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 第154話 『 夜空に咲く花、僕は夜を駆けた。 』



 ――俺は王都を駆け抜ける。


 建物の屋上から屋上へと跳び移り、北地区ノースエリアへ向かう。


 (急げ! ペルシャがいるのは北地区ノースエリアのターニャ広場プラザ!)


 セシルさんの所には影分身を置いてきた。

 とにかく、今はペルシャの所にいる分身と入れ替わることが優先だ。


 (――見つけた!)


 俺の視線の先には、現在進行形でペルシャの胸を揉んでいる俺の分身がいた。


 (羨まし――じゃなくて、勝手なことは許さないぞ!)


 勝負は一瞬。俺はペルシャの頭に小石を軽く当てる。


 「……?」


 ペルシャは小石の当てられた方向を振り向く。


 ――瞬間、俺は分身の襟を掴みペルシャから引き離し、路地裏へと転がり込む。


 「……って、甲平くんどこに行ったの!?」


 再び正面を向いた先に俺の姿は無く、ペルシャはキョロキョロと周りを見渡した。


 「イテテ……何すんだよ、本体!」


 一方、いきなり引っ張られ、路地裏へ連れていかれた分身は非難の声をあげる。


 「それはこっちの台詞だ! 何でペルシャのおっ○い揉んでんだよ!」


 しかし、俺も負けじと言い返す。


 「……そっ、それは」


 俺の言葉に分身は言葉を詰まらせた。


 「何か良い雰囲気だったから、だよ」


 「それだけか?」


 「ああ、それだけだ」


 「……」



 ――影分身の術、解除。



 俺は問答無用で目の前の分身を引っ込めた。


 「……予想外だ」


 まさか、俺の分身がここまで馬鹿だったとは思わなかった。

 とはいえ、早く戻らなければペルシャに怪しまれる。今はすぐに戻るべきであろう。


 「甲平くーん。甲平くん、どこにいるのー――……あっ、甲平くんだ!」


 「悪い悪い、ちょっと人混みに呑まれちまったんでな」


 俺は何事も無かったかのようにペルシャと合流した。


 「それじゃあ、行こうか」

 「……うっ、うん」


 俺は自然な流れでデートを再開する。


 「……」


 「……」


 「……」


 「……」


 ……きっ、気不味い! ついさっきまでおっ○い揉んでいたせいで気不味い! 別に俺は揉んでなかったけど!


 「……ペルシャ、その、さっきは悪かった」

 「……えっ?」


 突然頭を下げた俺にペルシャは戸惑いの声を漏らす。


 「えっと、いきなり胸を揉んで……俺もちょっと浮かれすぎてたというか」

 「……」

 「とにかく、ごめんっ」


 言い訳としては苦しいものがあったが、悪いことをしたら謝るのはおかしな話ではないであろう……俺は揉んでないけど。


 「べっ、別に怒ってないよっ……そりゃ、ちょっとはびっくりしたけど」


 ……良かった、そんなに怒ってはいないようだ。


 「それに甲平くんだったら、その、嫌じゃないというか(///」


 「……えっ?」


 それ、どういう意味?

 好きなだけ揉んでいいってこと?

 おっ○いを?


 「それって


 俺はペルシャの言動の真意を問い質そうとするも、不意に分身の視界が脳裏を過る。




 ……クリスとデートしていた分身がファルスとディープキスをしていた。




 何やってんの!? マジで!!


 何でファルス!?


 何でディープキス!!?


 「ペルシャ、ちょっと目を瞑ってくれないか?」


 「――えっ、目を? えっと……いいけど(///」


 ペルシャは俺の頼み通りに目を瞑ってくれた。


 「……(どきどき」


 ペルシャは待つ、何かを期待するかのように待つ。


 「……(どきどき」


 しかし、俺からのリアクションは無い。


 「…………甲平くん? もう目を開けてもいいかな?」

 「いいぞ」


 ペルシャは恐る恐る目を開ける。


 「…………えっ、甲平くん? 何かした?」


 「……えっ? 別に。てか、何で目を瞑ってたの?」


 「どゆことっ!?」


 すっとぼけたリアクションをする俺にペルシャがガビーンとショックを受ける。


 「……悪い、ペルシャ」


 一方、俺は夜の王都を駆け抜けながらペルシャに謝った。

 ちなみにペルシャの前にいる俺は分身で、本物の俺はファルスを張り倒すべく全速力で駆け出していた。


 「見つけたっ……!」


 意外にクリスのグループが近くにいた為、すぐに見つけることが出来た。


 (クソッ、どうにかしてファルスを排除しないと!)


 ……という訳で、俺はファルスの後頭部に手裏剣をぶっ刺して殺した。


 「……ふぅ、ファルスは取り敢えず殺せばいいから楽だぜ」


 目の前の問題を解決した俺は一息吐く。


 ――そんなとき、別の分身の視界が脳裏を過る。



 ……キャンディのおっ○いを揉んでいた。



 まぁーたぁーかぁーよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ……!


 何で! 何で君達はすぐにおっ○いを揉もうとするの!?

 いや、ホントにフォローの限界なんだけど!


 ……と言っても、無視をすることは出来ない。俺はすぐにキャンディがいる場所へと向かう。


 「もう、勘弁してくれよー」


 自業自得とはいえ、色々と限界であった。


 ……そして、何やかんやキャンディのグループを見つけた俺は、ペルシャと同じ要領で影分身と入れ替わることに成功した。


 「……大丈夫なの、お兄ちゃん。何だか息が荒いけどなの」


 「ハァハァ……だっ、大丈夫だ。ちょっと、心臓の病気なだけだから」


 「全然大丈夫じゃないの! てか、何で見え見えの嘘吐くのなのっ!?」


 ……段々誤魔化し方も雑になっていた。


 (……ヤバい。もうデートを楽しむとかそんなレベルじゃねェ)


 フォローが追い付いていないというか、既に手遅れというか、何にしても完璧なデートとは程遠いであろう。


 (…………待て! 姫は! 姫のグループは大丈夫なのか!)


 俺は不安になり、姫の所に配置した分身の視覚を共有する。


 (……こっ、これは!?)




 ……メチャクチャ普通にデートしていた。




 (……………………ああ、そういうことか)



 そうだった


 揉むおっ○いが


 無かったよ


 著:伊墨甲平



 ありがとう! 貧乳に生まれてくれてありがとう姫!!


 ……俺は心中で姫に感謝し、姫はくしゅんっと可愛らしいくしゃみをした。


 姫のグループは平和にデートするものの、他のグループは目を離す度に俺の分身が暴走し、おっ○いを揉むは、スカートの中に顔を突っ込むは、復活したファルスとキスをするはで大惨事であった。

 その度に俺は駆けつけてフォローをするも、不審過ぎる俺の行動に女性陣は徐々に不信感を募らせていった。


 (このままでは不味い! 早々に決着をつけないとじり貧になるぞ!)


 現在、俺はペルシャとデートをしていたが、既に心身共に疲労困憊していた。


 (――こうなったら花火のスケジュールを一気に繰り上げるしかねェ!)


 そう、いつでも花火の時間を調節できるように俺は分身を花火を保管する倉庫に忍ばせていたのだ。

 そのタイミングを報せる分身を向かわせてから既に五分が経っている。


 (……そろそろ、か)


 盛り上がりが最高潮を迎える建国祭。


 歌う者。

 踊る者。

 笑う者。


 誰もがその空気に酔いしれ、浮かれていた。



 ――夜空を切り裂く一筋の光。



 一瞬の静寂。


 凍りつく人々。






 ――満開。ペルセウス王国上空に巨大な光の花が咲いた。






 「……祭は終わる、直に終わる」


 さあ、


 気合いを入れろ。

 油断は捨てろ。



 「 勝つのは俺だっ……! 」



 ……作戦は最後の正念場を迎えた。








 注:これはただの浮気デートの話です。


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