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 第208話 『 国境線の戦い 』




 ――ガタンッ、ガタンッ……。


 ……俺とファルスは列車に揺られながら、エーデルハイト共和国からペルセウス王国へと帰国していた。


 「……」

 「……」


 無言で車窓からの景色を眺める俺とファルス。

 俺とファルスは気不味くなるような間柄ではないが、無理に話す話題も無かったので沈黙を継続していた。

 ここにセシルさんが居れば、何か取り留めのない世間話にでも花を咲かせていたのかもしれないが生憎セシルさんはアスモデウス邸に残してきた為、ここには俺とファルスと他の乗客しか乗っていなかった。

 ちなみにセシルさんをアスモデウス邸に残したのには理由があり、それは移動の手続きであった。

 現在、エーデルハイト共和国に所属しているアスモデウス家をペルセウス王国へと鞍替えするのには、政治的にも大規模な手続き等が必要らしく、それには何週間も時間が掛かるそうであった。

 無理もない。〝七凶ななまがつの血族〟を放棄して、隣国にその所有権を譲るなど国からすれば甚大過ぎる損害でしかないのだ。


 (……共和国からすれば軍事力の九割をウチに持ってかれるんだ、黙ってられないだろうな)


 それでも、アスモデウス家が何処に所属し、何処に土地を持とうと誰にもそれを妨げる権利は無かった。


 (今の当主はセシルさんだからな、アスモデウス家の指針はセシルさんが握っている)


 その為に俺とセシルさんはアスモデウス邸に帰省し、そして当主継承戦を勝ち残ったのだ。


 (……これでペルセウス王国の守りはより磐石のものとなるな)


 王国最強戦力――〝王下十二臣おうかじゅうにしん〟。


 〝七凶の血族〟が一角――アスモデウス家。


 ……この二つが揃えば世界とさえも戦えてしまえそうな気がした。


 「……何か楽しいことでもあったのかい?」


 突然、対面に座っていたファルスが声を掛けてきた。


 「随分と嬉しそうな顔をしているじゃないか」

 「顔に出てたか?」

 「別に、何となくそう思っただけさ」


 ……相変わらず常識や理屈を無視した奴だな。


 「合ってるよ、勝利の後ってのは気分が良いものだからな」

 「確かに君は凄いことをしたからね、僕からも称賛の言葉を送らせてもらうよ」


 ファルスはいつも通りの綺麗な顔で微笑んでくれた。


 「だけど、君の本当の実力はこんなものではないんだろ」

 「……何だよ急に」


 ファルスの遠回しな物言いに俺はその言葉の問い質す。


 「僕にはわかるのさ……伊墨くんの限界はこんなものではない」


 「……」


 「僕が好きになった君は誰よりも強く、大きくなれる」


 珍しく真剣味を帯びた瞳と声に俺は否定の言葉を封じられる。


 「それはセシルさんやオルフェウス従事長よりもか?」


 「そうだね、僕のこの心臓に賭けて保証するよ」


 どうしてファルスが急に真剣な話をしたのかはよくわからなかった。

 その言葉の真意も正否も俺にはわからなかった。


 「嬉しい買い被り、ありがとな」


 「どういたしまして♪」


 俺は素直にファルスの言葉を受け入れた。コイツは変人だが、俺にとっては〝良い奴〟だったからだ。


 「……さて、そろそろ国境線かな」


 ファルスの言うように、車窓からは国境線に設けられた検閲所が見えた……五分もすれば列車が止まり、客も降ろされるであろう。

 検閲所を抜けると近くに駅がある為、そこで乗り継げば王都まで一直線であった。


 「あっ、そういえばお土産買うの忘れて



 ――銃声が俺の声を遮った。



 「――」


 ……ファルスが俯せで倒れる。


 「……………………ファルス?」


 「……」


 ファルスは何も答えない。ただ、物も言わずに側頭部から鮮血を流すだけであった。


 「何だよ、こ



 ――何処からか飛来した銃弾が俺の額に炸裂した。



 鮮血が飛び散る。


 「……」


 俺は座席に倒れ込む。


 「……」



 ……ガタンッ……ガタンッ、と列車が揺れる音だけが車内に小さく鳴り響いた。




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