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 第168話 『 当然全賭けでしょ 』



 ――シャッフルとは100ヶ国以上の国で普及されている、世界一ポピュラーなテーブルゲームである。


 ゲームは11×11の盤上で行われ、交互に駒を動かし、相手のキングを制圧した方が勝利するというシンプルなルールである。

 駒はキング・ナイト・ウィッチ・ピエロ・ファイター・アクターといった六種類に分けられる。

 駒の機能と数は以下の通りである。


 キング……全方向を2マス進める。計1個。


 ナイト……縦と横を自在に進める。計2個。


 ウィッチ……縦と横を自在に進める。計2個。


 ピエロ……全方向の1マスを無視して2マス目に進める。計4個。


 ファイター……縦と横を1マス進める。計8個。


 アクター……全方向を2マス進める。計1個。


 定位置に駒を置きゲームは開始され、最終的にキングを獲った方が勝利となる。

 そして、このゲーム最大の特徴がアクターの存在である。


 このアクターの駒はキングの駒と全く同じ動きと形をしている為、駒の裏側にあるマークを確認するまで相手にはどちらが本物のキングかわからないようになっていた。


 ……つまり――如何に相手にアクターをキングだと思わせるかも、このゲームの重要な要素であった。


 「……と、ルールは以上ですわ」


 ……シャッフルのルールはセシルさんのお陰で概ね理解できた。


 「ありがとうございます、これなら問題なく戦えます」


 「問題なく……それは本気で仰っているのですか?」


 ガッツポーズをする俺にセシルさんが真剣な眼差しで詰め寄る。


 「初めてのゲーム、例えルールを理解した所で経験者と初心者には大きな隔たりがあります」

 「……」


 ……セシルさんの言わんとせんことはわかる。


 「〝戦える〟だけでは駄目なのです。〝勝てる〟見込みが無ければ私は安心して貴方に融資ベットすることが出来ませんわ」


 「……」


 〝戦える〟のではなく〝勝てる〟見込み、か……まったくもってその通りだな。

 俺はレクレーションをする為にアスモデウス邸に来たのではない。セシルさんを勝たせる為に来たのだ。その本題を忘れては元も子もなかった。


 「勝てるのですか――このゲーム」


 「――現段階でははっきりとしたことは言えません」


 セシルさんの問い掛けに俺は素直に答えた。


 「ただし、俺が選んだ相手と戦えれば――十中八九勝てます」


 「……信じていいんですか?」


 先程とは一変して、俺は自信に満ち溢れていた



 「 勿論、俺には勝利の女神様が付いていますので 」



 そう、俺にはあった。


 この理不尽なゲームを勝ち抜く為の秘策が……。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「……」


 ……俺は部屋の隅から部屋中を見渡していた。


 「……」


 注意深く辺りを見渡し、俺はある条件を満たす人間を探していた。

 この間、何度か俺達に勝負を挑んでくる輩が現れたが全て断った。

 奴等からすれば、先程セシルさんからルールを教わっていた俺はカモ以外の何者でもないであろう。

 しかし、奴等は俺が求める条件を満たした相手ではなかった。だから、全員断ったのだ。


 (……それでも必ずいる)



 ――少なくとも全26グループ中の半数は〝それ〟に該当する。



 「――おい、貴様」


 ……声を掛けられた。男の声だ。


 「勝負しないか」


 「……あんた、誰?」


 俺は顔を上げ、声を掛けてきた男を見留める。


 「俺様の名はレヴィ、当主継承権第九位――レヴィ=アスモデウスだ!」


 「……」


 ……俺様って、何だか偉そうな奴だな。


 「あんたは確か――……」


 俺は昨日のゲーム中の光景を思い返した。


 「…………いいぜ、やろう」



  見  つ  け  た  !



 「勝負しようぜ、正々堂々でな……!」


 ……そう、このレヴィ=アスモデウスこそが俺が待っていた相手であった。


 「向こうの卓に行こうぜ」


 「命令すんな、余所者がよ」


 俺は近くにあった背広を掛けている席に座り、続いて向かい合うようにレヴィのメイドが着席した。


 「……あんたは?」


 「レヴィ様の専属メイド――コレット=ホーネットで御座います」


 俺の対戦相手をクールで有能そうなメイドであった。


 「……相手にとって不足無し、だな」


 「相手が誰であろうと油断はいたしません」


 ……冷静沈着。この女の心を揺さぶるのは容易では無さそうだな。



 「――皆様、対戦相手をお決めになられたようですね」



 ナタージャの声を聞いた俺は周囲を見渡した。彼女の言うように全てのチームが対戦相手を決め終え、対面で着席していた。


 「それでは現時点を持ちまして、各 候補者プレイヤーは最初の融資ベットをしていただきます」


 ……最初の融資ベット。上限はこのゲーム最大の6000pt。


 「……」


 「……」


 「……」


 「……」


 ――静寂。


 まだ駒を一つも動かしていない。

 それなのに大広間には異様な緊張感が張り詰めていた。


 (……セシルさんの総ポイントは15000pt。最初の10000ptはなるべく下回りたくない)


 だが一回戦を勝ち、二回戦を全賭けして勝った者は25000ptを持っていることになる。


 (……そもそもこの継承戦、ルール説明に一つの不備があった)


 この継承戦は最終的に点数ポイントを多く持つ者が勝ち残る。


 この継承戦は点数ポイントを全て失った時点で敗北となる。


 ……しかし、わからないのだ。



 ――この継承戦は一体、あと何ゲーム残されているのだ?



 (……もしかしたら次のゲーム、最悪このゲームで終わる可能性だってある)


 ナタージャがこのゲーム終了時に「現段階で上位八名以下は失格とさせていただきます」等と言えば、俺達はここでリタイアとなってしまうであろう。

 総ゲーム数がわからない以上、常に貪欲に点数ポイントを集めなければならなかった。


 ――しかし、これも俺の予想に過ぎない。


 事を急ぐあまりにしなくてもいい深手を追う可能性もあった。

 それこそ最終局面であと一歩届かない、なんて可能性もある。


 (……最終的に融資ベットをするのはセシルさんだ)


 俺を信じるか? 無難な道を選ぶか?



 ――道はセシルさんに委ねられた。



 「 俺様はコレットに4999ptを賭ける 」



 ……最初に沈黙を破ったのはレヴィの方であった。


 「命令だ――勝てよ、コレット」


 「イエス・マスター」


 レヴィは自身の勝利を疑っていなかった。従者としてこれ以上に心強いことはない筈だ。


 (……悪くない相手だな)


 強気の主に忠誠深いメイド、良いコンビである。


 (……だがな、俺にだっているんだよな)




 「 上限一杯6000pt――全賭けですわ♡ 」




 ――勝利の女神様が……。



 良い信頼感だ。

 なんて心地良いのであろう。


 「……これで応えなきゃ男が廃るな」


 俺は乾いた笑みを溢し、再びコレットと対峙する。


 「さあ、やろうぜ」


 対峙する忍とメイド。

 間には11×11の白黒の盤。


 「互いの主君のプライドと未来を懸けた真剣勝負だ……!」



 ……今、決戦の火蓋が切って落とされた。


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