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 第202話 『 闇の中の死闘 』



挿絵(By みてみん)


 ……私は暗闇の中にいた。


 (……何も見えない)


 だけではなかった。


 「……何も、聞こえない?」


 自分の声や足音は聞こえるのに、風の音も外野の話し声も聞こえなかった。


 「……これもガーウィンお兄様の能力ちから?」



 『 御名答 』



 ――ガーウィンお兄様の声が暗闇の向こう側から聞こえた。


 「僕の〝奇跡スキル〟はあらゆるものをねじ曲げる。そう――ベクトルも音も、そして光もね」


 「あらゆるものをねじ曲げる力っ……!」


 ……ガーウィンお兄様の言葉によって私は現状を理解した。


 音は振動が空気を伝播することによって伝わり、人は光の反射によって生まれた像を捉えることで物を見ることが出来る。

 つまり、私に向かう空気の振動をねじ曲げてしまえば何も聞こえないし、私に向かう光を手前で屈折させてしまえば何も見ることが出来なかった。


 「ならば、どうして私はお兄様と会話が出来ているのですか?」


 「それは簡単なことだよ」


 やはり問題なく会話が出来ている。私へ向かう振動を全て遮断しているのであれば、ガーウィンお兄様の声も届かない筈であった。


 「遮断しているのは君と僕のいる空間の外の音のみ……ということだよ」


 「そういうことでしたかっ」


 今、私とガーウィンお兄様は対峙していて、遮断しているのは私達より外側の音だけ、ということなのであろう。


 「……なるほど」


 ……ならば話は早かった。


 「――でしたら、お兄様を場外に押し出してしまえばいいだけですよね……!」


 何を企んでいたのかは知らないがゲームにはガーウィンお兄様が出場しているようであった。

 そして、このゲームは対戦相手を場外へ押し出してしまえば勝利を収めることができた。


 ――私の〝奇跡スキル〟は指定したものと私の距離を決定する力。



  愛   隣   憎   遠



 「 対象は――半径30メートル以内にいる全ての人間です……! 」


 その瞬間、私の周囲30メートル以内の人間が五角形の外へと押し出される。


 「……」


 暗闇の中、私は勝利を確信した。


 「……」


 さあ、早くコールを……。勝利のコールが聞きたい。


 「……」


 何をしているのですか、ナタージャさん。 

 早く決着のコールをしてください。


 早く――……。




 『 ゲームはまだ終わってはいないよ 』




 ――暗闇の中に響いたのはガーウィンお兄様の声であった。


 「――っ!」


 ……訳がわからなかった。


 (……〝奇跡スキル〟は確かに発動している)


 それなのにガーウィンお兄様は私の目の前にいるし、ゲームはまだ終わっていなかった。


 「折角の最終決戦、あっさり終わってはつまらないだろう?」

 「……」


 ――考えろ、セシル=アスモデウス!


 私は思考する。分析は私の得意分野、ガーウィンお兄様の策が読めない筈がない。


 「考え事かい――セシル」


 暗闇の中、ガーウィンお兄様の声だけが響き渡る。


 「だけど、結論を出すなら早い方がいいよ」


 ……嫌な予感がした。


 そして、それは突然に訪れる。


 「……息が……出来ない?」


 ――否、私の下へ空気が流れて来なくなったのだ。


 (……ガーウィンお兄様の〝奇跡スキル〟は〝歪曲ディストーション〟。そこから察するにねじ曲げたんだ――空気の流れをっ……!?)


 ガーウィンお兄様は私への酸素の供給を妨げて窒息させようとしていた。


 (――だったら……)



  愛   隣   憎   遠



 ……対象は――半径100メートル以内にある空気っ!!!


 私は半径100メートル以内にある空気を、私の周囲まで引き寄せる。


 (これなら空気を確保でき



 ――私は堪らず地面に膝を付いた。



 突如訪れたのだ頭痛と目眩が……。


 (……私が空気を引き寄せたと同時に発症したということは原因は――空気の中にあるっ!?)


 私は息を止め、頭痛で回らない思考の中、真実を捻り出す。


 (症状的に見て、一酸化炭素か二酸化炭素の中毒症状ですかね?)


 結論に至るまで約十秒、私はすぐに〝愛隣憎遠ラブアンドヘイト〟でそれらを遠ざける。


 「……はあっ……はあっ」


 止めていた息を開放し呼吸を再開する。

 大丈夫だ。この空気は吸っても問題なかった。


 「流石は我が妹、分析が早いね」


 ガーウィンお兄様が暗闇の中から称賛を送る。


 「君の分析通り、君が吸っていたのは高濃度の二酸化炭素だよ」


 上から目線、ガーウィンお兄様は圧倒的な余裕と傲慢さが窺えた。


 「よく凌いだと言いたい所だけど僕からの攻撃はこれで終わりではないよ」


 「……」


 嫌な感じがした。まるで喉元にナイフを突き立てられているような冷たい悪寒が走った。


 「さて、何手目まで持つかな?」


 「望むところですわっ」


 何も見えない。

 ガーウィンお兄様の声しか聞こえない。

 状況は暗澹あんたん、何が起こっていて、これから何が迫ってくるのかもわからない戦い。



 ……私の精神は徐々に蝕まれていた。


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