第161話 『 セシルVSターニャ 』
「……」
「……」
……セシルさんとターニャが机越しに睨み合う。その手には十枚のカードが扇状に握られていた。
「それではまず一本目行きましょうか」
「ええ! 捩じ伏せてやるわ!」
セシルさんが手札からカードを一枚抜く。
ターニャも手札からカードを一枚抜く。
「……」
俺はセシルさんに合図を送る。
……そして、一本目。
二枚のカードが机に裏向きでセットされる。
「「――セット」」
二人の声が重なる。
「「 オープン 」」
同時。裏向きのカードがひっくり返される。
「……一本目」
セシルさんのカードは〝1〟。
「……」
ターニャのカードは――……。
――〝2〟。
「あたしの勝ちね♪」
ターニャが不敵に笑み、〝2〟のカードを机の端に置いた。
「……はい」
セシルさんは〝1〟のカードを手札に戻した。
(……ピンポイントで一つ上のカード? 偶然か?)
このゲーム、如何に強いカードを残しつつカードを捌くのが勝利の近道である。
最初に強いカードを使えば序盤は優勢になるであろう、しかし、後半弱いカードに偏り、最終的には捲られてしまう。
つまり、相手より少し強いカードで勝つ。それが理想的なカードの捌き方であった。
……まだ一本目で確信は持てないが、ターニャは理想的なカード捌きを実現したのだ。
もし、二本目も同じような勝ち方をするならば――疑惑は確信に変わる。
――二本目。
「「――セット」」
セシルさんとターニャがカードを出し合う。
「「 オープン 」」
開示されるカード。そして、疑惑は――……。
「……あたしの勝ちね♪」
「……」
――〝1〟‐〝3〟
……確信に変わった。
(――見えている!)
……間違いない。ターニャはこちらの出すカードを透視していた。
(どうやった? いや、それよりもどうしたんだ――セシルさん!)
俺は一本目も二本目もセシルさんに合図を送っていた。それなのにセシルさんは構わず〝1〟を出し続けていた。
(……何か考えがあるのか?)
真剣な表情で手札とにらめっこするセシルさんに、俺は不安の眼差しを向ける。
そして、無情にも三本目が始まった。
(……おっ?)
……しかし、三本目。セシルさんが動いた。
カードをシャッフルしたのだ。
そして、カードの中身を見ずに机にセットした。
「運頼り? だっさぁ♪」
「どうですかね。私ぐらいになればシャッフルしたぐらいで、カードの順番がわからなくなるなんてことはありませんわ♪」
セシルさんは試していたのだ。ターニャの能力の正体を……。
(……俺達のように後ろから見ているのか? それとも透視? もしくは読心術?)
カードに細工をする時間は無かった。つまり、候補はその三つに絞られていた。
「いいわよ、それでも勝つのはあたしなんだから」
――セット。ターニャもカードを机を置いた。
「「 オープン 」」
一瞬の静寂。
走る緊張感。
……カードの中身は?
「……三連勝ね♪」
――〝1〟‐〝9〟
「……そうみたいですね」
ターニャはカードを机の端に置き、セシルさんは手札に戻した。
(……三回連続〝1〟? セシルさんは何を考えているんだ?)
〝1〟が勝てるカードは〝10〟しかない。たった一枚のカードにしか勝てないカードを何故出し続ける?
策略。
罠。
……それとも投げやりになっているのか?
俺にはセシルさんがわからなかった。
「これはもうあたしの勝ち確かなー」
「わかりませんよ、勝負は最後まで、ね♪」
挑発するターニャにセシルさんが不敵に笑む。
「では、手始めに次の勝負――……」
セシルさんが残り十枚のカードを再びシャッフルする。
「 勝ちを宣言させていただきますわ♡ 」
……そして、テーブルに十枚のカードを伏せて並べた。