第211話 『 date in fall 』
……ひらりひらり、紅葉が舞い落ちる。
「……紅葉、もうそんな季節か」
「良いですね、秋好きなんですよ」
俺の隣を歩く姫が嬉しそうに舞い落ちる紅葉を掴まえた。
ちなみに、今日の姫は栗色のカツラを被り、ついでに伊達眼鏡も付けていた……ペルシャと瓜二つの姫が王都へ下りたら大騒ぎなるのでその為の変装である。
「私の名前も秋生まれが由来で付けられたんですよ」
「だったな、そういえば誕生日も近かったよな」
過去に何度か姫の誕生日を祝っているので心当たりはあった。たしか……。
「はい、後三日後には十八になります」
「ふーん、三日後かぁ」
「……」
「……」
「「――あああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁッッッ……!!!」」
気づく俺と姫。
何事かとざわめく通行人。
「姫の」
「誕生日」
「ペルシャと」
「一緒です!?」
「何で二人交互に喋ってんのっ!?」
※)ツッコミ役が不在でしたので、通行人のジャックさん(37歳、独身)に突っ込んでいただきました。
「……まさか、見た目だけじゃなくて誕生日と歳も一緒とは驚きましたね」
「まあ、バストだけは別物だけどな」
「えっ、何か言いましたか?」
「まあ! バストだけは! 別物だけど! な!」
「言い直す所か大声で言ってんじゃねェーーーーーッ!」
――姫のドロップキックが俺の顔面に炸裂し、堪らず俺は地面を転がった。
しかし、俺空中三回転して、華麗に着地した。
「……やりますね、甲平」
つぅー……。俺の鼻から真っ赤な血が滴り落ちる。
「姫こそ、ノーパンでドロップキックとか並の胆力じゃ出来ないぜ」
……興奮のあまりに鼻血が出ちまったぜ。
「――っ! 何勝手に見ているのですか!?」
「いや、そっちが勝手に見せたじゃん!」
「……っ!?」
俺はただ蹴られて、転がって、空中三回転して、一秒前の絶景を脳内に永久保存しただけであった。それなのに責められるのはお門違いであろう。
「別にさぁ! 俺だって姫のPiーーーッ!なんて見たくないよ! だけど、仕方ないじゃん! 姫がPiーーーッ!を自分から見せたんだよ! Piーーーッ!を見てしまったのは不可抗力じゃん!」
「おま、おまままっ、Piーーーッ!とか大声で言わないでくださいっ!?」
下品な言葉に慣れていないのか、姫は顔を真っ赤にしながら抗議する。
「わかりました! 私が悪かったので少し声のトーンを下げてください!」
周囲に集まる視線に耐えられなかったのか、遂に姫の方が折れた。
下ネタ攻めは意外に姫に有効のようである、これはいい情報を得た。
しかし、本気で嫌がっている姫に執拗に言葉攻めするのも人として終わっているような気がするので、この話は打ち切ってデートを再開することにした。
「悪い悪い、少しばかりテンションが上がりすぎてしまった……気を取り直してペルシャの誕生日プレゼントでも買いに行こうか」
「そうですね、ではアクセサリーなどを見てみましょうか」
……かなり脱線したものの、俺と姫は近傍にある宝石と装飾品の店に入ることにした。
……………………。
…………。
……。
「……これは」
……店内に入った俺は低い声を漏らす。
「高過ぎないか?」
そう、扉を開いて進んだ俺達の前に並ぶウィンドウの中の宝石類とその値札。
問題はその値札であった。
「まあ、良いものは得てして高価なものですので」
「……だが、これはあまりにも」
一、十、百、千、万、十万、ひゃく……うむ、0の数だけで頭が痛くなってきたぞ。
「ところで、甲平の予算はいかほどですか?」
「12イェン」
「……はっ?」
「12イェン」
「……」
……12イェン=うめえ棒×1(税込)。
「どうしてそんなにお金が無いんですか!?」
「別にそんな無駄遣いしてねェよ! ただ旨い飯を食って! 休みの日に賭博したり、キャバクラ行ったり、朝まで酒呑んだり、いい感じの服や髪留めを買ったり、間違って庭を焼き畑にしたりして給料を引かれた! ただそれだけなのに!」
「……」
悔しそうに拳を握り締める俺に姫が冷ややかな視線を送る。
「仕方ない! こうなったらマッサージ券でやり過ごすしかねェ!」
「マッサージ券……マッサージィ!?」
ほわん、ほわん、ほわーん――……。
「ぐへへへ、お客さん、だいぶ凝ってますねぇ」
「いやーん♡ 甲平くん、そんなとこ触っちゃ駄目だよぅ♡」
「ぐへへへ、良いではないか、良いではないか」
「らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ♡」
ほわん、ほわん、ほわーん――……。
「――だっ、駄目に決まっているでしょっ! このケダモノォッ……!」
「何でそんな怒ってんのッ!?」
……よくわからないが姫的にはマッサージ券はNGのようであった。
「そんなに言うなら姫は何をプレゼントするつもりだよ」
異性の俺より姫の方がペルシャが喜ぶ物がわかっていそうなので意見を訊いてみる。
「そうですね、私はこのネックレスにしようと思います」
そう言って姫は自分の首に掛けているネックレスを自信満々に見せつける。
それは透明感のある碧い水晶の中に、橙色のチューリップを閉じ込めたデザインのネックレスであった。
「おおー、ペアネックレスか」
「どうですかっ、中々可愛らしいデザインでしょう。それに橙色のチューリップは花言葉で永遠の友情を意味するんですよ!」
「……おっ、おう」
……何か重くない?
「まあ、いいんじゃないか」
特に代替案が思い付かなかったので、俺は取り敢えず肯定した。
「では、次は甲平のプレゼントを選びに行きましょうか」
……そんな訳で、俺と姫は店を出て何かいい感じの誕生日プレゼントを探しに行くのであった。