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 第204話 『 諦めるな 』



挿絵(By みてみん)


 ――俺は暗闇の中にいた。


 ……しかし、俺の〝眼〟にはガーウィンの姿が映っていた。


 「悪いな、俺には見えているんだよ……ガーウィン=アスモデウス」


 既に俺の耳は覚えていた。奴の心音を、呼吸の音を……。


 (……俺の数歩先にはガーウィンがいる)


 俺は自分が向いている方向、ガーウィンの立ち位置、セシルさんの立ち位置から周囲の状況を脳内に描き出す。


 (……俺の横には白線が走っている……その先にはセシルさんがいる……心臓の音、凄く不安そうだっ)


 よし、状況は大体把握できた。

 時間が無いことも、俺が今すべきことも、全部。


 「さあ、助太刀させてもらうぜっ、セシルさんをなっ……!」


 「阻ませてもらうよ、僕の〝歪曲ディストーション〟でね♪」



 ……そして、俺はガーウィンに飛び掛かった。







 ――甲平が真っ正面から飛び掛かる。


 (……驚いたね、まさか音だけで僕の姿を捉えるとは)


 流石はここまで価値残ってきただけはあった。

 しかし、やはりこの勝負は簡単には覆らない。

 甲平が僕に飛び掛かり、右手にある無線機に手を伸ばす。


 (――狙いは無線機、か。恐らく無線機のノイズを目印にしたのかな)


 僕は甲平の手を弾き、後ろへ跳んで距離を取る。


 「確かに君の耳は素晴らしい……だが、どんなに優れた耳といえど」



  歪   曲   な   愛



 「――っ!」


 甲平の足が止まる。


 「 君の周りの音を全てねじ曲げてまえばもう僕を追うことはできない 」


 甲平は動けない。当然だ、唯一の道筋を断たれたのだ、動ける筈がなかった。


 「まあ、この声も聴こえてはいないんだろうけどね♪」


 「……」


 暗闇の中、全ての音を奪われ、下手に動けばラインを越え敗北してしまう、甲平には最早為す術など残されていなかった。


 「さて、邪魔者も片付けたことだし、次はセシルだ」


 僕は甲平に背を向け、意識をセシルへ向ける。

 とはいえ、セシルの攻略も既に大方終わっていた。

 試合開始と同時に光と音を奪い、全ての情報を断絶し、セシルを孤立させる。

 情報を遮断したならばすぐにタイムアウトを取り、無敵状態になる。

 フィールドには〝万誘引力アトラクション・ラブ〟によって、圧縮・固形化した固形二酸化炭素ドライアイスをばら蒔くことにより、セシルが空気を引き寄せると二酸化炭素中毒になるように仕向ける。

 そして、無線機によって彼女とコミュニケーションを取ることによって更に不安や恐怖を煽る。

 光と音を遮られ、高濃度の二酸化炭素に包囲され、頼みの綱である〝愛隣憎遠ラブアンドヘイト〟も通用しない……セシルは確実に精神を疲弊させていた。


 (……後はそこを揺さぶれば、彼女の精神をへし折ることだって不可能ではない)


 この極限下で最後に頼れるのは――伊墨甲平ナイトだけだ。


 「――これから伊墨甲平を徹底的に破壊する」


 「……っ!」


 僕は無線機越しにセシルに語り掛ける。


 「彼は今の君と同じ状況にある。そして、君が戦いを降りるまで徹底的に破壊し続ける」


 「――」


 ……僕には解ってしまったんだ。


 君と伊墨甲平には主人マスター騎士ナイトを超えた絆があることに……。


 (だからこそそれを利用させてもらうよ)


 セシルは非情に見えて心を許した相手には必要以上に執心してしまう嫌いがあった。


 「さあ、選べ……迷えば迷う程に取り返しが付かなくなるよ」


 「……」


 ――勝った。


 セシル=アスモデウスは伊墨甲平を見捨てられない。

 セシル=アスモデウスはこの現状を打開できない。


 この勝負、ガーウィン=アスモデウスの完全勝




 「 諦めるなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ……!!! 」




 それは天雲裂くような、


 遥か彼方まで響き渡る、



 ……獣の咆哮であった。


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