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 第187話 『 当然全賭けでしょ(二回目) 』



 ……このゲーム、最終的には勝敗は収束するようになっている。


 同じ購入総額である以上、勝敗は基本的には5:5……上手くやっても6:4の勝率になる筈であった。

 故に勝敗を決するのは9セット目のカードの当て合いである。ここさえ突破すれば30000ptを手に入れることが出来ると言っても過言ではなかった。


 ――だから、私は9セット目を勝つことに焦点を当てた。


 そして、それは……。


 (……ククルさんも考えていることでしょう)


 恐らく、読み合いに長けたククルさんなら既に私の手札を1/2……いや1/1まで絞っているものと思われた。

 手札を絞ったとなれば残りの6セットの勝負から残りの手札を逆算してくる筈であった。


 (……敢えて無策を印象付けさせて油断させたい所ですが)


 私の手札であれば6セット目まで手札の内約を隠蔽することが出来たが、敢えて2セット目で明かすことにより、私が駆け引き下手であるように印象付けさせたのだ。 

 人は見下した相手に対して警戒心が弛むものである。

 警戒心を解き、相手の思考力を奪い、油断を突く……私のいつものやり口であった。

 8セット目までは相手の有利で構わない。その代わりに――……。



 (――9セット目の勝負で全てをひっくり返す……!)



 ……その為の準備は既に整っていた。







 (……白々しいですね、セシルさん)


 ……私は微笑するセシルさんを前にして心中で毒づく。


 (……たぶん、これはセシルさんのいつものやり口だ)


 第1ゲーム、セシルさんとターニャちゃんの勝負を横から見ていたわたしにはわかる。

 警戒心を解き、相手の思考力を奪い、油断を突く……第1ゲーム、ターニャちゃんはこの手に嵌まって敗北した。


 (〝盤上の天才ジーニアス〟はそんなに甘くないよ……!)


 油断は無い。最後の最後に読み勝つのはわたしだ。


 「……それでは3セット目、行きましょうか」

 「はい、お手柔らかに♪」


 沈黙が破れ、3セット目の勝負が始まる。


 ――勝負は9セット目。


 ……というわたしの読み通り、7セット目までは淡々と進捗していった。

 大量加点も大量減点もなく、互いに腹の底を探り合っているようであった。


 現状はと言うと……。


 3勝2敗2分けと互角な戦いを繰り広げ、持ち点もわたしが27000ptでセシルさんが23000ptと僅差の戦いであった。

 残る手札は三枚。

 

・ククル:《魔法使い》×1、《狩人》×1、《雑兵》×1


・セシル:《騎士》×1、《狩人》×2


 であり、この三枚のカードで8セット目へと突入した。


 「……次はわたしが賭け額を指定する番ですね」


 ……勝負は9セット目。


 ――しかし、布石を打つなら今しかなかった。



 「 10000pt、なんてどうでしょうか? 」



 『――10000pt……!?』


 ……わたしの口から出た数字に一同がざわめく。


 「――受けましょう、その勝負」


 即答するセシルさんに一同が再びざわめいた。


 「……」


 ――食いついたッ!


 この10000ptは撒き餌……重要な9セット目を有利に進める為の撒き餌であった。


 「なら、わたしは《魔法使い》のカードを出すことを宣言します」


 わたしはセットするよりも早く宣言する。


 「どうしたのよ、ククル! そんなんじゃ、相手に10000ptあげるようなものじゃない!」


 何も知らないララがわたしの行動を問い詰める。

 無理もない。今回の作戦は彼女には伝えていないからだ。


 「先程の言葉、撤回は出来ませんよ」

 「臨むところです」


 セシルさんの確認にわたしは迷い無く頷く。


 「もし撤回するようなことがあれば、わたしの負けで構いません」

 「……」


 ……セシルさんが出すカードがわかっていた為、わたしは強気な姿勢を崩さなかった。


 「……いいでしょう。この勝負受けて立ちます」


 セシルさんの手札は《騎士》か《狩人》しかないことになっている。

 つまりセシルさんがここで《騎士》を出すということは、残る手札は《狩人》が2枚ということになり、9セット目の勝負では《狩人》しか出せなくなり、セシルさんは良くて引き分けにしか持ち越せなくなるのだ。


 ――しかし、現状セシルさんは《騎士》のカードを出すしかなかった。


 (現在、わたしはセシルさんに一点勝ち越している。つまり、ここでセシルさんが勝ち星を取れなければわたしが二点勝ち越しになっちゃう)


 残り二試合で二点勝ち越しされるということは、セシルさんはどう足掻いても引き分け以上が見込めなくなるということであった。


 セシルさんは《騎士》を出す……それは決定事項であった。


 「「 セット 」」


 わたしとセシルさんがカードをセットする。


 「〝魔法使い〟、ですわ」

 「〝騎士〟、ですね」


 互いに宣告を終え、カードを捲る。


 「「 オープン 」」


 そして、卓上には――……。



 《魔法使い》


 《騎士》



 ……予想通りのカードが対峙していた。


 点数ポイントの変動は無し、セシルさんに白星が一つ与えられた。


 現状は、3勝3敗2分け……持ち点数ポイントも27000ptと23000ptで4000pt差であった。


 「……9セット目ですね、賭け額の提示をお願いします」


 次はセシルさんが賭け額を提示する番であった。


 「そうですね~、9セット目の賭け額は――……」


 セシルさんはもう決まっているくせに、わざとらしく間延びさせる。


 (わたしにはわかります。貴女はわたしが出会った誰よりも勝負師ギャンブラーです。だから――……)




 「 私の持ち点23000pt――全賭けですわ♡ 」




   ほ   ら   ね   。



 ……わたしは心中で大きな溜め息を吐いた。


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