第183話 『 00:58 』
……真夜中の薔薇園に粉塵が舞い上がる。
「……っ」
機雷によって両脚を失った俺は地面を這いつくばった。
(……あの距離での大爆発、〝魔装脈〟を使っても両脚を持ってかれたか)
しかし、それでもセンドリックを巻き添えにすることが出来た。いくら奴が化け物でもあの爆発で無傷ではいられないであろう。
俺は絞殺用の鋼鉄製ロープで止血し、匍匐前進で身を隠せる場所を目指していた。
(……他の奴等は上手くやっているのか?)
リーダーである俺がわざわざ時間稼ぎをしたのだ、最低限サーベル=ペルセウスぐらい殺っていないと割りに合わなかった。
とにかく今はこの場を離脱することが優先である。先の爆発で他の連中も集まってくる恐れがあった。
「 どこへ行くつもりかね 」
……一人の男が俺の行く先に立ち塞がっていた。
「……無傷、とはな」
目の前で俺を見下ろすのは無傷のセンドリックであった。
俺は絶望よりも呆れて溜め息が溢れた。
「下に何かを仕込んでいたのはわかっていたのでな、君がそれを起動するのを待ってから離脱したのだよ」
「……化け物が」
センドリックが無傷ということは、俺がしたのはただの自爆であったということである。
圧倒的な力の差に俺の感情は怒りよりも脱力感が勝っていた。
「……それと朗報だ」
センドリックが懐から無線機を取り出した。
「先程、部下から連絡が来たが君の仲間四人は全滅したそうだよ、勿論こちらの被害は門番の二人だけだね」
「……そうか」
……完全敗北、ということのようだ。
「…………殺すか?」
「依頼主を聞き出してからそうしようと思うが」
――情報収集。道理でまだ生かされていた訳か。
「素直に話して殺されるか、拷問の末に殺されるか……と言った所か」
「話が早くて助かるよ」
「……」
どうせ殺される俺に依頼主を庇う由は無かった。
「話そう、包み隠さずな」
そして、俺は有りのままの事実を語った。
「――アモン家……シルビア王国内に領地を持つ〝七凶の血族〟の一角だ」
「……アモン家……強欲の血族かっ!」
……予想外の依頼主に、流石のセンドリックも驚きを隠せなかった。
「南テーゼ海を跨いでまで刺客を送り込んだ理由は聞いてはいないが、かなりの大金を支払ってくれたよ」
「……ふむ」
俺の吐き出した情報にセンドリックは顎に手を当てて考え込む。
「悪いが、俺が知っている情報はここまでだ」
「そうか、情報提供助かったよ」
……さて、そろそろ時間だな。
「……では、心の準備はいいかね?」
「ああ、いつでも構わないよ」
死刑執行。
清算の時。
「悪くは思わないでくれ、これもケジメだ」
「早くしろ、地獄で待っている奴等がいるんだ」
「……わかった。手短に済ませよう」
センドリックは長剣を抜き、俺の首筋に刃を添える。
「去らばだ、強き者よ――……」
刃が月光に煌めく。
生温い風が草木を揺らす。
……そして、刃は静かに振り下ろされた。
――00:58
……〝静寂なる刃〟、首領――〝武器屋〟の死を以て真夜中の死闘の幕は降りた。
蓋を開けてみれば、戦いは〝王下十二臣〟の圧勝であったが、王国への脅威は依然として解消してはいなかった。
動き出す大罪。
苛烈化する戦況。
……ペルセウス王国は守られた束の間の平穏を享受するのであった。