第190話 『 8強、揃う 』
「これより第4ゲームへ進出する上位八名の坊っちゃん・お嬢様を発表させていただきます」
……第3ゲームを終え、継承戦参加者は大広間に集合していた。
『……』
一同は沈黙し、ナタージャの言葉を待つ。
「第八位――リタお嬢様……51000pt」
沈黙の中、小さな拍手が響き渡る。
「第七位――キリヤお坊っちゃん……53000pt」
それから淡々と上位の候補者が紹介されていく。そして――……。
「第二位――セシルお嬢様……76000pt」
第四位を大きく離した点数に一同がざわめいた。
(……あれ? 第三位は?)
第三位を飛ばして発表されたセシルさんの第二位に俺は首を傾げる。
「そして、同列第二位――……」
……同列。
「 ロザリンドお嬢様……76000pt 」
――ロザリンド=アスモデウス。
……セシルさんの姉で嘗てセシルさんの暗殺を企てた女。
「……勝ち上がってきたか」
「良かったですわ、楽しみが残っていて♪」
宿敵の相手を前にして、セシルさんは不敵に笑んだ。
「……だけど、ロザリンドじゃなかったら第一位は誰なんだろ?」
「それは恐らく――……」
セシルさんが俺の疑問に答えるよりも早くナタージャが第一位を発表する。
「 第一位――ガーウィンお坊っちゃん 」
銀髪碧眼の美男子に視線が集まる。
「 80000pt 」
……80000pt。それは現状可能な最大 点数であった。
「……ガーウィン=アスモデウス。この継承戦での大本命ですわ」
「へえ、見るからに只者じゃなさそうですね」
ガーウィンから強者特有の異質なカリスマ性があった。
「……まあ、誰が相手でもやることは変わりませんよね」
「ですわ♪」
次のゲームに勝つ。
全員に勝つ。
そして、
「 セシルさんを一番にする 」
道は険しいが一本しかなかった。
(……お陰で迷う心配は無さそうだな)
これでも歳の割りには修羅場を潜ってきたつもりであった。
セシルさんには悪いが継承戦を楽しんでいる俺もいた。
「それでは、これにて第3ゲーム『Cache& Battle』並びに予選を終了させていただきます」
予選は終わった。
これからの戦いは強者しか残ってはいない。
「ちなみに明日は一時休息日とさせていただきますので、本選を勝ち上がった皆様はどうぞご静養くださいませ」
「……休息日、か」
これから一日半、特にやりたいことなんて思いつかなかった。
しかし、第4ゲームまで屋敷でダラダラ過ごすのもつまらなかった。
「……………………そうか」
……閃いた。
「セシルさん一ついいですか?」
「どうかされましたか、甲くん」
気分転換をするなら最適なアイディアを閃いたのだ。
「 明日、俺とデートしませんか? 」
俺もセシルさんが幼少時代に過ごした街に興味があったし、セシルさんにとっても気分転換なる……我ながらグッドアイディアだと思った。
(……それに建国祭の罪滅ぼしもしておきたかったしな)
俺は基本的にはロクでなしだが、あれはやってはいけないことだったと反省していた。
「今度は分身は無しですよ♪」
セシルさんも建国祭での出来事を忘れておらず、意地悪な笑みで釘を刺す。
「勿論ですとも、忍のプライドに誓って」
前回は笑って許してくれたが、今回ばかりは期待できそうになかったし、俺も嘘なんて吐きたくはなかった。
「信じますよ、我が騎士……とは言っても継承戦が終わるまでですが」
「では、その期待に存分に応えさせていただきやす!」
俺は親指を立てて不敵に笑う。
そんな訳で明日、俺とセシルさんはデートすることになった。
そして、別に俺の日頃の行いとは関係ないがセシルさんとのデートは――……。
……雨が降った。土砂降りだった。