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 第205話 『 完全封殺 』



 「――諦めるなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ……!!!」


 「「 !!? 」」


 ……アスモデウス邸に獣に似た怒号が響き渡る。


 一同の視線が一ヶ所に集まった。


 「俺の心配なんかするな! 俺は大丈夫だから! 俺は強いから! 絶対に負けないからっ……!」


 甲平は吼える。

 空気が震える。


 「信じてくれ! 揺らぐな! この勝負は俺達が勝つ……!」


 「……甲くん」


 セシルの呟きを無線機が拾う。


 「……っ」


 ……しまった! 無線機が音を拾ってしまったか!


 僕はすぐに甲平から発する声をねじ曲げて遮断するも時既に遅かった。


 「……すみません、私ったら弱気になってしまいましたね」


 その声はけっして大きな声ではなかった。

 しかし、力強かった。不安や恐怖の色なんて見当たらなかった。


 (……台無しだ、やってくれたね――甲平)


 僕は心中で毒づく。


 「だって約束してくれたんです、思いっきり笑わせてくれるって」


 ――完全復活。



 「 だから、今は笑うときですよね 」



 ……そこにはこの継承戦最大の強敵――セシル=アスモデウスがいた。


 「……悪いけど、最後に笑うのは僕だよ」


 僕は拳銃を抜き、目を瞑ったまま立ち尽くす甲平に指向する。


 「君は何も出来やしない、所詮は口だけのペテン師だ」


 「……」


 そして、一寸の迷いなく引き金を引いた。


 ……いや、待て。


 脳裏を過るのは一つの違和感。


 ……何故、彼はセシルとの会話を聞き取れたんだ。


 彼に向かう音は全てねじ曲げられ、外側へ弾かれるようになっていた。


 ……それなのに甲平は僕とセシルの会話に割り込んできた。



 「 見えてるぜ 」



 ――甲平が迫り来る弾丸を小太刀で弾いた。


 「――っ」


 …… 違和感は確信に変わった。


 「……見えているのかい?」


 「さっきも言ったろ、見えてるってな」


 ……ハッタリ、ではない。事実、甲平は弾丸を見切って小太刀で弾いて見せたのだ。

 彼がどのような手段で見えているのかはわからないが、彼には視覚封じも超聴覚封じも通じていなかった。


 「行くよ、アマリリス」


 「――御意」


 最早、油断の余地はない。我が騎士ナイト、アマリリスと共に全力で叩きのめす。


 (……アマリリスの〝奇跡スキル〟――〝ハンド弾丸バレットを〟は触れたものを銃弾の速さで飛ばす力)


 その質量には制限はなく、彼女にかかれば小石は銃弾に大きな岩は大砲になり得た。


 「――〝ハンド弾丸バレットを〟」


 アマリリスの両手には幾つもの豆粒サイズの黒い鉄球を握り締める。

 そして、勢いよくその鉄球を甲平目掛けて投げ込んだ

 黒い鉄球は真っ直ぐに甲平へ降り注ぐ、


 (アマリリスにかかればただのビーダマも散弾銃に変わる……!)


 甲平に迫る無数の鉄球、弾くこともかわすことも難しいであろう。


 「さあ、斬るかい? それともかわすかな?」


 「どっちでもねェよっ……!」



 ――ガキィンッ……! 甲平は真っ直ぐに飛び出し、衝突した鉄球を弾き飛ばした。



 「――肉体の硬化かっ!」


 僕は甲平の潜在能力に戦慄した。

 分身に、超聴力に、硬化……彼はどれだけの力を隠し持っているのであろうか。


 「アマリリスッ!」

 「わかってますっ……!」


 こちらへ迫り来る甲平にアマリリスがナイフを両手に迎え撃つ。

 アマリリスは自身の肩を軽く叩いた。次の瞬間――……。



 ――アマリリスは目にも止まらぬ速さで加速し、甲平に刃を打ち込んだ。



 そう、彼女の加速できる対象は無機物に限らず自分自身にも有効であったのだ。


 (……だが、あの硬度を突破するには些か火力不足かな)


 「……何かしたか?」


 瞬間五連撃を受けたのにも甲平は至って平然としていた。


 「アマリリス――退け」


 「おっ、次はあんたが相手をしてくれんのか――なっ!」


 ……この技は品が無いからあまり使いたくはなかったが、甲平は手段を選んでいられる相手でもなかった。


 「これなら硬さは関係ないだろう?」



 ――ぎゅるっ……! 僕は〝歪曲な愛〟で空間をねじ曲げ、甲平の右腕をねじ切った。



 「――っ! 痛ってェなァッ……!」


 甲平は一瞬だけ苦痛で顔を歪めるも、すぐに右腕を再生させた。


 「……驚いたよ、再生能力まであるとはね」


 これは素直な感想だ。彼の多芸さには今日一日驚かされるばかりであった。


 (……何とか硬化の攻略は出来たがこれでは決め手に欠けるね)


 再生されるのであっては、時間が経てば経つほどにじり貧になるであろう。


 (そもそも光や音、空気の流れもねじ曲げられた状態で僕とアマリリスを捉えている説明もまだ出来ていない)


 視覚・聴覚・嗅覚・触覚……それらを外部から断絶されていて戦える筈がなかった。


 (……逆に考えれば再び甲平の〝目〟から姿を眩ませてしまえば形勢はこちらが有利になる)


 僕は考える。

 周囲を見渡して、でき得る限り多くの情報を収集した。


 天気は快晴。


 セシルは依然として暗闇の中。


 周囲には僕らの試合を観戦する親族達。


 既に臨戦態勢に入っている甲平。


 セシルの〝奇跡スキル〟は自身と指定したものの距離を決定する力と万物を惹き付ける力。


 甲平の能力は他にもあるのかもしれないが分身・超聴力・硬化・再生。


 「……アマリリス、少し時間を稼いでくれ」

 「御意」


 僕はアマリリスと甲平を戦闘させ、考える時間を稼ぐ。


 「……」


 与えられた情報ピースでパズルのように論理ロジックを組み立て、崩したり、再び組み立て直したりを繰り返す。


 「……観戦者……分身…………」


 アマリリスが銃弾の速度で駆け回りながら甲平に斬りかかり、甲平は硬化でそれらを凌ぐ。


 「……第二セカンドアイ……情報共有ダウンロード…………」


 ――甲平の手がアマリリスの手首を掴み、動きを封じた。


 「――っ!」


 「掴まえたァッ……!」


 「…………そうか」


 ――閃く。その同時。



 ……アマリリスが殴り飛ばされた。



 「――かはっ!」


 アマリリスは堪らず地面を転がり、力なく横たわる。


 「……」


 「……時間稼ぎありがとう」


 僕は既に地面を転がり気を失っているアマリリスに労いの言葉を投げ掛け、甲平の方へと向き直った。


 「後は僕一人で十分だ」


 「言ってくれるじゃねェか」


 狂犬のような戦意で笑う甲平と再び対峙する。


 「不思議だったんだ……何も感じ取れない君がまともに戦えていることに」


 僕は推理し、答えにたどり着いていた。



 「 あるんだろ、第二セカンドアイが 」



   歪   曲   な   愛



 ――僕は観客席とフィールド境界線にある光と音をねじ曲げた。


 「君は観客席に分身を隠し、そこから得た視覚情報・音声情報を情報共有ダウンロードして戦っていたんだ」


 だがら、観客席をこのゲームから隔離した。これで甲平の第二セカンドアイは機能しなくなったのだ。


 「どうだい、これであっているのかな?」


 「……」


 僕の確認の言葉に甲平は答えなかった。


 「……………………どうやら正解だったみたいだね」


 「……」


 当然だ。

 答えられる筈がなかった。


 「……」



 ……伊墨甲平は既に何も聞こえていなかった。


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