第174話 『 00:00 』
――23時28分。
……わたしは自室のベッドで横になっていた。
「……」
目を瞑る度に今朝の記憶が蘇る。
――この間、わたしが考えた『嘘吐いたら針千本呑ますゲーム』をしようよ!
……いや、これじゃない。これは割りとどうでもいい記憶だ。
(そう、確かあれは愛姫ちゃんと一緒にゲームをしたときだっけ?)
――おっ○いを好きな人に揉んでもらう! それだけでいいんだよ! 超簡単だよね!
……いやいや、これじゃない。今はおっ○いじゃない。
(そうそう、わたし、愛姫ちゃんに質問されたんだっけ? そして、わたしは――……)
全力で青春をするんだ~♪
僕らは青春全盛期~♪
僕らは青春全盛期~♪
何でわたし歌ったんだっけ!? てか、どうでもいい記憶多すぎィ!!
……明日から少し真面目に生きようと思った。思っただけだけど。
(……そうだ。わたし、愛姫ちゃんに打ち明けたんだ)
――わたし、甲平くんのことが好きっ! 大好きっ……!
(そして、愛姫ちゃんはそんなわたしに――……)
――私、負けませんよ
……そう言い返されたんだ。
(……恋のライバル、ってことなのかな)
愛姫ちゃんのあの発言からして、恐らく彼女も甲平くんに好意を抱いていた。
(……初恋に初めての恋敵、それも相手は親友か)
どうやらわたしの初恋は穏便には終わりそうになかった。
――それでも心の底で胸を躍らせている自分もいた。
(……これが普通の十六歳なんだろうなぁ)
今月の終わりには誕生日を迎え十七歳になるわたしであるが、今まで普通の女の子らしい青春を送ってはいなかった。
綺麗な服を着たり、豪勢な食事をしたり。
沢山の使用人に奉仕されたり、芸術や作法を嗜んだり。
多くの人がそれらを羨ましく思うように、わたしも普通の女の子に憧れることがあった。
(……たぶん、実っても実らなくてもこの恋は一生の思い出になる)
そんな予感がした。
「……早く帰ってきてね、甲平くん、セシルさん」
今はただ皆と一緒にいる日常が恋しかった。
夜は更ける。
わたしは思い耽る。
……そして、今日が直に終わる。
――00:00
「 時間だ 」
……ペルセウス王宮に迫る影。
「それじゃあ、手筈通りに行きましょう」
「だね♪」
男が四人。
女が一人。
「計画は迅速に無駄無くだ」
「少しは楽しんでもいいよな、リーダー」
殺しのプロフェッショナルが――五人。
「 行こうか。いつも通り、長閑な午後のティーブレイクのように 」
それは静寂で、
夜の帳のような……。
「――彼等に悠久なる静寂をくれてやろうか」
……静かな静かな殺意。