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 第148話 『 放っておけない傷心ガール 』



 ……フェリスの死から一週間が経過していた。


 「……ペルシャ、クリスを見てないか?」


 午後三時、俺はクリスを捜してペルシャの部屋まで足を運んでいた。

 ここ最近、クリスの姿を見ていなかった。セシルさんが言うには長い休暇を取っていたようであるが、先日王宮に戻っていたそうだ。

 しかし、部屋にも居らず、王宮中どこを捜しても見当たらなかった。


 「うーん、わたしは見てないなー」


 ペルシャは分厚い兵法指南書に目を通しながら俺の質問に答える。


 「そうか」

 「……」


 俺の顔を横目で見るペルシャが何か言いたげな眼差しを向けてくる。


 「……何だよ、ペルシャ」


 「別にー、ただ甲平くんがまたお節介しようとしているのかなぁって思っただけ」


 「……」


 ……お節介、か――まあ、図星であった。


 「わたし個人の意見だけど、今はそっとしてあげた方がいいんじゃないかな」


 「……」


 ……ド直球の正論である。


 「……そうかもな、でも」


 しかし、俺は食い下がる。


 「クリスは十分に一人の時間を過ごした……そろそろ、誰かと接した方がいいと思うんだ」


 別にちゃんとした根拠がある訳ではないが、俺とクリスは似ていた……ならば、感性も少しは似ていてもおかしくなかった。


 「一人は気をつかわないけど、一人は悩み過ぎちまう。だから、俺はクリスを放っておけない」

 「……甲平くんの好きにすればいいよ、どうせ止めても言うこと聞かないだろうし」


 ……ペルシャからの俺の評価って。


 「もしかしたら、王都の方で買い物でもしているかもね」


 「わかった、行ってくる」


 「甲平くん、仕事は? 今日は王宮内の巡回警備じゃなかったっけ?」


 「……」


 俺は何も言わずに姿を消した。それはまるで季節外れのつむじ風のようであった。


 「……まっ、甲平くんだし仕方ないか」


 ……ペルシャの溜め息混じりの呟きを背に受け、俺は王都を目指して駆け出した。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「……王都、広過ぎだろ」


 ……王宮の敷地内から飛び出し、王都ルーズウェルの中心部にて俺はベンチに座って休憩をしていた。


 「この人混みの中からクリスを捜さなきゃならんのか」


 俺は絶え間なく市民が行き交う街並みを前に溜め息を吐く。


 「……」


 文句を言っても始まらないので改めて街並みを見渡す。


 全ての道は中心部へと繋がっており、子供から老人までが絶え間なく流れ続ける。

 多くの店が並んでおり、その種類は両手で数え切れない程に豊富で、客引きの声が活気よく響き渡る。

 中央には国王陛下のブロンズ像が立っており、その周りには噴水が水飛沫を跳ねさせながら虹の橋を掛けられていた。


 「……むっ、何だこのいい匂いは」


 何処からか漂ってくる焼けた肉の香りに俺は鼻腔全開で空気を吸い込んだ。


 「……そういえば昼飯食ってなかったな」


 腹が減っては戦は出来ない……いや、腹が減っては人探しは出来ないだな。


 ……俺は香りに誘われるがままに飯屋に吸い込まれていった。







 ……私は大量の荷物を手に、通行人で込み合っている街路を歩いていた。


 (……少し休み過ぎてしまったな)


 一週間山小屋に篭って、一週間休暇をいただき、合わせて二週間も仕事を休んでしまった。

 しかし、この一週間を経て、心の傷も癒え、明日には仕事に復帰できるまでに回復していた。


 (……実家に帰省して、フェリスの遺留品を整理した)


 その間に沢山泣いたし、沢山追想した。お陰で自分自身の気持ちを整理することが出来た。


 (父上や母上とも話して、ロイス家とも縁を切った)


 元より破門された身だ、あの家には私の居場所は無かったのだから何もおかしなことはない。


 (……しかし、買い過ぎてしまったかな)


 いただいた休暇の最終日、私は気分転換に買い物をしていたのだが、あれもこれもと目移りしてしまい、両手には大量の紙袋が握られていた。


 (……おや、この匂いは?)


 何処から途もなく、焼けた肉の香りが私を包み込む。

 私はまだ昼食を摂っていなかったことを思い出す。


 (……少し遅いが昼食でもしようか)


 そう思い、私は香ばしい匂いに誘われるように飯屋へと入った。


 「 お客様一名入りましたぁーーーっ! 」


 店内に入ると同時に店員と思わしき男の声が響き渡る。


 「……」


 ……店内に入った私は言葉を失った。


 「……」


 ……男の店員も私を見留めるや沈黙する。


 「――伊墨っ!」


 なんと、男の店員は変態助平倫理崩壊非常識空気読めない忍者――伊墨甲平であったのだ。


 「クリスこそ何でこんな所に?」


 そう訊ねる伊墨は何故か給事副に身を包み、食事を乗せたプレートを運んでいる最中であった。


 「私はここで昼食をしにきたんだが……貴様こそ、何故そのような格好を?」


 「いや、つい先程まで俺もここで昼飯を食っていたんだ。だが」


 「だが?」


 ……この真剣な表情、ただ事ではないな。



 「 食べた後に財布を持ってきていないことを思い出してな 」



 ……しょうもない理由だった。


 「その後、自棄になってフルコースをお代わりして、飯代を働いて稼ぐよう言われて今に至る」


 「お代わりするなっ!」


 ……馬鹿だった。


 「てな訳で悪い! お金貸してくれぇーーーっ!」


 「……伊墨」



 ……お金は貸さなかった。


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