第212話 『 fall in love 』
「 ある訳ないでしょっ! 12イェンで買える誕生日プレゼントなんてっ! 」
……三・四軒の店舗を回ったものの、俺のお眼鏡に叶う誕生日プレゼントは見つからなかった。
「ただ金が無いだけでしょ、お馬鹿さん!」
「……そうとも言う」
気づけば夕暮れ、これでは姫とデートをしただけで終わってしまいそうであった。
「もう、道端に生えてたこの三つ葉のクローバーでいいかな?」
「駄目に決まっているでしょ! てか、三つ葉って四つ葉ですらないんかいっ!?」
……だって、探すの面倒臭かったし。
「仕方ない、こうなったらマッサージ券しかないか……!」
「それは駄目ですッッッ……!」
「じゃあ、他に何かあるのかよ」
「……えっ」
……ぽく、ぽく、ぽく、ちーん。
「…………いや……それは無いんですが」
まあ、そりゃあ、そうなるわな。
「……わかったよ、当日までにマッサージ券以外ので考えとくよ」
「いいんですか?」
何か、姫的にはマッサージ券は絶対NGらしいしな。
「もう遅いし帰ろうぜ、腹減っちまった」
「……はい」
二人並んで街路の真ん中を歩く。
差し込む西日で伸びた影は長かった。
「……」
「……」
「……………………あの、甲平」
王宮に一番近い花屋を越えた辺りで姫が沈黙を破った。
「何かあったのか、姫」
「えっとですね、そのですね、ペルシャさんの誕生日プレゼント選びもいいんですが……いえ、やっぱり何でもありません」
言い出したかと思えば、すぐに自分で打ち切ってしまった。
「何だよ、気になるじゃん」
「何でもっ、ほんとに何でもないんですっ……!」
「……」
……そこまで強く言われたらこれ以上言及できなかった。
「……そうか」
「すみません、大きな声を出してしまって」
「いいよ……ほら、もうすぐ王宮だぜ」
もう王宮へ続く大階段が見えていた。
「……」
「……」
もうすぐこのデートが終わる。
「……」
「……」
振り返ると姫に怒られてばかりのデートであった。
「……」
……いいのか? 折角のデート、姫を不機嫌なままで終わらせてもいいのか?
「…………甲平、どうしたのですか、急に足を止めて」
王宮へ帰る足を止めて立ち尽くす俺に、姫が怪訝そうに声を掛ける。
「そういえば、言い忘れていたことがあってな」
「……言い忘れていたこと?」
俺の言葉に姫が小首を傾げる。
「本当は三日後に言おうと思ったが、当日はバタバタしていてちゃんと言えないかもしれないから今言うよ」
俺は懐に手を入れ、姫に歩み寄る。
「 ハッピーバースデー……十八歳の誕生日おめでとう 」
――そして、小包を姫に差し出した。
「――」
姫が不意を突かれたのか放心気味に目と口を開く。
「エーデルハイトで見つけて、姫に似合いそうだと思って買ったんだ」
「……私にですか?」
「姫にだ、他に誰がいるって言うんだよ」
小包の中は赤を基調とした、金糸を編み込んだ髪紐であった。
見た目のシンプルさとは裏腹に中々高値であったが、姫に一番似合いそうだったので即決で選んだプレゼントである。
「……だって、私の誕生日忘れていたんじゃ」
「馬鹿、俺が姫の誕生日を忘れたことがあるかよ」
「……っ」
俺の言葉に姫は俯き、小包を受け取った。
「……ありがとうございます……とっても嬉しいです」
「そりゃあ、良かった」
……お陰で全財産12イェンしか残っていないのだからな。喜んでくれなかったら俺が浮かばれなかった。
「大事にします……ふふっ、甲平からプレゼント貰っちゃいました」
笑顔で小包を大事そうに抱き締める姫……これだけ喜ばれると俺も嬉しくなった。
「帰りましょう、甲平……甲平からのプレゼント、早く着けてみたいですっ」
「へいへい、仰せのままに」
小走りで王宮を目指す姫。
その後ろを付いていく俺。
「そんなに急いだら転ぶぞー」
「もうっ、子供扱いしないでくださいっ」
沈む夕陽。
降りるデートの幕。
「……………………あっ」
気づく俺。
ペルシャの誕生日プレゼント、何にも決まってねェーーーーーーッ!
……ペルシャの誕生日パーティーまで――後三日。