一曲目は終わりを告げた。
「一曲目、『七色キャンドルと祝福の火』でしたーーーッ!」
――ワッッッッッッッ……!
拍手。
会場を埋め尽くすような盛大な拍手が鳴り響いた。
「CO☆HEYッ! CO☆HEYッ!」
「キャーッ! FA♡RS様ーーーッ!」
「† LO・KI †も良かったぞーーーッ!」
拍手の隙間からそんな声援も聴こえてきた。
「やったね、伊墨くん♪」
「最高のギターやったで!」
「ありがとな、二人共!」
まだ二曲残っているとはいえ、各人が満足のいく演奏が出来たようである。
「まだ二曲残ってるからな、気を抜かずに最後までやろう!」
「「ああっ……!」」
……そんな訳で俺達は残り二曲も盛り上がったまま駆け抜け、ライブは大盛況で終わった。
細部内容だが、作者が歌詞を考えるのが面倒臭いという理由とバンドとかよくわからないという理由で内容は割愛させてもらう。
ライブが終わった後は、ペルシャの贈与品受け取りが取り仕切られ、最後に国王陛下とペルシャから挨拶を以て、誕生日パーティーは終わりを告げた。
……かに見えた。