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 第195話 『 韋駄天 』



 ……現在、アスモデウス邸には五人の俺と二人のセシルさんがいた。


 五階の廊下に一人。

 四階の廊下に一人、五階へと続く内階段に一人。

 三階の廊下に一人、三階厨房に一人。

 二階の廊下に一人。

 一階の廊下に一人。


 (……この第4ゲーム、俺とセシルさんにとって最高に有利な内容だ)


 屋敷内にいる複数の俺とセシルさん――それらは全て影分身であった。


 (俺の分身はただの影分身、セシルさんの分身は影分身+変化の術の複合って訳だ)


 他の7チームはこの中から本物を探し出さなければならなかった。


 (……そして、セシルさんの〝奇跡スキル〟は絶対に破れない)


 セシルさんの〝奇跡スキル〟はこのゲームにおいて……いや、あらゆる戦場における絶対防御であった。

 だから、このセシルさんの分身は本来必要のないものと言えよう。


 (だが、俺はセシルさんの分身を四階の廊下に配置した)


 ……その意味はすぐにわかることになるであろう。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 ――アスモデウス邸、4F。


 「――見つけた!」


 ……セシルさんを発見した男(……確か、ジャズとかいう名前の)が駆け出した。


 「……っ」


 セシルさんは当然ジャズから逃げる。

 ジャズもセシルさんを追い掛ける。


 「逃がすかよっ、ぽっと出の余所者がっ!」


 ジャズは徐々にセシルさんと距離を詰めていった。

 セシルさんは書斎へと駆け込む。


 「わざわざ退路を断つなんて迂闊な奴だ」 


 ジャズも書斎に入り、すぐに扉を閉める。


 「追い詰めたぜ、セシル=アスモデウス……!」

 「……」


 ジャズは書斎の隅に身を寄せるセシルさんにじりじりと詰め寄る。


 「まずは一人目



 「 一人目はお前だよ、バーカ 」



 ……セシルさんがらしくない暴言を吐き――弾け飛んだ。


 「――なっ!」



 ――同時。廊下側のドアノブにワイヤーが巻き付けられる。



 「今、この扉のドアノブと花瓶はワイヤーで繋がれている」


 「――っ!」


 俺は扉越しにジャズに話し掛ける。


 「リタイヤしたくなければ大人しくしてるんだな」


 「貴様ァッ、嵌めたなァ……!」


 ジャズは怒りに声を震わせる。


 「嵌めた? 最初からそういうゲームだったろ」


 「――っ、クソッタレがァ……!」


 俺はジャズを置き去りにして次なる獲物を捜しに行く。

 

 「……まずは一人目」


 とはいえ〝キャット〟を封殺しただけでは点数は稼げない。


 「――次は獲りに行く……!」


 セシルさんは心配ない、だからこそ俺は思う存分に暴れられる。


 「――」


 ――同調シンクロ


 「……視覚を同調シンクロ


 俺は各階に配置した影分身と視覚を同調させる。


 「……………………あっ」



 ――見ィーーーつけた♪



 三階!


 西側廊下!


 「――♪」


 ……俺は廊下を駆け抜けた。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 ――アスモデウス邸、3F。


 「――見つかっちゃった……!」


 逃げるトリシャを俺が追い掛ける。 


 「遅いな」


 トリシャは女だ。鍛えられた肉体を持つ俺から逃げられる筈がなかった。


 「来ないでください……!」


 (来るなと言われて止まる程、俺は優しくはな



 ――静止……。



 (――おい……何で脚が止まって)


 俺の意思とは裏腹に俺の脚が止まっていた。


 (――まさか)


 これはトリシャの〝奇跡スキル〟……いや、〝血継術ディープ・ブラッド〟か!


 アスモデウスの〝血継術ディープ・ブラッド〟は確か!


 「やった、今の内に……!」


 今が好機とトリシャは4Fへ続く階段へと駆け出す。


 「……クソ……脚が動かねェ」


 トリシャの背中が遠退く。


 「……………………でも」


 そして、階段の踊場へと駆け込む。



 「 そこはハズレだ 」



 「――えっ!?」


 「悪ィがここは行き止まりだぜ」



 ……階段の踊場には俺が待機していた。



 ――俺はトリシャからハチマキを奪い取る。


 「まずは一本目ってな」


 そう、最初から本物は踊場に待機していたのだ。

 影分身はトリシャを踊場まで誘導する為の囮に過ぎなかった。


 「計画通りに行って良かった」


 「……っ」


 何にしても影分身陽動作戦は成功であった。


 (……これで96000pt、決勝戦の為に後一本欲しい所だ


 ――俺は東側廊下を見たまま固まる。


 「……げっ」


 ……ハチマキを巻いたジャズの執事がそこにはいた。


 「……」

 「……」


 ―― 一瞬の静寂。


 「……っ!」


 「逃がさねェよ……!」  


 ジャズが逃げる。

 俺はその背中を追う。


 (――無駄だ! 俺の〝脚〟からは逃げられねェよ!)


 ――ギシッ……。床を踏み締める。


 「――〝縮地〟」




 「 見ィつけた♡ 」




   ソニック        テップ



 ……風が吹く。


 「――」


 何者かが横切り、そしてジャズの執事からハチマキを奪い取った。


 「……なっ!」


 ……恐ろしく速かった。


 一瞬にしてジャズの執事と距離を詰めたそいつらは容易くハチマキを奪ってしまったのだ。


 「まずは一本目ね」


 「流石です、お嬢様」


 そいつらは奇妙な二人組であった。

 真紅のドレス姿の麗人に、その女を肩車する眼鏡を掛けた執事がそこにはいた。


 「――次はあんたを潰すわよ」


 「……っ」


 真紅のスカートを風になびかせ、女は俺に宣戦布告する。



 「 セシルの従者ナイト 」


 「――ロザリンド=アスモデウス……!」



 ――チーム.ロザリンド。


 獲得したハチマキの数、一本。


 総獲得 点数ポイント――96000pt。



 ――同列第一位……!


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