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 第180話 『 聡明な騎士 』



 ――ペルセウス王宮、庭園北西部。


 「……風向きからすればここがベストプレイスかね?」


 俺は〝蝕王バジリスク〟によって全身から霧状の猛毒を噴き出す。

 〝蝕王バジリスク〟はあらゆる種類の毒を司り、更には気体・液体・固体といった状態変化も可能としていた。


 (……今日は少し風が弱いが、空気よりも軽いこの毒ガスなら風に乗って王宮中に流れ込む筈だ)


 俺の仕事は風上から毒ガスを流し込むだけであった。

 ちなみに、仲間には既に抗体を投与している為、この毒ガスが仲間を殺すことはなかった。


 「……」


 ……あぁーーー、退屈だ。


 元々前線で戦うことが好きな俺にとってこの任務は退屈過ぎた。

 しかし、俺もプロである。任務完遂の為なら私情を押し殺して退屈な仕事を受け入れた。


 「……」


 地味。あまりにも地味であった。

 退屈で、退屈で、今日何度目かの欠伸を溢す。


 (あー、誰でもいいから遊びに来てくれねェかなー)


 敵が来るのを期待するのは如何なものかと思うが、返り討ちしてしまえば問題なかった。



 ――ガシャンッ……。鉄と鉄が擦れる音が聴こえた。



 (――来た♪)


 この足音間違いない! 鎧を着た奴の足音だ!


 ……つまり、こちらに向かっているのは騎士団の者であった。


 (運が良い! メイドや執事なんかじゃないバリバリの戦闘員が来るなんて!)


 これなら少しは戦闘を楽しめそうであった。



 「 見つけましたよ、毒ガスの発生源 」



 ……そいつは俺の予想通り騎士団の者であった。


 「これより、近衛騎士団副団長として危険物を排除させていただきます」


 「……副団長?」


 というには男はあまりに涼しげであった。


 (……てっきり強面の大男が来るものかと思ったから予想外だな)


 どこか飄々とした雰囲気の男に俺は毒気を抜かれる。


 (だが、奴には俺に対する敵意がある。それに近衛騎士団の副団長にまで登り詰めた男だ。万が一にも慢心は有り得ない)


 俺は両手を構え、心身共に臨戦態勢に入る。


 「俺の名は〝蟒蛇うわばみ〟、あんたは?」


 「僕の名はレイド=ブレイド。〝王下十二臣〟の一人にして――最も聡明な騎士です」


 ――聡明な騎士。


 「随分と頭に自信があるようだが、悪いがここは戦場だ」


 俺は両手をレイドに突きだす。


 「力こそが全てなんだよっ……!」



   パープル    ショット    ガン



 ――俺は両手から無数の液化した毒の玉をレイドに撃ち込んだ。


 (この攻撃をかわすのは降り注ぐ雨をかわすようなもの、簡単にはかわせまい!)


 無数の毒の玉がレイドに襲い掛かる。

 レイドは逃げも怯えもせずに大槍を振りかぶる。


 「 ♪ 」



     風     刃



 ――しかし、レイドは飛ぶ斬撃で全ての毒の玉を吹き飛ばした。


 「やるじゃん♪ だったらこれなら……!」


 俺は先程放った毒の玉を一ヶ所に集め、巨大な塊に変え、凝固させた。


 「 〝毒大砲パープルキャノン〟 」


 ――俺は巨大な毒塊の弾丸をレイドに撃ち込んだ。


 「今度は〝風刃〟でも凌げないぜっ!」

 「――」


 巨大な毒塊の弾丸はレイドに一直線に襲い掛かる。


 (この質量は〝風刃〟で凌げない! もし槍で受け止めようとするなら直前で液体に変えられて毒液が直撃する! この技は初見では凌げない!)


 レイドは真っ正面から毒塊の弾丸に突っ込む。


 (――来た! パターン2だ!)


 俺は毒塊の弾丸を液体に変え



     風     刃



 ――レイドは地面に〝風刃〟を撃ち込み、その反動で俺の遥か頭上と跳躍する。



 ( パターン3ッ!? )


 〝風刃〟で受けるでも、大槍で受け止めるでもない、まさかの空中戦!


 (だが、空中なら身動きが取れない筈だ!)



    毒    大    砲



 俺は巨大な毒塊の弾丸をレイドに撃ち込んだ。


 「中長距離戦が得意な俺に空中戦を挑んだのが運の尽きだったな!」


 「 〝風刃〟 」


 レイドが大槍を薙ぎ、暴風が吹き荒れる。


 (馬鹿なっ、〝風刃〟じゃ〝毒大砲パープルキャノン〟は防げない――いや、違う!)


 レイドの〝風刃〟は斬る〝風刃〟ではなく、威力を拡散させた吹き飛ばす〝風刃〟であった。


 (……俺の〝毒大砲パープルキャノン〟が押されてやがる)


 ……重力だ。俺の〝毒大砲パープルキャノン〟は重力によってその推進力を失い、レイドの〝風刃〟に押し出されていた。



 ――〝毒大砲〟が俺目掛けて落下した。



 (――あいつ、わざと俺の真上に跳躍しやがったのか!)


 俺の真上に跳躍すれば、こちらが〝毒大砲パープルキャノン〟で迎撃すると奴は読んでいたのだ。

 そして、重力を利用して〝毒大砲パープルキャノン〟を真下の俺にカウンターすることまでレイドの筋書き通りであった。


 「――っ、解除!」


 俺は〝毒大砲パープルキャノン〟を気体化させ、霧散させた。

 霧散した毒ガスが俺を呑み込んだが体に異変は起こらなかった。


 (俺に毒は効かないんだよ、バーカ)


 これで奴のカウンターは凌いだ。次は



 「 次は僕の番ですよ 」



     風     刃



 ――轟ッッッッッッッッッッ……! 俺は毒ガス諸とも爆風によって吹っ飛ばされた。


 「――っ」


 俺は堪らず吹っ飛ばされ、地面を転がり、見晴らしのいい広場まで移動させられた。


 「毒ガスの煙幕は君の姿を隠すと同時に僕の姿も見失う、盲点でしたか?」


 「……っ、糞ったれ」


 確かにしてやられたが傷自体は浅い。


 「お前、何処まで見えてやがんだっ……!」



 「 全部です 」



 レイドは優雅に微笑んだ。


 「初手は〝風刃〟で凌ぎ、回避ではなく真っ向勝負を意識づけます」


 大槍を握る腕は下ろされ、既に戦意は窺えなかった。


 「次手、君は〝風刃〟で凌げない攻撃をすると思いました。それは高質量の攻撃だとも予想していました」


 俺は続く戦闘に備えて毒の弾丸を生成する。


 「だから、僕は君の上空へと跳躍し、次手で使った技を使うよう誘導しました。そして、その技を〝風刃〟で跳ね返しました」


 ふざけたことにレイドは俺に背を向ける。


 「君は咄嗟に解除しましたが、その時の君には〝風刃〟を回避する余裕がないので簡単に〝風刃〟を当てることが出来ました」


 レイドは敵に背中を向けたまま歩きだした。

 もう勝負はついた。そう言っているようであった。


 「そして、〝風刃〟によってこの見晴らしのいい場所へと君を吹っ飛ばしました」


 「……吹っ飛ばしたからって何だっ」


 俺の周りには無数の毒の弾丸が浮遊していた。


 「まだ勝負は終わってない! どちらかが死ぬまで終わりじゃないんだよ!」



   パープル    ブレ    ッ



 「……あっ、言い忘れてましたが」





 ――パンッッッ……。俺の脳天を〝何か〟が貫いた。





 「――はっ?」


 「 そこ、ソフィアさんの射線ですよ♪ 」


 後頭部から血飛沫が噴き出し、時間差で額からも血飛沫が噴き出す。


 (……えっ? 俺撃たれ? えっ? 狙撃? 〝スコープ〟は?)


 身体が落ちる。

 思考が上手く纏まらない。


 「全部見えているって言いましたよね」


 ……死ぬ?


 ……俺は死ぬのか?



 「 全部というのは最期までということですよ、〝蟒蛇うわばみ〟さん 」



 ……ああ、


 ……もっと沢山……暴れたかった。


 ……俺は死にたくない。


 ……死にたくない。


 ……死にたく……ない……………………。


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