第188話 『 11th.カード
「 私の持ち点23000pt――全賭けですわ♡ 」
……セシルさんが提示した賭け額に一同がざわめく――わたしを除いて。
(……普通なら残る手札が《狩人》が2枚しかない状況で全賭けなんて有り得ない)
そんなことが出来るのはとんでもない馬鹿か、とんでもない詐欺師のどちらかであろう。
セシルさんは馬鹿ではない。寧ろとんでもない切れ者だ。
……つまりこの勝負、勝てる見込みがある――ということであった。
普通ならセシルさんの出すカードは《狩人》しか有り得ない。しかし、それ以外のカードを出す手段が一つだけあった。
(……ナタージャさんがルール説明のときに言っていた)
――そして、皆様にはカードを購入していただきます。カードは必ず〝10枚以上〟購入しなければなりません
彼女は言っていた10枚〝以上〟、と……。
その言葉から推察されるセシルさんの奥の手――それは?
( カードを11枚購入すること……! )
セシルさんの今まで出したカードの購入総額は26000pt。
購入総額と《魔法使い》の枚数に偽装は不可能だとして、残るは4000pt。
申告した《魔法使い》のカードは4枚で、既に4枚の《魔法使い》は出しきっている。
つまり、11枚目・12枚目のカードが存在する場合のセシルさんの手札は――……。
・《盗賊》×1、《雑兵》×2
・《雑兵》×4
(わたしが手札を10枚しか購入出来ないと思っているでならば、《雑兵》は絶対に選ばない!)
――だからこそ、セシルさんは《雑兵》を出す……!
わたしは《雑兵》を指定する。これでセシルさんの勝ちは無くなる筈だ。
(……攻めは上々、次は守り)
折角、こちらがセシルさんの出したカードを言い当てたとしても、セシルさんがわたしの出したカードを言い当ててしまったら、勝負はドローになってしまうであろう。
(セシルさんの守りは伊墨さんの目を瞑らせるといった、謂わば消極的な守り)
――だけど、わたしの守りはセシルさんの上を行っている。
わたしはセシルさんとは反対に、〝従者〟であるララに毎回出すカードを見せていたのだ。
(……ララには〝ある特徴〟がある。それは――……)
――顔にすぐ出る癖だ。
ララは単純で嘘が苦手、だからララの顔を見ればわたしが出したカードを簡単に見抜くことが出来るであろう。
(――だからこそ、それを利用すればいい……!)
カードを出す直前でララに気づかれないように出すカードをすり替えれば、相手をハズレへと誘導することが出来る。
(……セシルさんはわたしには勝てない)
攻めも、守りも、わたしが全て勝っている。
(読み合いだって負ける気がしない……唯一、負ける可能性があるとするならば)
それは、勝利の女神の気紛れ。
それは、論理の外側の世界。
それを人は――……。
――『Cache& Battle』、第9セット目。
「……23000pt、ですか」
「……」
私は無言でククルさんの返答を待つ。
(ククルさんなら乗ってくる、〝盤上の天才〟なら絶対に……!)
天才が無策でこの第9セット目を迎える筈がなかった。
彼女は幾つもの策と罠を張り巡らせている、それは確信できた。
だから、乗ってくる。
だから、勝ちに来る。
――わたしを倒す為に……。
「 その勝負、受けて立ちましょう……! 」
……ククルさんは確かにそう言った。
「そう言ってくれると思っていました♪」
それでこそ私はが認めた強敵であった。
「それではカードをセットしましょうか」
「はい、では私はこのカードを♪」
出すカードは最初から決まっていた。
それは無論、ククルさんも――……。
「――では、わたしはこのカードで」
ククルさんは迷い無くカードを選んで、手札から引き抜く。
「……」
「……」
……遂に運命の第9セットが始まる。
「「――セット」」
私とククルさんは同時にカードを伏せる。もう後には退けなかった。
「……」
私はカードではなく対戦相手の方を注意深く見つめる。
「 《雑兵》 」
「……」
――ポーカーフェイス。私の解答にククルさんは表情一つ変えなかった。
しかし、私が真に見ていたのはククルさんの表情ではない。
「……ではなく――《狩人》」
……言い直したそれが、私の答えであった。
「では、わたしは――……」
ククルさんが小さな口からか細い声を吐き出す。
「 《雑兵》です 」
しかし、その瞳には確固たる自信と決意が秘められていた。
「……」
……ククルさんの解答に私は確信した――私が購入した11枚目のカードの存在に気づいていたことに……。
「……」
「……」
両者解答を終え、伏せたカードに手を伸ばす。
張り詰めた空気。
緊張と静寂。
「「 オープン 」」
カードが引っくり返され、2枚のカードがその面を白日の元に曝される。
〝盤上の天才〟。
悪魔なメイド。
……そして、強者と強者の戦いは結末を迎えた。