第139話 『 メイドな騎士はお好きですか? 大好きです! 』
「……おっ、お疲れ様です。伊す……じゃなくて、ご主人様っ」
……メイド服を着たクリスが山小屋に入った俺に深々と頭を下げる。
「えっと、その、私に何かしてほしいことがあれば何なりとお申し付けくださいっ」
その言葉はたどたどしく、その頬はほんのりと紅く、恥ずかしがっているのが一目で伝わった。
「……最高だ」
……俺は今、猛烈に感動していた。
「普段のツンツンした態度とのギャップ、気の強い女を屈服させる愉悦感、慣れていない初々しさ! 全てが素晴らしい!」
「……気持ち悪っ(ぼそっ」
「その蔑む感じの表情も逆に良い!」
「くっ、何を言っても駄目なのかっ」
クリスが悔しそうに拳を握り締める。
「おやおや、ご主人様にそんな態度をとってもいいのかなぁ?」
「……くっ、さっきから好き勝手言いよって」
「ふーん、自分で言っておいて約束も守れないなんて、お前の騎士道はそんなものなのかな?」
「……ぐうっ」
ニヤニヤと嗤う俺にクリスが悔しそうに俯く。
「もっ、申し訳ございませんでした、ご主人様」
「うむ、わかればよろしい!」
「……我慢だ、我慢っ」
クリスは素直に頭を下げ、怒りを収める。
「さて、晩餐の準備は出来ているのか?」
「はい、こちらに」
クリスが手を伸ばした先に、華やかに盛り付けられた料理が並べられていた。
「ほぉー、現地の食材と調味料でここまで見映えよく出来たのか」
俺は素直に感心して、机の前に腰を据える。
「……」
「……」
「……」
「……あのー、ご主人様。召し上がらないのですか?」
食事に手をつけない俺に、クリスが戸惑い気味に訊ねる。
「あーん、は?」
「……はっ?」
「おいおい、ご主人様への食事はメイドさんがあーんするのが普通だろ?」
俺は真剣な眼差しでクリスに問い質す。
「貴様、あまり調子に乗るなよ」
「……騎士道(ぼそっ」
「……くっ……わっ、わかりました。すぐにさせていただきます」
クリスは悔しそうにスプーンを掴み、スープを掬って、俺の口元まで運ぶ。
「あっ、あーん(///」
「熱そうだから、ふぅふぅして冷ましてくれ」
「……………………うっ、承りました」
クリスは一瞬嫌な顔をするも、俺の命令通り、ふぅふぅとスープを冷まし、改めて俺の口元へとスプーンを寄せる。
「あっ、あーん(///」
「あむ……うん、旨い!」
味もそうだが、恥ずかしそうにあーんしてくれるクリスの表情が最高のスパイスであった。
「では、引き続き頼むぞ」
「はっ、はい、ご主人様」
……それから、俺はクリスのあーんによって晩餐を平らげた。
「あー、旨かった。ごちそうさま、クリス」
「はい、お褒めに預かり恐悦至極でございます」
少し慣れてきたのか、クリスは手際よく空の食器を片付けていく。
「じゃあ、そろそろ風呂にでも入ろうかね」
「では、私は洗い物をしておりますね」
「何を言っているんだ?」
俺は真顔でクリスに詰め寄る。
「ご主人様の背中を流すのはメイドの嗜みだろ」
「……貴様、さっきから素直に従っていれば
「……騎士道(ぼそっ」
「……………………すぐに準備いたします」
……クリスはそれはそれは悔しそうに入浴の準備をするのであった。