第167話 『 代行・シャッフル 』
「 第2ゲームの内容は『代行・シャッフル』です 」
……俺達は昨日と同じ大広間に集められ、ナタージャからゲームの説明を受けていた。
「これから皆様にはくじ引きで決められた相手とシャッフルで対戦していただきます」
ナタージャの説明に一同がざわめく。
「……シャッフルって、あのシャッフル?」
「まさか、この大事な戦いで?」
そんな声もどこからか聞こえてくる。
「……シャッフル?」
「……えっ、甲くん。まさかシャッフルを知らないのですか?」
首を傾げる俺にセシルさんが戸惑い気味に訊ねる。
「まあ……あっ、それよりナタージャの説明を聞きましょう」
ルール説明の聞き損じが敗因になっては堪ったものではなかった。
「しかし、候補者の皆様は昨日の対戦でお疲れだと思います――ですので」
ナタージャがこちらを見て笑った――気がした。
「 第2ゲームは従者同士で戦っていただきます 」
「――っ!」
……従者同士、だと?
(……これは予想外だ)
セシルさんの口振りからして、シャッフルはこの世界では有名な競技らしい。
恐らく、ここにいる全ての人間が一度は触れているのであろう。
――俺を除いて……。
そう、この空間で俺だけが見たことも聞いたことも無かった。
「無論、候補者からの助言は許可いたしません」
釘を刺すようにナタージャがルール説明を続ける。
「……第2ゲームは候補者の人を見る目と先見性を試させていただきます」
ナタージャの言わんとせんことはわかる。だが、はっきり言って意地悪が過ぎていた。
ここまでピンポイントで俺達が不利になる状況に追いやられるとは思ってもいなかった。
「候補者に許される行為はただ一つ……ゲーム開始前、ゲーム開始後から10手目、ゲーム開始後から20手目の三つのタイミングで自身の従者に融資することです」
「……融資?」
ただ従者同士で戦わせるだけの対戦ではないようであった。
「候補者は従者に融資することが可能であり、もし自身の従者が勝利した場合、融資した分の点数を加点され、逆に敗北したならば融資した分の点数を失います」
……つまり、勝つ自信があるのならば多く融資し、勝てる見込みがなければ融資をしない方がいいということであろう。
しかし、ナタージャは気になることを言っていた。
――三つのタイミングで従者に融資することです
……何故、わざわざ三つのタイミングに分ける必要があるのだ?
しかし、その疑問はすぐに解消される。
「ちなみに各タイミングの融資には各々限度がありまして、開始前の融資は最大6000pt、開始後10手目の融資は最大3000pt、開始後20手目の融資は最大1000ptとなります」
(……なるほど)
ナタージャの解説に俺は納得した。
(このゲームのポイントは先見性……つまり、早い段階で見切った方が得られる点数が多くなるということか)
それでも、点数を得るには勝つことが大前提であることは変わりなかった。
しかし、融資されなければ点数を失うことはないようである。
(……だが、この継承戦は最終的に多く点数を稼いだ者が勝ち残る)
この場に置いて生き残ることは出来ても、点数が低ければ最後の最後で負けてしまうであろう。
――勝ち残る為には危険を冒せ……ということであった。
(――だが、冷静になれ)
勝ち目が無いのに無策に高融資をすれば、後のゲームで取り返せない痛手を負う可能性もあった。
「最後に禁則事項ですが、一つはイカサマの禁止……発見次第-5000ptです。もう一つは能力の使用不可です、こちらもイカサマと見なします」
……イカサマ禁止。尚更、小細工が出来ないようである。
「それとすり替え防止の為に、駒が二つ以上盤から離れた場合、警報音が鳴るように細工されていますのですり替え等はなされないことを推奨します」
……イカサマ対策も万全のようであった。
「それでは質問は御座いませんか?」
『……』
ナタージャの確認の言葉に手を挙げる者はいなかった。
「……質問が無いようですので、これより皆様は対戦相手を探してください」
シャッフルのルールすらわかっていないのに容赦なくゲームは始まる。
ゲームの進行は静かに行われる。俺の都合なんて聞いてはくれない。
「ただ今を以て第2ゲーム――『代行・シャッフル』を開始します」
挑むは未知のゲーム。
「……やってやるよ」
始まるのは完全不利な戦い。
「 対戦始動!! 」
「 勝って次に繋ぐ……! 」
……今、伊墨甲平の忍としての器が試された。