表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

196/262

 第188話 『 11th.カード 



 「 私の持ち点23000pt――全賭けですわ♡ 」


 

 ……セシルさんが提示した賭け額に一同がざわめく――わたしを除いて。


 (……普通なら残る手札が《狩人》が2枚しかない状況で全賭けなんて有り得ない)


 そんなことが出来るのはとんでもない馬鹿か、とんでもない詐欺ペテン師のどちらかであろう。

 セシルさんは馬鹿ではない。寧ろとんでもない切れ者だ。


 ……つまりこの勝負、勝てる見込みがある――ということであった。


 普通ならセシルさんの出すカードは《狩人》しか有り得ない。しかし、それ以外のカードを出す手段が一つだけあった。


 (……ナタージャさんがルール説明のときに言っていた)



 ――そして、皆様にはカードを購入していただきます。カードは必ず〝10枚以上〟購入しなければなりません



 彼女は言っていた10枚〝以上〟、と……。


 その言葉から推察されるセシルさんの奥の手――それは?



 ( カードを11枚購入すること……! )



 セシルさんの今まで出したカードの購入総額は26000pt。

 購入総額と《魔法使い》の枚数に偽装は不可能だとして、残るは4000pt。

 申告した《魔法使い》のカードは4枚で、既に4枚の《魔法使い》は出しきっている。

 つまり、11枚目・12枚目のカードが存在する場合のセシルさんの手札は――……。


・《盗賊》×1、《雑兵》×2


・《雑兵》×4


 (わたしが手札を10枚しか購入出来ないと思っているでならば、《雑兵》は絶対に選ばない!)


 ――だからこそ、セシルさんは《雑兵》を出す……!


 わたしは《雑兵》を指定する。これでセシルさんの勝ちは無くなる筈だ。


 (……攻めは上々、次は守り)


 折角、こちらがセシルさんの出したカードを言い当てたとしても、セシルさんがわたしの出したカードを言い当ててしまったら、勝負はドローになってしまうであろう。


 (セシルさんの守りは伊墨さんの目を瞑らせるといった、謂わば消極的な守り)


 ――だけど、わたしの守りはセシルさんの上を行っている。


 わたしはセシルさんとは反対に、〝従者ナイト〟であるララに毎回出すカードを見せていたのだ。


 (……ララには〝ある特徴〟がある。それは――……)



 ――顔にすぐ出る癖だ。



 ララは単純で嘘が苦手、だからララの顔を見ればわたしが出したカードを簡単に見抜くことが出来るであろう。


 (――だからこそ、それを利用すればいい……!)


 カードを出す直前でララに気づかれないように出すカードをすり替えれば、相手をハズレへと誘導することが出来る。 


 (……セシルさんはわたしには勝てない)


 攻めも、守りも、わたしが全て勝っている。


 (読み合いだって負ける気がしない……唯一、負ける可能性があるとするならば)


 それは、勝利の女神の気紛れ。


 それは、論理の外側の世界。



 それを人は――……。 







 ――『CacheキャッシュBattleバトル』、第9セット目。


 「……23000pt、ですか」

 「……」


 私は無言でククルさんの返答を待つ。


 (ククルさんなら乗ってくる、〝盤上の天才ジーニアス〟なら絶対に……!)


 天才が無策でこの第9セット目を迎える筈がなかった。

 彼女は幾つもの策と罠を張り巡らせている、それは確信できた。


 だから、乗ってくる。

 だから、勝ちに来る。


 ――わたしを倒す為に……。




 「 その勝負、受けて立ちましょう……! 」




 ……ククルさんは確かにそう言った。


 「そう言ってくれると思っていました♪」


 それでこそ私はが認めた強敵であった。


 「それではカードをセットしましょうか」

 「はい、では私はこのカードを♪」


 出すカードは最初から決まっていた。

 それは無論、ククルさんも――……。


 「――では、わたしはこのカードで」


 ククルさんは迷い無くカードを選んで、手札から引き抜く。


 「……」

 「……」


 ……遂に運命の第9セットが始まる。


 「「――セット」」


 私とククルさんは同時にカードを伏せる。もう後には退けなかった。


 「……」


 私はカードではなく対戦相手の方を注意深く見つめる。


 「 《雑兵》 」


 「……」


 ――ポーカーフェイス。私の解答にククルさんは表情一つ変えなかった。


 しかし、私が真に見ていたのはククルさんの表情ではない。



 「……ではなく――《狩人》」



 ……言い直したそれが、私の答えであった。


 「では、わたしは――……」


 ククルさんが小さな口からか細い声を吐き出す。



 「 《雑兵》です 」



 しかし、その瞳には確固たる自信と決意が秘められていた。


 「……」


 ……ククルさんの解答に私は確信した――私が購入した11枚目のカードの存在に気づいていたことに……。


 「……」

 「……」


 両者解答を終え、伏せたカードに手を伸ばす。


 張り詰めた空気。

 緊張と静寂。



 「「 オープン 」」



 カードが引っくり返され、2枚のカードがその面を白日の元に曝される。


 〝盤上の天才ジーニアス〟。


 悪魔なメイド。



 ……そして、強者と強者の戦いは結末を迎えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ