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 第153話 『 油断大敵! ハーレムフェスティバル!! 』




 ――王都、西地区ウェスタンエリア、ロックベン街路ストリート


 「……苺のタルト美味しいのっ」


 「すげェ食いっぷりだな」


 ……俺とキャンディはケーキ屋の出店で山程の空き皿を積み上げていた。


 「確かに旨い! 旨過ぎるっ! うまっ! うまァッ!!」


 「……お兄ちゃんも凄い食べっぷりなの」


 俺達は次から次へとケーキ・タルト・パイを平らげていく。

 そして、空き皿の山はみるみる高度を増し、二つの巨大がテーブルにそびえ立つ。

 これ程の空き皿、とんでもない額に到っているであろう。



 無 論 、 金 は 無 い !



 「これも旨い! ああ、これも旨い!」

 「ショートケーキ~♪ アップルパイ~♪ 紅いもタルト~♪」


 パクパク!


 ムシャムシャ!


 ずべんばっ! ずべんばっ!


 ケーキが旨過ぎて食べる手を止めることが出来ない。



 勿 論 、 金 は 無 い !



 無銭飲食は犯罪である。

 無銭飲食をし、更に逃走すれば重罪である。

 それでも俺はケーキを食べ続けていた。

 大した理由なんて無い。

 他人を納得させられる言い訳も無い。


 ――正真正銘の無銭飲食である。



 ……俺とキャンディは無銭飲食を続ける。無論、後先のことなど考えてはいなかった。






 ――王都、中心部セントラル、ルッセーノ広場プラザ


 ……矢が的から大分離れた場所に突き刺さった。


 「ぬぅ~、全然当たらぬぞ」


 「ははっ、本当に剣術一筋だったんだな」


 射的の出店で弓を手に唸るクリスと軽く笑い飛ばす俺。

 俺達は弓矢を使った射的をしていて、この的に規定数の矢を出来るだけ中心を射る遊びをしていた。

 的の中心部に近づけば近づく程に点数が高くなり、その点数に応じた景品が貰えるという仕組みであった。


 「ほら、教えてやるから構えとけよ」


 「……なっ!」


 俺はクリスの後ろから手を添え、弓術のレクチャーをする。


 「まず的に正対してしっかりと弓を構える……矢を引く際に後ろへ引っ張られるから左腕はガッチリ固定するんだ」


 「むっ、わかったけど……その近い」


 「……? 近づかないとちゃんと教えられないだろ?」


 「…………このたらしめが」


 話が逸れてしまったが引き続き弓術のレクチャーを再開する。


 「左腕はしっかり固定して、右腕は力を入れ過ぎないで軟らかく矢を引くんだ」

 「こっ、こうか?」

 「おおっ、良い感じだ」


 クリスは教えた通りに矢を引き――そして放つ。

 しかし、矢はあと一歩の所まで迫るも的には当たらなかった。


 「うーん、駄目かー」

 「すっ、すまない」


 それでもさっきまでより的には近づいていた……あと少しかな?


 「よし! 次は行けるぞ!」

 「あっ、ああっ!」



 「 ぱんぱかぱーん! なんと、お客様にて本日100本目の矢となりました~♪ 」



 ……次の矢を取ろうとした所、店員が俺達の間に割り込んでそんなことをほざいた。


 「……何だよ、100本目だから何だって言うんだよ」


 「なんと! カップル様に限り100本目の矢はこちらの矢を使っていただきまーす!」


 「……こちらの矢?」


 俺は綺麗な女性店員が差し出す矢に目線を落とす。



 ……ハート型の矢尻に赤いリボンを添えられたピンク色の矢であった。



 「……何だよ、これェ」

 「目がチカチカするぞ」


 見た目は普通の矢ではないがそれ以外は特別な所は無さそうである。


 「なんとなんと! この矢を的に当てるとそのカップルは永遠に結ばれるのです! そうなのです!」


 「カップルッ!?」

 「永遠に結ばれるぅっ!!?」


 女性店員の発言に俺達はすっとんきょうな声を漏らす……この店員、無駄にテンション高いな。


 「ささっ、どうぞ使っちゃってください!」

 「ぬっ、ぬう」


 女性店員はクリスに矢を押し付けられ、困った顔でこちらを見てくる。


 「……やっ、やるか?」


 「あったり前よッ!!」


 「何故にやる気満々!?」


 面白そうだから。


 「……はあ、わかった。お前がそこまで言うならやろう」


 クリスは観念して弓を構える。


 「……」


 クリスの真剣な眼差しが的を捉える。


 「……ふぅ」


 深呼吸一回、クリスはピンク色の矢を引く。


 『……』


 女性店員や他の客の視線もクリスに集まる。


 「……」


 弦が張る、それはまるでこの場の空気そのものであった。


 ―― 一瞬の静寂。



 ……そして、矢は放たれた。








 ――王都、南地区サウスエリア、クリスタル街路ストリート


 「どうかされましたか? 心ここに在らずって感じですよ」


 「そっ、そんなことないですよ! ただちょっと緊張しちゃててっ!」


 ……俺とセシルさんは賑やかな大通りを並んで歩いていた。


 「あらあら、そんなに緊張なさらなくてもいいのに」

 「いや、その、今日のセシルさんのドレス姿が綺麗過ぎて、意識するなって方が無理です」


 俺はそれっぽい回答をして誤魔化す……いや、セシルさんが綺麗過ぎるのは心の底からの本音だけどね!


 「……もう、甲くんったらお上手ですこと(///」


 俺の回答にセシルさんは恥ずかしそうに俯く……可愛い。


 (……だが、今の俺は考え無しでデートを満喫する訳にはいかない)


 正直、現状一杯一杯であった。


 ……俺の意識は今、五つに割かれている。


 一つは姫。

 一つはペルシャ。

 一つはキャンディ。

 一つはクリス。

 一つはセシルさん。


 (……そもそも、どうやって五人同時デートを可能にしているのかだが)


 俺は改めて現状を見つめ直す。

 難攻不落とさえ思われた最悪の現状であったが、俺はファルスの助言から着想を得て、一つの突破口を見出だしたのだ。


 (突破口、それは――……)



 ……影分身の術を使った五人同時デートである。



 俺は俺の分身を各々の女性の下へ送り出すことによって五人同時デートを実行したのだ。


 (……まっ、俺は本物だけどな)


 全員分身でも良かったが、俺としても建国祭を楽しみたいという気持ちもあった為、適時にタイミングを見て分身と入れ替わっていたのだ。

 ちなみに、セシルさんの所に本物を配置したのには訳があって……というか勘が鋭そうだから分身では不安、ということで俺直々にデートしていたのだ。


 (今の所、特に問題は無さそうだな)


 この影分身の術は本当に便利な術である。

 自身の分身を作り出すだけでなく、簡単な命令なら指示通り実行できるし、分身が見聞きした景色や音を本体へ受信することが出来るのだ。


 ……ただ一つ欠点を挙げるとするならば、分身の知能は本体の1/5程度の知能しかないことだ。その為、いつでも俺はフォロー出来るようにと意識を分身へと向け続けていたのであった。


 (……これ、地味に頭が疲れるんだよな)


 常に五倍の視認情報が流れてくるのだ、脳への負担もそれ相応のものであった。

 それでも成し遂げなければならなかった。失敗すれば明日からヤリチン野郎と石を投げられる毎日を過ごさなければならなくなるのだから。


 「それで、これからどちらへ?」


 「そうですね、では芸楽げいらく通りなんてどうですか?」


 クリスタル街路ストリートは芸楽通りと呼ばれ、祭の際には多くの芸者が見せ物を路上で披露してくれるのだ。


 「……へえ、まだこちらに来て日が浅いのに随分と詳しいのですね」

 「ハハッ、セシルさん達をエスコートする為に事前に調べていたんですよ」


 「……セシルさん達?」


 「ああっ! 見てください、犬ですよ! 何かでっかい犬が優雅にダンスをしていますよ!」


 俺はセシルさんの手を引いて、ダンスをする巨大犬を見に集まった人混みへと飛び込む。


 ……あっ、


 危ねェ~~~~~~~っ! 危うく口を滑らせる所だったぁ~~~~~~っ!


 「凄いですよ、甲くん! ワンちゃんがタップダンスしてますよ!」

 「あははは、確かに凄いですね」


 良かった。何とか誤魔化せたようである。

 窮地を脱し、一息吐けた俺は引き続き他の面子のデートの様子も確認した。


 (……姫とキャンディとクリスは異常無し、あとはペルシ――っ!?)


 俺は分身越しに見た景色に驚愕した。




 ……俺(影分身)がペルシャのおっ○いを揉んでいた。




 それはちょっと揉んでいるとかそんなレベルではなく、ガッツリ揉んでいた。


 (……なっ)


 何をやってるんだ、俺ェーーーーーーーーッ!!


 俺は心中で叫ぶ……表向きはポーカーフェイスであったが。

 

 建国祭の中盤。

 最初の綻び。



 ……俺は今、窮地に立たされていた。


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