第198話 『 前哨戦 』
「……」
「……来ないのかい、僕はいつでも構わないよ」
……俺とガーウィンは対峙する。
「……セシルさん、行ってもいいですか?」
俺は念の為にセシルさんに確認した。
「やってください、思いっきり」
「御意っ!」
許可は得た。後は主の意に応えるだけであった。
俺はガーウィンと対峙し、廊下を強く踏み締める。
「 〝縮地〟 」
最速でガーウィンのハチマキを獲る。それが今の最善の選択だ。
狙うはガーウィンの頭に巻かれたハチマキ。
一直線に最速で獲る。
……そして、セシルさんを勝利に導く。
「行くぞっ! ガーウィンンンッッッ……!」
――俺は悠然と立つガーウィンに飛び掛かった。
「良い速さだ」
ガーウィンは歌うように笑う。
「 だけど、そこは窓だよ 」
――パチンッ……。指を鳴らした音が聞こえた。
「――なっ……にィッ!?」
……俺の目の前には窓があった。
(これは――……)
止まれ……ねェ……!
「決勝戦でまた会おう、甲平」
「……クソッたれ」
――衝突。俺は窓ガラスに身を投げ出し、粉々に粉砕した。
……すみません、セシルさん。
……どうやら、決着は明日まで先送りのようです。
破片が飛び散る。
俺の体が外へ投げ出される。
「――甲くんっ!」
俺は三階から落下する。
割れた破片がキラキラと煌めく。
(……明日……絶対に雪辱を晴らしてやるよ)
……そして、T.セシルは第4ゲームを脱落した。
獲得ハチマキ――二本。
総 点数――116000pt。
……俺達は第二位で決勝戦まで駒を進めた。
……………………。
…………。
……。
「……すみません、セシルさん」
……第4ゲーム終了後、俺はセシルさんの下へ戻り、開口一番頭を下げた。
「俺の力不足でガーウィンを倒すことが出来ませんでしたっ」
このゲームでガーウィンを倒し、残った参加者を一名上位に押し上げれば、決勝戦は楽に戦えたであろう。
「そんな謝らないでください、決勝戦まで駒を進められただけで充分ですわ」
セシルさんは俺を責めずにいつも通りの落ち着いた笑みを浮かべる。
「それに私はショートケーキの苺は最後に食べる派ですから♪」
「……セシルさん」
……なんて心が広いんだぁ!
俺は心中で感涙を流す。
しかし、女の子に励まされるのも格好悪いので俺も黙ってはいられない。
「俺、明日の決勝戦もっと頑張りますから! 頑張って勝ってセシルさんに勝利をプレゼントします!」
「……甲くん」
結果に納得していなくても明日に繋げられた。明日はやってくるのだ。
そんな現実を前に出来ることは一つしかなかった。
――戦って勝つ。
「頼りにしてますよ、すっっっごく……♪」
「はい! お任せあれ!」
明日が大事なのだ。
明日を勝ち残れなければこの五日間は泡沫に帰してしまうであろう。
(……首を洗って待っていやがれ、ガーウィン=アスモデウス)
立ちはだかる強敵。
やる気は上々。
( 最後に勝つのは俺達だ……! )
――八月十五日。
……第十代目当主継承戦、最後の戦いはすぐそこまで迫っていた。