第197話 『 高みの見物、低みの死闘 』
「……」
「……っ」
「……♪」
……俺とロザリンドとガーウィンが対峙する。
「……観戦だって?」
「そうだよ、ただの観戦だ」
いぶかしむロザリンドにガーウィンは悠然と微笑む。
「君達の中から勝ち残った方と戦わせてもらおうかね」
「高みの見物ってか」
「そうだよ、悪くない話だと思うけどね」
「……」
……確かに悪くない話だ。
ガーウィンの点数は80000pt……あくまでこのゲーム中に点数を稼いでいないなら、だが。
セシルさんとロザリンドの点数は同列96000pt。この勝負に勝った方は+20000pt……つまり、総 点数は116000pt。
どちらかがやられたら残るは五名(ガーウィンが一人倒しているのなら残るは四名で奴の点数は100000pt)。
そして、ここにいる三人を除く生き残りの点数は56000pt未満……つまり116000ptとは60000pt以上の差があるということになる。
つまり確定で上位二名まで残ることができるのだ。
……優先すべきは決勝戦まで上がることだ。
(……俺かロザリンド、この勝負に勝った方が決勝戦に上がれる)
そして、上手くいけばロザリンドとガーウィン、二人の強敵をこの第4ゲームで始末できる……!
(――つまりここが総本山! 絶対に負けられない戦いだ……!)
俺はロザリンドと対峙し、拳を構える。
「……お兄様の思惑通りに動くのは癪だけどォ、それが一番手っ取り早そうねェ! ねェ、ラットォッ!」
ロザリンドはラットと呼ばれた執事に跨がり高速移動で迫り来る。
「掛かって来いやァァァァァァッッッ……!」
……渇いた打撃音が廊下に響き渡る。
何度も殴られた。
何度も蹴られた。
何度も廊下を転がった。
何度も立ち上がった。
「…………あんたタフねェ」
ボロボロになりながらも立ち上がる俺にロザリンドが冷や汗を垂らした。
「そんなにボロボロになって、でもそろそろ限界じゃないの?」
「……いいや、まだまだ余裕だぜ」
俺は覚束ない足取りでロザリンドに微笑する。
「そんなへなちょこパンチじゃあ俺は倒れねェよ」
「……減らず口をっ」
身動き一つ取れずに殴られ続ける俺が噛みついたって、ロザリンドには滑稽に見えるであろう。
「それに俺にはいるんだよ」
「……何を言って」
――カッ……。軽やかな足音が廊下に響き渡る。
「 動きなさい! 伊墨甲平……! 」
声が聞こえた。
知っている声だ。
「――勝利の女神がなっ……!」
「……セシル……アスモデウスッ!」
……セシルさんがそこにいた。
「――っ!」
「御意――……」
――俺は真正面からロザリンドに飛び掛かる。
「あんたっ! 何で動いて、いるのっ……!」
「主の仰せのままに……!」
「ロザリンド様ッ……!」
ラットが後ろへ退こうと
――踏ッッッッッッッッ……! 俺はラットの足を踏んだ。
「――行きなさい、我が騎士……!」
「出来損ないの妹がァァァァァァァァァァァァァァァッッッ……!」
ロザリンドの咆哮がこだまする。
白いハチマキが風になびく。
――俺の拳が天を突く。
「……行きますとも、セシルさんが行くその先まで」
……その手には白いハチマキが握られていた。
「…………どうして?」
ロザリンドが戸惑いを口から溢す。
「どうして、私の〝万誘引力〟が解けているの?」
「――上書きしたのさ、セシルさんの〝万誘引力〟でな」
「……っ!」
……ロザリンドの「動くな」の命令を、セシルさんの「動け」の命令で上書きしたのだ。
「俺はただあんたに殴られていた訳じゃない……呼んだのさ、セシルさんを――影分身を使ってな」
「……謀ったわねっ」
ロザリンドが悔しそうに下唇を噛む。
「だが、これで完全に格付けは済んだ」
「……格付け?」
俺は廊下に膝をつくロザリンドを見下ろした。
「そうさ、セシルさんの〝万誘引力〟があんたの〝万誘引力〟を打ち破った時点で、セシルさんがお前より上であることが証明されたのさ」
「……っ! あんたっ!」
ロザリンドが何か言い返そうとしたがすぐに口を接ぐむ。
「……じゃあな、ロザリンド=アスモデウス」
俺はロザリンドに背を向け、セシルさんの方へと歩を進める。
「二度とセシルさんの前に立ち塞がるんじゃねェぞ」
「……」
勝者は去り、次の戦場へと向かう。
敗者は俯き、その場に膝をつく。
「次はあんただ、ガーウィン=アスモデウス……!」
「まずは勝利を讃えよう、伊墨甲平」
俺とガーウィンが対峙する。
闘志の火花が静かに散る。
「 さあ、楽しい戦いにしようぜ……! 」
「 楽しんでいるところ悪いけど、すぐに終わらせてもらうよ 」
……そして、『キャット&マウス』は佳境を迎える。