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 第158話 『 再会。そして、宣戦布告 』



 「――セッ、セシル様!? 何故、このような場所にっ!」


 ……セシルさんと俺の顔を見た門番の男がすっとんきょうな声を漏らした。


 「あら? まさか、ロイドさんですか?」


 セシルさんも門番の顔を覚えていたのか、嬉しそうに微笑する。


 「五年振りの再会、お変わりないようで何よりです♪」


 「セシル様こそ……いえ、以前よりも美しくなられて」


 「あらあら、嬉しいことを言ってくださるのですね♪」


 ……本当に嬉しそうだ。


 「それよりも、どのような因果で再びアスモデウス家の門の前に?」


 「愚問ですね。私の家の門を潜るのに何の因果が必要だと仰るのですか?」


 「――っ」


 セシルさんは優美華麗な佇まいでロイドの横を素通りした。


 「戴きに参りました――アスモデウス家の全権を♪」


 ロイドはセシルさんの背を追い掛けない。美しくも凄まじいプレッシャーに俺もロイドも身動きが取れなくなった。


 「行きましょうか、甲くん♡」

 「はっ、はいっ」


 セシルさんに呼ばれた俺は、気後れしながらもその背中に着いていく。


 「……セシルさん、どちらへ?」

 「そうですねー、まずはお祖父様に挨拶に行きましょうか」


 昔住んでいたこともあり、セシルさんは迷うことなく敷地を闊歩する。


 「懐かしいですね……本当に何も変わっていませんわ」


 広い庭園・虹を架ける噴水・荘厳な石造りの玄関・T字型の両階段、それらを横目にセシルさんは呟く。

 懐かしさに柔らかく目を細めるその横顔は美しく、ついつい見惚れてしまう。


 「ねえ――……」


 セシルさんは見上げる――その先はT字型の両階段の最上段。



 「 ロザリンドお姉様♡ 」



 ……そこには、セシルさんと同じ色の瞳を持つ貴婦人がこちらを見下ろしていた。


 「生きていたのね――セシル=アスモデウス」


 「はい、地獄の底から舞い戻って参りました♪」


 互いに笑っているようで目はまったく笑っていなかった。恐い。


 「尻尾を巻いてどこかへ逃げていったものと思っていたけど、わざわざ戻ってくるなんて意外に図太いのね」

 「可愛い可愛い妹に対して図太いなんて、酷いですわお姉様♪」


 セシルさんは会話をしながら階段を登る。俺もその背中を追い掛ける。


 「その作り物みたいな笑顔、変わっていないようで安心したわ」

 「お姉様こそ、実の妹に対するものと思えないような殺意、変わっていないようで何よりです♪」


 セシルさんはロザリンドに視線も向けずに横切る。張り詰めた空気、今にも殺し合いが始まってしまいそうであった。


 交差する殺意。

 一瞬の静寂。



 「 今度こそ確実に殺してやる 」



 「 出来るものなら、ですわ♪ 」



 そして、セシルさんは屋敷の奥へ、ロザリンドは階段を降りていった。


 「……」


 まさに一触即発、息が詰まりそうであった。


 「……セシルさん、今の人は?」


 「ロザリンド=アスモデウス。私の実の姉にして」


 その声は、実の姉を語るものとは思えない程に冷たかった。



 「 五年前、私を殺そうとした兄弟の一人ですわ 」



 ……………………。

 …………。

 ……。



 「 お久し振りです、お祖父様♪ 」



 ……現当主――グリム=アスモデウスの前に立ったセシルさんは、恭しく一礼する。


 (……今のアスモデウスの全権を統べる男。一体、どんな人なのだろう)


 俺もセシルさんに倣うように膝をつき、頭を垂れた。


 「……セッ、セシルちゃんなのか?」


 ……セシルちゃん? ちゃん!?


 「はい、正真正銘のセシル=アスモデウスでございます♪」


 「……うっ……うっ……うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ……!」


 泣いた!? そして、吼えたッ!!?


 「オロロロロロロロロロロロロロロロッッッ……!」


 更に、吐いた!?


 「だっ、大丈夫ですか、お祖父様っ!?」


 「すっ、済まない、嬉しすぎてつい」


 嬉しすぎても吐かねェよ。普通。


 「ふふっ」


 何故か微笑するセシルさん。


 「お祖父様ったら、興奮すると嘔吐する癖変わらないんですね♪」


 ……どんな癖だよ。


 「ハッハッハッ、スマンスマン……ところでそこの男は何者かね?」


 そこで初めて、グリムは俺の方へと意識を向けた。


 「こちらの方は伊墨甲平といいまして」


 俺は友好の意を示すべく、爽やかスマイルを浮かべた。



 「 私の婚約者フィアンセです♡ 」



 「……」


 「……」


 「……」


 ……時間が止まった、ような気がした。


 「……なーんて、冗談ですよ♪ 冗談♪」


 セシルさんが無邪気に笑う。


 「甲くんはただの仕事の同僚です♪」


 「そっ、そうだったのか。ハッハッハッ、これは一本取られたなー」


 愉快に笑うセシルさんとグリム。


 「……」


 そんな二人を無言で見つめる俺。


 ……セシルさん。


 ……冗談なら冗談ともっと早く言ってください。


 お陰で鳩尾に数発の鉄拳を打ち込まれて、金玉を三回蹴られて、ナイフを腹にぶっ刺されたじゃないですかー、俺じゃなかった死んでましたよー。


 「えー、それでセシルちゃんは何の用件で帰ってきたのかね?」


 「……」


 「……無論、呑気に帰省してきた訳ではないのだろう」


 「そこまでお見通しとは、流石ですわお祖父様」


 セシルさんはスカートの端を摘まんで可憐にお辞儀をする。


 「私、セシル=アスモデウスは次期当主継承戦への参加エントリーに参りました」


 「……」


 「よろしいでしょうか? 第九代目当主、グリム=アスモデウス様」


 セシルさんとグリムの視線が交差する。

 そこには先程までの弛緩した空気は無かった。


 「……」

 「……」


 それから十数秒の沈黙を経て――……。



 ……グリム=アスモデウスは首を縦に振ったのであった。


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