第１８２話 『 道連れ 』
――刃と刃が交差する。
火花が散る。
鋼と鋼が衝突した音が残響する。
そして、それは絶えることなく繰り返された。
常人には目で追えない刃と刃のコミュニケーションは、互いの殺意を伝え合い、殺意で応え合う。
お前を殺したい。
首を斬りたい。
目を抉りたい。
腸をぶち撒けたい。
刃と刃を交える度に会話よりも濃密な感情を伝えることが出来た。
（……この爺さん、同族だな）
俺は首元へ迫る刃を刃で受け止める。
（俺より一回り以上歳を重ねているのに殺意も腕も現役その物だ）
センドリックは長剣を、俺は二本のサバイバルナイフを、互いに慣れた武器で斬り合う。
俺もセンドリックも傷はなく、一進一退の攻防が繰り広げられていた。
時にフェイクを、時にカウンターを繰り出すもセンドリックに刃は届かなかった。
一方で、センドリックの刃も二本のサバイバルナイフに阻まれ、俺には届かなかった。
――互角。
俺とセンドリックの戦いは互角であった。
（戦闘技術は互角。であるなら、残るは持っている武器や能力が勝敗を左右するな）
……俺の〝奇跡〟――〝無限の武器庫〟は際限無く武器を錬成できる能力である。
頭の中に設計図さえあれば、あらゆる武器をオーダーメイドで錬成することが出来るのだ。
右手のナイフには猛毒が仕込まれ、左手のナイフは〝ニヒトイズム鉱〟と呼ばれる魔力を弾く特殊な鉱石を材料に製造されていた。
右のナイフに掠りでもすれば致命傷になり、左のナイフではあれば〝魔装脈〟を容易く切り裂くことが出来るのだ。
――しかし、それも当てることが出来なければ効果を発揮することができなかった。
（やはり、正攻法では傷一つつけられないか）
……ならば、二の手・三の手へと切り替えるとしようか。
俺はバックステップで後退する。
センドリックはそれを追い掛けるように距離を詰め
「――」
……その足下には手榴弾が転がっていた。
センドリックが足を止める。
俺は構わず〝ニヒトイズム鉱〟のナイフを振り抜く。
（――その手榴弾は不発弾だ！ それが判るのは俺だけだ！）
センドリックは手榴弾に意識を割かれるが俺は迷い無く攻めることが出来た。
（その差で俺が勝
「――その手榴弾、偽物だね」
――センドリックは既に俺の攻撃に対して反応していた。
「――っ」
「反応が遅れたのは君の方だったね」
センドリックはナイフをかわし、そのまま俺の肩を切り裂いた。
「――っ！」
何故？
何故、偽物だと判った？
見た目では判らなかった筈である。
それなのに一瞬で偽物と判別した。
「……へえ、それがあんたの〝奇跡〟か」
「さあ、どうかね」
（……下手な惚け方をする爺さんだ）
俺はセンドリックと距離を置いて奴の能力を分析する。
（特殊な〝眼〟か、超直感能力か）
どちらにしてもセンドリックに不意打ちの類いは通用しないようであった。
（小細工は通用しない。ならば――……）
――最大火力で制圧する。
……それが正解のようだ。
「――〝武器庫開放〟」
俺は７．８２㎜マシンガンを召喚する。
「――吹き飛べ」
「――」
装填弾数、３００発。
連射速度、６２４発／min。
全弾魔力強化。
……銃弾の雨が降り注いだ。
秒間１０発を超える弾丸の雨はセンドリックに襲い掛かり、地面や噴水を粉微塵に破壊する。
その激しさを物語るように粉塵は舞い上がる。
硝煙の臭いが薔薇園に広がるも生温い風によって押し流されていった。
「……弾切れか」
俺は弾切れを起こしたマシンガンを投げ捨てる。
「――わかっているさ」
俺はナイフを抜く。
風が吹き抜ける。
「 あんたはこの程度では死なないだろ 」
――ドッッッ……！ センドリックが凄まじい速度で粉塵から飛び出した。
「……俺にあんたは倒せない」
「――」
――カチッ……。俺は空いた手で起爆スイッチを押した。
「 だから、道連れだ 」
「――っ」
一瞬の静寂。
交差する二つの影。
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……！！！
……地面に仕掛けた機雷による大爆発が二人を呑み込んだ。
