第165話 『 一方その頃 』
【 前回までのあらすじ 】
……アスモデウス家の当主になるべく次期当主継承戦に参加したセシルと甲平。
第1ゲーム――『high&lowババ抜き』で、セシルは生意気少女ターニャと戦うことになる。
セシルは機転と知略を活かして、第1ゲームを勝ち残り、持ち点数を15000Ptまで増やすことに成功した。
一晩を明かし鋭気を養ったセシルと甲平は、欺瞞と謀略渦巻く第2ゲームに挑むのであった。
一方その頃、留守番中のペルシャは退屈な日々を過ごしていて……。
……………………。
…………。
……。
「――ねえねえ、クリスちゃん! 一緒に遊ぼうよ!」
……朝、暇を持て余したわたしは廊下で見つけたクリスちゃんを遊びに誘った。
「一緒に遊ぶ、ですか?」
「うん! この間、わたしが考えた『嘘吐いたら針千本呑ますゲーム』をしようよ!」
「偉く物騒な名前の遊戯ですね!?」
『嘘吐いたら針千本呑ますゲーム』とは、ジャンケンをして勝った方が負けた方に質問をして、負けた方は正直に答える。
この際、質問に答える方は嘘を吐きバレたらクワズイモを食べなければならない。
それが『嘘吐いたら針千本呑ますゲーム』である。
「ちなみに、クワズイモとは何ですか?」
「えーと、確かねぇ……」
ちんぽんかーん♪
『 アサレコ☆豆知識コーナー 』
クワズイモとは主に暖かい地方で見られるサトイモっぽい何かで、葉っぱはト○ロが傘に使っていた葉っぱのような形をしているよ!
シュウ酸カルシウムとかいう針状の成分を含んでいて、食べると口内を小さな針で刺されたような痛みが襲い掛かるよ!
一口食べたら嘔吐・下痢や激痛に加えて一日中涎が止まらなくなるから、良い子の皆は絶対に食べないでね!
「――滅茶苦茶ヤバいやつじゃないですか! 何食べさせようとしているんですか!」
「うっ、嘘吐かなければ大丈夫だよー」
クリスちゃんはあまり乗り気ではなかった。
「それに私はこれから騎士団に剣術指南をしなければなりませんので、申し訳ございませんがペルシャ様とは遊べませんよ」
「そんなぁっ!?」
まさか、クリスちゃんがわたしの誘いを断るとは予想外であった。
「わたし、クリスちゃんと遊びたいなー(上目遣い」
「――ゲフッ……そんなぶりっ子攻撃、私には効きませんよ」
効いてる!? 吐血するぐらい効いてるよ、クリスちゃん!!
「と・に・か・く! 駄目なものは駄目です! 失礼します!」
クリスちゃんは逃げるようにわたしの前から姿を消した。
「ちぇー、クリスちゃんのけちー」
わたしはブーブー言いながら次なる遊び相手を捜すことにした。
「……………………あっ!」
そうこうしている内に、わたしは中庭で日向ぼっこをしている少女を見つけた。
「愛紀ちゃんだぁ!」
わたしは窓から中庭へ飛び込み、ベンチに座って日向ぼっこをする愛紀ちゃんの下へと駆けつける。
「あらペルシャさん、そんな急いでどうされたのですか?」
「一緒に遊ぼう!」
「……単刀直入過ぎませんか?」
わたしの熱意に愛紀ちゃんは少し引いていた。
「別に構いませんよ、そっその、私も暇を持て余していましたので(///」
何故照れる!? 何故照れるのかわからないよ、愛紀ちゃん!!
まっ、遊んでくれるなら何でもいいけどね!
「やったー! じゃあ、ゲームの説明するね!」
「はい、お願いします」
……『嘘吐いたら針千本呑ますゲーム』の説明をした。
「……それって楽しいんですか?」
わたしの説明を受けた愛紀ちゃんが首を傾げた。
「きっと、楽しいよ! いや、たぶん! 楽しかったらいいね!」
「勢いの割りには自信無さげですね!」
突っ込む愛紀ちゃんをスルーしてゲームは始まった。
「「じゃんけーん・ぽん」」
わたしはチョキを出し、愛紀ちゃんはグーを出した。
「わっ私の勝ちですね」
「はい! どうぞ、好きな質問をしてよ!」
「わかりました……えーと」
愛紀ちゃんは顎に手を当て質問を考える。
「どっ、どうすれば! ペルシャさんのように胸が大きくなるのでしょうか!」
「……えっ、胸?」
初手からそれ! 確かに何でもいいって言ったけど!
「お願いしますッッッ! もう後が無いのですッッッッッッ!」
「ちょっ、ちょっ! 土下座はやめてってば!」
本気過ぎて恐い!? それと目! おっ○いしか見えてない目も恐い! 何か人とか殺しそう!
「わかったから! 胸を大きくする方法教えるから! お願いだからその目はやめてよ!」
……これ以上は夢に出てきそうであった。
「……こほんっ、えーすみません、少々取り乱してしまいまして」
「いや、いいよいいよ、気にしないで」
愛紀ちゃんは一咳を挟み、いつものクールな愛紀ちゃんに戻っていた。
「じゃあ、わたしが独学で見つけたキョーニュー力学を利用したおっ○いを大きくする方法を教えるね」
「……(ゴクリッ」
わたしの発言に愛紀ちゃんは息を呑んで続く言葉を待つ。
「 おっ○いを好きな人に揉んでもらう! それだけでいいんだよ! 超簡単だよね! 」
「――おっ、おっ○いを好きな人に揉んでもらうーーーっ!?」
わたしの回答に愛紀ちゃんはめんたま飛び出るぐらい驚いた。
「……………………って、全然簡単ではないですよ、それ」
冷静にツッコミを入れる愛紀ちゃん……確かに超簡単は言い過ぎたのかもしれない。
「それよりペルシャさんが独学で見つけたって、一体誰に揉んでいただいたのですか?」
「お父様だよ」
「……………………えっ?」
「だから、お父様だよ」
「えっと、あっはい、そうでしたか」
何故か愛紀ちゃんがドン引きしていた。何故かはわからなかった。
ペルセウス王国では、入浴時に女の子なら父親に胸を揉まれ、男の子なら母親に皮を剥いてもらうのは極普通のことであったが愛紀ちゃんの地元は違うのかもしれない。
「じゃあ、次の勝負をしようか!」
「わっ、わかりました」
じゃんけーん・ぽん☆ わたしと愛紀ちゃんは各々手を出した。
「やったーーーっ! わたしの勝ちだね!」
……勝ったのはわたしであった。
「それじゃあ、愛紀ちゃんに質問するね!」
「はいっ(ドキドキ」
謎ポーズをするわたしに、愛紀ちゃんは緊張の面持ちで構える。
「ズバリ! 愛紀ちゃんの初恋エピソードを話しなさい!」
「はっ初恋エピソードですか?」
予想外な質問に愛紀ちゃんは戸惑い気味に聞き返す。
「……私の初恋はですねー」
「わくわく♪」
「八年前、私がまだ八歳だった頃です」
ほえー、八歳かぁ。
「森で迷子になっていたときに助けてくれた同い年の男の子です」
「女の子のピンチに颯爽と現れるなんておとぎ話の王子様みたいだねー」
「いえ、王子様と呼ぶにはかなり粗暴でしたね」
なるほど、ワイルド系かぁ。
「その男の子って格好良かった?」
「まっ、まあまあですかね(///」
そう答える愛紀ちゃんは頬を赤く染めていた。可愛い。
「その男の子とまた会えるといいね!」
「……えっと、あー、そうですね」
愛紀ちゃんは歯切れ悪く答え、ゲームは第三回戦へと進行した。
「「 じゃんけーん・ぽん 」」
わたし達は同時に手を出す。
わたしはチョキ、愛紀ちゃんは――……。
「――私が質問しますね」
……グー、であった。
「また、負けちゃったかー。愛紀ちゃん、ジャンケン強いねぇ」
沢山質問したかったのに愛紀ちゃんはジャンケンが強かった。
「質問します」
「じゃんじゃん来なよ! 何でも答えちゃうんだからね!」
「では――……」
愛紀ちゃんは一息挟み言葉を紡ぐ。
「 ペルシャさんは今、恋をしていませんか? 」
「――」
予想だにしなかった質問にわたしの心臓はドキッと鼓動した。
「そして――その人は甲平ですか?」
ひゅ~~~……どかんっ
気紛れで暇潰しに始めたゲーム。
二度寝を誘うような穏やか朝。
……爆弾は突然落とされた。