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 第144話 『 絶対に負けたくない人 』



 ……負けた?


 (……拙は負けたのか?)


 何故、拙の身体は地面に伏している?


 何故、拙は刃を手離している?


 (…………これが敗北?)


 ……今まで何度も負けた。


 幼き頃、父上に完敗した。


 オルフェウス従事長には力で捩じ伏せられた。


 メイド長に触れることすら出来ずに打ちのめされた。


 (……………………違う)


 今までの敗北とは何かが違う。


 拙は負けず嫌いだ。


 子供の頃からずっと姉上と比べられていた。

 何をするにしても競って、何をするにしても一緒だった。


 ――拙の世界の中心には姉上がいた。


 夜を越すときも、


 朝を迎えるときも、


 稽古のときも、


 食事のときも、


 晴れのときも、


 雨のときも、


 拙の隣には姉上がいた。

 拙の前には姉上がいた。


 ……ずっと側に、ずっと長い時間を共に過ごしたのだ。


 拙は年上なのに拙より弱い姉上を見下していた。


 拙はひた向きに剣を振るう姉上を尊敬していた。


 拙は同門である姉上には対抗心を抱いていた。


 拙は厳しい環境の中、気を許せる姉上に安らぎを感じていた。


 拙は惨めな姉上が大嫌いだった。


 拙は拙を愛してくれた姉上が大好きだった。


 (……姉上は拙にとって特別だ)


 他の誰とも違う、世界でたった一人の姉妹だ。


 (……だから……だからこそ)



 絶 対 に


 負 け た く な い !




 ――ブシュッッッッッ……。血飛沫が舞う。




 「…………えっ?」


 「…………拙は……負けない」


 拙が握る剣に鮮血が滴る。


 姉上の背中から鮮血が流れる。


 「……姉上だけには……死んでも負けたくないっ」


 「……フェリス、お前まだ立てたのか」


 「――死ね」


 ――拙は答えず、真っ正面から姉上に飛び掛かる。


 「我流剣術、参の型――……」


 姉上は抜刀の構えで拙を迎え撃つ。


 (――この構えは)



   かみ        



 ――放たれる神速の抜刀。


 「 や    ぱ    ィ

     っ     り    」


 「――っ!」



 ――拙は紙一重で神速の刃を回避する。



 「幾ら火力を上げようとも先読みさえ出来れば当たることはありません」


 我流と言いながら、型自体はロイス流と変わらない。あの謎の力も出力を上げるだけで動きそのものを変えるものではない。

 ロイス流であれば攻撃の軌道を読むことなど容易かった。


 「案外つまらなかったですね、姉上の一週間の成果」


 「――っ」


 姉上が後ろへ跳


 「 逃がしません 」



 ――踏ッッッッッ……! 拙は姉上の足を踏み、後退を許さなかった。



 「 よ 」



 ――斬ッッッッッッッッッッッッ……! 白刃が姉上の腹を貫いた。



 「これでお仕舞いです、姉上」


 腹を貫いた刃をそのまま横に薙ぎ、横腹を引き裂いた。


 「――っあ!」


 「すぐにペルシャ様の治療を受ければ助かりますよ」


 拙は刃に付いた血を薙いで振り払い、鞘に収める。


 「……要らぬよ、そんなもの」


 「死にますよ」


 「……死にはしない……それと気をつけた方がいいぞ」



 ――トンッ……。拙の背後に姉上が立っていた。



 なっ――……!?


 「少しは驚いてくれたか?」


 「――っ」


 何故だ? 何故、姉上が二人?


 「これが私の一週間の成果だ」



 我 流 剣 術 、 肆 の 型



 血塗れの姉上が弾け飛ぶ。


 拙は咄嗟に刃を立てる。



     うつ     せみ



 ――しかし、受けきれなかった。


 無理な体勢で刃を受けたせいで踏ん張りが効かず、刃ごと肩を切り裂れたのだ。


 「――っ」


 拙は堪らず地面を転がり、無様に横たわる。


 「……勝負あったな」


 姉上がそんな拙を見下ろし、刃を収める。


 「剣術と忍術を組み合わせた我流剣術……最早、お前の知る私はここにはいない」

 「……っ」


 忍術だと、訳のわからないことを……。


 「認めろ、この戦い既に結果は出ている」

 「……認めるものかっ」


 ……姉上に負けるなんて絶対に認められない。


 拙にとって姉上は最愛にして最大の敵……この程度の出血で負けを認める筈がなかった。


 「剣を一本破壊した程度で勝利宣言とは、おめでたい頭ですね」


 拙は立ち上がり、予備の剣を抜く。


 「拙を見くびらないでくださいっ、拙は殺さないと止まりませんよっ」


 「それは嫌だな、私は可愛い妹を殺す趣味はない」


 「姉上はそうやって、いつもいつも拙を見下してっ……!」


 弱いくせに!

 格下のくせに!


 「拙の〝否剣アンチブレイド〟を侮らないでくださいっ! わかっているんですよ、姉上の魔力がもう残っていないことぐらいっ!」


 「……気づいていたか、流石は私の妹だよ」


 まただ、またその余裕な笑みを!


 腹が立つ! 姉上は完全に勝った気でいた!


 「御託はもういいっ、刃を構えろっ……!」


 捩じ伏せる! 完膚なきまでに!



 ――駆ッッッッッッ……! 拙は一挙に間合いを詰めた。



 「……魔力は確かに無くなったよ。だけど、私には奥の手があるんだ」


 拙は白刃を振り抜く。


 「お前もよく知っている筈だがな」




  ディー         ルー




 ……姉上が不敵に笑んだ。


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