第21話 『 助けに来たぜ 』 《G》
……何が起きた?
あまりに唐突な出来事の連続で、理解が追い付かなかった。
いきなり、巨大な植物がラビさんの上に落ちてきて、そうこうしない内にラビさんは瓦礫の中に沈んでいた。
そして、現在。
……私とトールさんは植物の蔦に縛られ、身動きが取れなくなっていた。
「……アリシアさん、何でこんなことを?」
私は拘束された状態でアリシアさんに問うた。
「憐れだなァ、今の今まで騙されていたとも知らずによォ」
「……?」
……口調が変わった? 以前までの礼儀正しいアリシアさんとは別人であった。
「僕は半年前からこの王宮にスパイとして送られた殺し屋なんです♪」
すぐにいつもの口調に戻った。
「ああ、気になるかァ? この変な喋り方がよォ」
また、口調が変わる。
「僕は元々二重人格だったんですよ♪ でも、こんな風に穏やかな人格を出したり」
「凶暴な人格を出したり変幻自在な訳だよ」
「だけど、どちら人格も共通しているのは人殺しが大好きってことなのです♪」
「だーかーらー、殺すときは肉体を共有するんだよなァ」
「お分かり戴けましたか?」
……聞いているだけで頭がおかしくなりそうであった。
「わっ、訳がわかりませんよー! 何でこんなことになってるんですかぁ!」
「……トールさん」
……トールさんは涙を流しながら錯乱していた。
「いつもの優しいアリシアさんに戻ってくださいよっ! いャだ! ャだ! 死にたくらいですよ!」
「トールさん、落ち着いてくださいっ」
「……」
駄目だ。呂律も回らなくなってきている。
「お願いします! 離してくだひゃい! お願いし
「 喰え、ハエトリソウ 」
――トールさんの腰から上が無くなった。
「……………………えっ?」
「ギャーギャーギャーギャーうるせェんだよ、クソアマァ」
――ブシャーーーーーッ……! 残った下半身から鮮血が噴水のように飛び出した。
壁に、床に、私に、トールさんの鮮血が飛び散り.一瞬にして周囲が真っ赤に染まった。
ゴリッ ゴリッ ゴリッ
ゴリッ ゴリッ
ゴリッ ゴリッ ゴリッ
ゴリッ ゴリッ
何か変な音がするなと頭を上げると、巨大なハエトリソウが咀嚼をしていた。
――ピュッ……。咀嚼していたハエトリソウが何かを吐き出した。
「……あっ……ぁっ」
目 小腸 肉 血 脳
肺 肋骨 髪血 乳房 肩 耳
鼻 血 目 髪 胸骨 心臓
小腸 血 歯 大腸 歯
耳 十二指腸 胃 肺
肉 舌 髪 膵臓 小腸
食道 脊髄 血 肝臓
脊髄 髪 肉 血 乳房
血 肩 脳 髄液 歯
……それはグチャグチャになったトールさんの上半身であった。
「――ぅっ」
嘔吐。
私は堪らずその場で胃の中のものを吐き出した。
嘔吐のショックで胃が軋むように痛かった。
頭も痛い、ぐわんぐわんと脳みそが振り回されているような痛みであった。
夢。
現実。
最早、どちらかもわからなくなる程に私は動揺していた。
(――死にたくない)
……脳裏を過るそんな六文字。
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたく
(――ないッッッ!)
――私は身体を必死に捩って暴れた。
しかし、身体に絡み付いた蔓はビクともしなかった。
「逃げようとしても無駄ですよ。非力な貴女に逃げられる程、僕も甘くはないのです」
……既にハエトリソウの頭はこちらを向いていた。
「俺の素顔を知ったお前には死んでもらうぜ、この女みてーによ」
「……っ」
私はついつい見てしまう床に横たわるトールさんの下半身を、グチャグチャになってしまった上半身を……。
「……たす……けて」
私は絞り出すように、掠れた声で助けを求めた。
「命乞いをしても無駄ですよ。諦めてください、貴女はここで僕に殺される運命なのですから♪」
「……助けて」
――パカッ……。ハエトリソウが口を開いた。
「往生際が悪ィんだよ! 食べな、ハエトリソウッ……!」
ハエトリソウの巨大な口が私に迫る。
「 助けて! 甲平ーーーーーーーーーーッ!!! 」
……風が吹く。
……白刃が空を切る。
――ハエトリソウと私の身体に絡み付いていた蔓が切り裂かれた。
蔓が切り裂かれ、私の身体が宙へ投げ出される。
そんな私の身体を何者かが受け止めた。
「 助けに来たぜ……! 」
……伊墨甲平が私を助けに来てくれたのだ。




