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 第203話 『 闇の外側、忍の奮闘 』



 「……何だ、ありゃあ?」


 ……俺はセシルさんを中心に展開される真っ黒な空間に困惑した。


 (それより何であいつは五角形の外に出ているんだ?)


 俺の視線の先には、つい先程までセシルさんと対峙していたガーウィンが悠然と無線機に話し掛けていた。


 「五角形の外に出たらゲームオーバーなんじゃないのか?」



 「 何も問題はありませんよ 」



 ……そんな俺の疑問に答えたのはナタージャであった。


 「ガーウィンお坊ちゃんは現在タイムアウトを取られているので、五角形の外に出ても失格にはなりません」


 「タイムアウト!?」


 ナタージャの回答に俺はすっとんきょうな声を漏らす。


 「そんなルールがあるなんて聞いてな……あっ」


 俺は抗議しようとしたがすぐに気づく。


 ――このゲームは各チーム一つだけ追加ルールを作ることを許されることに……。


 「まさか、ガーウィンが定めた追加ルールって」

 「はい、先程も申し上げたように各チーム、時間無制限のタイムアウトを取ることが出来ます」

 「……っ!」


 ……これこそがセシルさんの〝愛隣憎遠ラブアンドヘイト〟対策であった。


 セシルさんがどんなにガーウィンを場外へ押し出そうとも、タイムアウト中であればゲームは止まっているので失格にはならないのだ。

 そして、暗闇の中にいるセシルさんは外の状況はわからないし、恐らくこちらの声も届いてはいなかった。

 光も音も届かない状況では身動きすらとれないであろう。

 そして、あの無線機……恐らくガーウィンはあれで暗闇の中のセシルさんとコミュニケーションを取っているようであった。


 (……目の前で会話をしているのに場外へ押し出せない。セシルさんは今、困惑している筈だ)


 それに試合開始直前にガーウィンがフィールドに設置した白い固形物……どういう仕組みかはわからないが白い煙のようなものを噴き出していた。


 (俺はどうすればいい? 何が出来る?)


 今の俺がすべきことはセシルさんに現状を伝えることであるが、場外から声が届かなければコミュニケーションの取りようがなかった。

 ガーウィンから無線機を奪うか? いや、もっと簡単な手段を思い付く。 


 「――ナタージャ、俺達もタイムアウトを取らせてくれ」


 そう、奴等の策をこちらも利用すればよかったのだ。

 タイムアウトを取れば俺もフィールド内に入ることが出来る。そうすればセシルさんに現状を伝えることも容易かった。


 「 なりません 」


 ……えっ?


 ナタージャの返答に俺は一瞬思考停止した。


 「どうしてだよっ」


 「タイムアウトを取ることが出来るのはゲーム開始より一分以内……既に二分以上経過されておりますがゆえ」


 「……っ!?」


 ――時間制限付きの追加ルール。


 (……やられた! 既に対策済みだってのかよっ!)


 これでは一方的にタイムアウトを取られ、奴等の思うがままにゲームを進行されてしまう他なかった。


 (――ならば残された手段は一つだけだ……!)


 俺はガーウィンとその従者ナイトの方を睨み付ける。



 ――力付くで無線機を奪い取る……!



 あの無線機こそが唯一セシルさんと俺を繋ぐことの出来る頼みの綱であった。


 (そして、俺達が定めた追加ルールは――場外戦闘の可!)


 遠慮する必要はない! 思う存分に戦える!



     縮     地



 地面が弾け飛ぶ。

 風が吹く。


 俺は一瞬にしてガーウィンとの間合いを制圧し


 「――」 



 ……嫌な予感がした。



 「――っ!」


 ――俺は自分の直感に従い、地面を削りながら急停止した。


 「……来ないのかい? 僕は別に構わないけど」


 「……行かねェよ」


 悠然と待ち受けるガーウィンの誘いに俺は乗らなかった。


 「 だって、俺の目の前にあるのはお前じゃなくて――フィールドと場外を隔てるラインなんだからな 」


 ……そう、俺の後数歩先にはセシルさんが閉じ込められているフィールドがあった。


 「残念だよ、二度は引っ掛からないか」

 「あんたの能力には前のゲームで世話になったからな」


 ガーウィンの視覚誤認をもってすれば俺をフィールドに進入させて、ルール違反でゲームオーバーにすることだって可能であった。


 「ならば、どうやって僕までたどり着こうというのかい?」

 「……」


 ガーウィンの言う通り、奴に視覚誤認の力がある限り、俺は本体を捉えることが出来なかった。

 しかし、指をくわえて好機を窺っては勝てる勝負も勝つことが出来ないであろう。


 「……目で追うから惑わされるんだ」


 俺は確かに常人よりずっと目が良いが、忍の中では並みであった。


 「だから、もう目で追うのはやめる」



 ――俺は瞼を閉じる。



 俺の視力は忍の中では並みであるが、聴力においては忍の中でも群を抜いていた。


 「……」


 ――ドクンッ……ドクンッ……。


 「……」


 ――ドクンッ……ドクンッ……。


 俺は瞼を閉じたまま明後日の方向へと振り返る。



 「 鬼さん、見ィつけた……! 」



 ……そして、俺は凶暴に笑んだ。


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