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 第147話 『 真昼の慟哭 』



 ……その爆発は凄まじく、呑み込んだものを塵へと変えた。


 その爆風は全てを呑み込み、その熱は全てを焼き尽くし、その衝撃は全てを破壊する。

 破壊は空気を伝播し、王宮の窓ガラスを粉微塵に破壊した。


 「――皆、無事かっ!」


 私はペルシャ様とロキを抱え、爆発から逃れていた。

 オルフェウス従事長が察しなければただでは済まなかったであろう……それ程の威力であった。


 「国王陛下っ! 殿下っ!」


 頼む、誰でもいいから二人を避難させていてくれ!


 「二人ならここにいるっ、怪我はないよっ」


 オルフェウス従事長だ。屈強な老紳士は二人を抱えて一本木の陰に身を潜めていた。


 「良かった……他の者はっ!」


 周囲を見渡すと伊墨が愛紀姫を避難させており、その他の者も舞い上がる粉塵から顔を覗かせていた。


 「……全員、無事か」


 流石は〝王下十二臣〟、自身だけでなく要人の避難にも抜けは無いようである。


 「キルシュタイン副隊長、ペルシャ様の治療をっ」


 「もうやっとりますっ」


 キルシュタイン副隊長は能力でペルシャ様の姿になり、腹部から出血するペルシャ様を治療していた。


 (……キルシュタイン副隊長がいて、助かった)


 彼の〝奇跡スキル〟は他者の姿と能力を模倣する能力であり、その力でペルシャ様の姿と〝プロネス々の加護ハピネス〟を模倣したのだ。

 便利な能力であるが、一度模倣した能力は、一度解除すると二度と使用できないという制約もあった。


 「……すぅー……すぅー…………」


 治療のお陰か、呼吸も落ち着き、顔色も血色が良くなっていた。


 (……良かった、間に合った)


 私は安堵の息を溢す。

 ペルシャ様はこの身に代えてでも護りたい大切な人である。

 彼女を失おうものなら、私は自らの腹を切って償う覚悟があった。


 (……ペルシャ様は助かった――後は)


 「どこへ行かれはるんですか?」


 立ち上がり、舞い上がる土煙の中心へ向かう私にキルシュタイン副隊長が訊ねる。


 「……少し確認したいことがありまして」


 それだけ言って、私は土煙の中心へと歩み寄る。


 「……」


 舞い上がった土煙はその重力に従い、次第に晴れていく。

 視界が開けていく程に私の心臓は緊張で締め付けられる。

 それでも歩みを止めない、この目で確認しなければならないことがあったからだ。

 そして、私はそれを見つける。


 「…………ぁっ……あぁっ……」


 それの前で私は膝をつき、嗚咽に似た声を漏らす。


 「……どうして……何でこんなことにっ」


 それを私は何度も触れた。


 それを私は何度も握った。



 ――あのね、お姉ちゃん。さっき怖い夢見たの


 ――お願い、手を握って欲しいな



 ……フェリスの手であった。



 しかし、それは私の知るフェリスの手とは違っていた。

 手首の途中からしか残っておらず、その色は青白く、触れても温もりを感じられなかった。

 目眩がした。どうにかなってしまいそうであった。

 直視に堪えなかった私は周りを見渡す。

 舞い上がった土煙もそのほとんどは大地に積もり、視界も存分に開けていた。


 青い瞳の眼球がこちらを見つめていた。


 出鱈目の角度に曲がった脚は一本木の下に転がっていた。


 どこにあったものかもわからない内臓が割れた地面の隙間に挟まっていた。


 銀色の鎧の破片と赤黒い肉片が至る所へ散らばっていた。


 「……………………あぁっ」



 ……顔の半分以上が潰れていた頭部が目の前に転がっていた。



 「……ぁぁ……ぁ……ぁぁぁっ…………」


 その首には焼け焦げたネックレスが残されていた。



 ――お誕生日おめでとう、フェリス


 ――ありがとうっ、お姉ちゃん! すっごく大事にするね!



 「……ぁっ……ぁっ……………………」


 私はフェリスの頭部だったものを抱き締める。


 「――ああぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ……!」


 悲鳴が荒れ果てた修練場にこだまする。


 涙は止めどなく溢れだし、全身の血液が焼けるように熱を帯びていた。



 ――何故だ!



 何故、フェリスが死ななければならなかったのだ!


 フェリスは素直じゃないし、私にきつく当たったりもしていた。

 それでも私にとってはたった一人の妹であった。大切な妹だったのだ。


 嫌だ!


 納得いかない!



 ――お姉ちゃん!



 あの笑顔がもう見られないなんて嘘だ!


 やっと仲直り出来たのに、また楽しい日々が始まろうとしていたのに、そんなのってないだろ、納得できる訳がないだろ!


 しばらくの間、私はその場で泣き叫び続けた。


 穏やかに流れる雲。

 暖かな陽光。


 美しくも穏やかな空とは裏腹に、世界は残酷であった。


 現実は残酷で、

 無邪気な子供のように容赦がなくて、

 いつだって私達を嘲笑っていた。


 どれだけ泣いたって悲しみは消えない。


 どれだけ叫んだって怒りは収まらない。



 ……静寂の王宮。真昼の慟哭が穏やかな空に響き渡るのであった。


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