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 第152話 『 デート×デート×デート×デート×デート・フルスロットル♡ 』



 「今日、皆に聞きたいことがあって集まってもらった……!」


 ……ペルセウス王宮、談話室。俺はそこに〝王下十二臣〟のメンバーを集めて、真剣な表情で話を切り出す。


 「何だよ、俺も暇じゃねェんぞ」


 ラビが煙草の煙を吐きながら悪態を吐く。


 「本当に大事な話なんだっ……!」


 「……伊墨くん?」


 「何だよ、大きな声を出して」


 俺はバンッと机を叩き、皆の視線が一点に集まる。


 「頼む、皆の意見が聞きたいんだっ! 俺っ、俺っ……!」


 『……』


 皆が続く俺の言葉を無言で待つ。



 「 建国祭で姫とペルシャとクリスとキャンディとセシルさんとデートするんだけどどうしたらいい? 」



 ……………………。

 …………。

 ……。



 「……何もすぐ帰らなくても」


 ……酷い奴等だ。俺が頭を下げて意見を求めたのに、何も言わずに談話室を出ていくなんて。


 「……はあ、結局一人で考えなければならないようだな」


 「僕がいるよ♪」


 俺は溜め息を吐き、ソファーに座り込む。


 「今回、何とかして皆にバレずに同時デートを敢行しなければ、俺は女子らに女誑しヤりチン野郎だと思われてしまう」


 「ふふっ、思案に耽る顔も可愛いじゃない♡」


 求められるのは完全なエスコートと五人の女子をコントロールする計画性だ。

 難易度は難……いや、超難であろう。凡人であれば一考に至らずして匙を投げ出す超難易度問題であった。


 「……クソッ、駄目だ。思いつかねェよ、そんな完璧な作戦っ」


 「ふんふんふんふー、ふーふんふんふー、ふんふんふーふんふんふふー♪」


 「……」




 何 で フ ァ ル ス だ け 残 っ て ん だ よ ! !




 ……何も言わずに部屋を出ていく同僚の中、ファルスだけが談話室に残っていた。


 (何でよりにもよってお前だけなんだよ! 一番、頭おかしい奴じゃねェか!)


 反応したら負けなような気がして、俺はガン無視を継続する。


 「ふんふんふんふー、ふーふんふんふー♪」


 鼻歌すな!


 「……」


 急に黙るな! 真顔で!


 「ふんふんふーふんふんふふー♪」


 また鼻歌すな!


 ファルスの言動は支離滅裂で、俺はツッコミたい衝動に襲われる。


 (我慢だ、我慢だ伊墨甲平! ここで反応したら負けだ! 何の勝負かわからないけど!)


 俺は一体何と戦っているのだろうか? 自分自身訳がわからなくなっていた。


 「ふんふんふんふー、ふーふんふんふー♪」


 ファルスは鼻歌混じりに歩み寄り、俺の肩に手を置く。


 「ふんふんふーふんふんふふー♪」



 ――ビリビリビリーッ! ファルスが俺の服を引き裂いた。



 息をするように服を脱がせたァーーーーーッ!!?


 「ふっ、ふざけんなよっ! お前は何がしたいんだよっ!」


 俺は堪らず反応をしてしまう。流石の俺もいきなり服を引き裂かれたら無視できなかった。


 「落ち着くんだ、伊墨くん」


 しかし、ファルスはいつも通りの爽やかフェイスで俺の肩に手を置いて諌める。


 「らしくないじゃないか、この程度で動揺するなんて」


 ……加害者が言う台詞じゃないよ。


 「何を悩む必要があるんだい? 君には忍術があるんじゃないのか?」


 「忍術、だと――……ハッ!?」


 ファルスの言葉に俺はハッとさせられた。


 「やっと気づいてくれたんだね、伊墨くん」

 「……」


 俺は沈黙し、ファルスの言葉を脳内にて反芻する。



 ――君には忍術があるんじゃないのか?



 (――ある!)


 俺が操る忍術の中に、この窮地を打開する忍術が一つだけあった。

 盲点だった。まさかファルスから教えられることになるなんて思わなかった。


 「ファルスッ、ありがとうっ!」


 「ふふっ」


 俺の感謝の言葉にファルスは優雅な微笑で返す。


 「……ところで、何で服を脱がせたんだ?」


 「……」


 「……」


 「……」



 ……何か言えよ。



 ……………………。

 …………。

 ……。



 ――建国祭、当日。



 人々の往来と喧騒。


 スーツやドレス、仮装や私服、各々が統制感の無い衣服を身に纏う。


 出店や見せ物小屋の明かりが夜の王都を華やかにする。


 「……」


 待ち合わせの場所である時計台にて、俺は彼の人を待つ。

 衣服は平時の忍術装束ではなく漆黒のスーツと赤のネクタイに着替えていた。


 「…………おっ」


 俺は人混みの中から見知った少女を見留める。


 「姫、こっちだこっち!」


 「甲平、もう来ていたのですか」


 人混みから抜け出し俺の前まで駆け寄ってきた姫は――普段とは違う格好であった。


 「……久し振りに見たよ、着物を着ているのなんて」


 「そっ、そうでしたか?」


 今日の姫は、この世界に来たときに着ていた艶やかな着物を身に纏っていた。

 この世界に来てからというものの、ペルシャの影武者を務めるべく、基本的にはドレス姿であったのだ。

 そんな姫の着物姿は少し新鮮に思えた。


 「綺麗だ。やっぱり、姫は着物の方が似合ってるよ」


 「ほっ、褒めても何も出ませんよ(///」


 俺の言葉に姫は赤くなった顔を隠すように俯く。


 「それじゃあ、行こうか」


 俺は姫に手を差し出す。


 「……えっと……はいっ、行きましょうかっ」


 姫は少し躊躇うも俺の手を取る。


 「今日は二人だけで楽しみましょうねっ」

 「おうっ、仰せのままに!」



 ……そして、俺達は祭の喧騒に飛び込むのであった。








  一  方  そ  の  頃  。



 ――ペルセウス王宮、玄関。


 「甲平くーん! お待たせー!」


 とてちてと子犬のように駆け寄るペルシャ。


 「いや、今来たところだ……それじゃあ、時間も勿体無いし行こうぜ」


 「うん!」



 ……ペルシャが駆け寄るその先には、スーツ姿の俺が立っていた。


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