第14話 『 赤い舌で呑み込むぞ 』
……刺客の首が地面の上を転がった。
「……まずは一人、次はどうしようかね」
俺は次なる敵を捜して周囲を見渡した。
(……姫やペルシャの護衛に合流するか、はたまた、他の刺客を討って王宮側の被害者を数を抑えるか)
俺は理を詰める。こういった戦場で感情論は危険だ。
如何に冷静に、如何に合理的に動けるかが肝だ。
(……正直、真っ先に姫の下へ駆けつけたい!)
しかし、それは我慢した。そこに理が存在しないからだ。
「……」
俺はその場で腰を据え、座禅を組む。
――静……。
聴覚に意識を集中させ、王宮内の音を探った。
「……」
北……建物が瓦解する音が聴こえる。恐らく戦闘中と思われる。
東……セシルさんが王宮内の使用人に指示を出している。
南……鉄と鉄が擦れる音が絶えず聴こえてくる。恐らく、近衛騎士団が動いていた。
西……こちらも建物が瓦解する音が聴こえる。北と同じく戦闘中であろう。
上……鳥の羽ばたく音が聴こえる。こちらは気にしなくてもいいだろう。
下……恐らく厨房と思われる位置で誰かが作業をしていた。朝食の準備をしているのであろう。
「……」
俺はゆっくりとまぶたを開き、立ち上がった。
「――待てよ」
……違和感を覚えた。
(……この非常事態に飯なんて作ってる馬鹿なんているのか?)
違和感の正体はそれであった。
メイドの悲鳴を聞き逃し、尚且つ情報伝達を受けていなければ気がついていない可能性もあった。
故に確信はなかったが、一番怪しいのは厨房であるのも事実であった。
(……確認する価値はあるな)
俺は厨房を目指して駆け出した。
……………………。
…………。
……。
「ここだな」
……俺は王宮の厨房の入り口の前に立っていた。
(……一見、何の気配も感じないが)
そう、扉の先には人の気配を感じなかった。
音も特に聴こえなかった。
(……確かにさっきまで人がいた。つまり、どこかへ移動したってことか?)
何の為に厨房にいたのかはわからない。それは今から確認しようと思った。
俺は厨房のドアノブを握り、ゆっくりと開いた。
「――っ!」
……異臭がした。
扉を開けると同時に異臭が吹き抜けた。
(何だ、この臭いは?)
俺は咄嗟に口と鼻を腕で押さえた。
――ピンッ……。糸が張る。
「……?」
その糸は反対側のドアノブから伸び、台所の上まで伸びていた。
そして、その糸はランタンに巻き付いていた。
「 あっ 」
――糸が張ることにより、ランタンが引っ張られ、台所から落ちる。
ガッ ン
シャ ッ
……ランタンが地面と衝突し、表面のガラスが割れた。
次 の 瞬 間 。
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!!!!!
……大爆発が俺を呑み込んだ。