第18話 『 鎮火 』
……燃えろ。
……燃えろ。
「火火火火火♪」
……燃やし尽くせ。
「来ないでくださいっ……!」
ボクは尻餅をつき、腰を抜かした侍女を見下ろしていた。
「お願い! 殺さないでください!」
「 〝掌に太陽を〟 」
――トンッ……。ボクは侍女の額に人差し指を当てた。
「 着火 」
――ボゥッッッッッ……! 一瞬で侍女は火だるまになった。
「綺麗だね♪ うん、綺麗だ♪」
侍女は暴れまわるもすぐに動かなくなり、やがてただの煤の固まりとなった。
「ああ、素晴らしい♪」
ボクはステップ混じりで廊下を駆け出した。
そして、走りながら壁を手で撫でた。
「この世界はなんて素晴らしいんだ♪」
走る。跳ねる。撫でる。
「火火火♪ 神様ありがとう♪ ボクにこの力をくれて♪」
着 火
ボクがそう心の中で念じた――次の瞬間。
――ボゥッッッッッッッッッッ……! ボクが撫でた壁が燃え上がった。
(これが、ボクが神様から貰った〝奇跡〟――〝掌に太陽を〟♪)
……触れたものを問答無用で発火する力だ。
「火火火♪ 炎って、やっぱり美しいなぁ♪」
ボクは炎が大好きであった。
赤く、猛々しく、命の揺らぎのように踊る炎。
時には人を暖め、時には凡てを灰にする炎。
「もっと! もっと、もっと! ボクに見せてよぉ!」
ボクはステップ混じりで駆け出した。
恋人に逢いに行くように、プレゼントを待ち焦がれる子供のように、愉快に、無垢にステップ&ステップ。
――水の音が聴こえた。
……ボクはステップをやめて、後ろを振り向いた。
――洪水。大量の水が廊下を蹂躙した。
「……何だよ」
ボクは立ち止まって迫り来る洪水を見つめた。
「折角の炎が全部消えちゃったじゃないかっ……!」
ボクの美しい炎が!
究極の芸術が!
「誰だよ! こんな酷いことした奴は……!」
――ザプンッ……! そして、ボクは洪水に呑み込まれた。
「――」
……ボクは洪水に呑み込まれ、流される。
(息が苦しい! 早くここを出ないと!)
ボクは必死にもがいて出口を探した。
もがく。
泳ぐ。
射し込む光に手を伸ばす。
「 おい、てめェ 」
――伸ばした手が切断された。
「――なっ!」
「随分と好きに暴れてくれたようだな」
……黒い衣服を身に纏った男がボクの真横にいた。
「 この代償は高く付くぜ 」
……コイツが、
ボクの炎を消して、ボクの腕を斬った男。
「ブッ殺
――斬撃が走る。
「 水遁――〝水流斬舞〟の術 」
――斬ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! ボクは全身を斬り刻まれた。
「――がっ……ぁ……………………」
……鮮血が吹き出る。
……血液は水流に溶け、流れていく。
「……火が……火が…………」
「これで二人目」
頭の血が抜け、一気に意識が薄れていく。
腹立たしいことにボクの目に映った最後の景色は、黒い衣服を身に纏まった青年がこちらを見下ろしている光景であった。
「……消え……る……………………」
……そして、ボクの意識は完全に落ちた。