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 第132話 『 フェリスVSオルフェウス 』



 「まさか、従事長直々に手合わせをしてださりますとは思いませんでした」


 ……拙は老年の紳士に頭を垂れる。


 「この度はわざわざ時間を割いてくださり、本当に感謝いたします!」


 「そう緊張しないで欲しい、今日は君の全力が見たくてここまで来たのだから」


 オルフェウス従事長は柔らかい笑みを浮かべ、拙の緊張をほぐしてくれた。


 「わかりました、それでしたら既に準備は整っておっています」


 既に拙は鎧を身に纏い、腰には剣を携えていた、


 「オルフェウス従事長が良ければ、いつでも刃を交える準備は出来ております」

 「なるほど、やる気があってよろしい」


 オルフェウスは長剣を抜き、刃を構える。


 「メイド長、すぐに始めるから退がりなさい」

 「ええ、既に退がっておりますわ♪」


 気づかない内にメイド長は後ろの方へ退がっていた。


 (……まったく気づかなかった。この人も並みではない)


 ……屋内修練場に化け物が二人、か。


 「 おやおや、余所見とは余裕ではないか 」



 ――オルフェウス従事長は既に拙の目の前まで迫っていた。



 「――っ」


 迫り来る凶刃。


 拙は刃を抜き、迫り来るそれを受け流す。



        凪



 「 その程度で受け流せるとでも? 」


 ――刃と刃が交差した! と思った瞬間、オルフェウス従事長は刃を反対方向へ薙いだ。


 (〝凪〟を見切って、別の方向から攻めてきた……!)


 拙は再び〝凪〟で受け流そうと斬撃線に刃を立てる。


 再び刃と刃が交差する。


 (今度はどう来

        るっ!?)


 ――ぐんっ! その斬撃はあまりに重く、吸い寄せられるように床へ引っ張られる。


 (――重すぎて受け流し切れないっ!?)


 拙の刃が床に突き刺さってしまう。


 「――っ」


 拙は刃を手離し、後方へ跳ぶ。


 「武器を手離すとは些か軽率ではないかね」


 ――後方へ跳んだ拙に合わせるようにオルフェウス従事長が追撃してくる。


 「心配ご無用、拙の剣術は素手でも使えます」


 「ならば遠慮は要らぬな」



 ――オルフェウス従事長の刃と拙の身体が接触する。



        凪



 「見事なり」

 「――」


 拙の身体は打ち上げられるも空中で回転し、床に着地する。

 そこは先程床に剣を持っていかれた場所であった。


 「……流石は王国最強、素手では受け切れませんでしたね」


 受け流し切れなかった力が、拙の腕を切り裂いていた。


 「圧倒的な腕力、やはり姉上とは格が違いますね」


 拙は床に突き刺さった剣を引き抜き、再び刃を構える。


 「心外だね、私の剣術が力だけと思われるとは」



 ――バキッッッ……! オルフェウス従事長の足下が吹き飛ぶ。



 「 力 」


 一瞬にして間合いを制圧する。


 「――っ!」


 「 敏捷性 」


 拙はカウンターで刃を振り抜く。



 ――コンッ……。オルフェウス従事長は手の甲を迫り来る刃に当て、軌道を逸らした。



 「 技術わざ 」


 (――刃の側面に当てた? どんな反射神経ですかっ!)


 オルフェウス従事長の刃が迫る。


 「――っ」


 首を傾いで、紙一重で刃をかわす。


 (この距離はまずいっ!)


 拙は床を転がり、オルフェウス従事長と距離を置く。

 そして、すぐに体勢を立て直し、刃を構える。


 「……あれ?」


 ……しかし、オルフェウス従事長の姿はどこにも見当たらなかった。



 「 経験 」



 ――オルフェウス従事長は既に拙の背後に立っており、握られた刃は拙の首筋に添えられていた。


 「…………まっ、参りました」


 拙は剣を床に置き、降伏の意を示した。


 「……まあ、こんなものかね」


 「……」


 オルフェウス従事長は剣を納め、拙はそんな彼を見上げる。



  格  が  違  う  。



 ……まるで歯が立たなかった。


 拙の〝奇跡スキル〟――〝否剣アンチブレイド〟は他者の剣技を見切り、その弱点を看破する能力だ。


 ――しかし、剣を使うオルフェウス従事長に敗北した。


 (……力の差が大き過ぎた)


 幾ら太刀筋を見切ろうと圧倒的な腕力と速力で捩じ伏せられ、弱点を看破しようにも〝無い〟ものは看破しようがなかった。


 これが従事長――センドリック=オルフェウス。


 これが王国最強の守護神。


 一筋の勝ち筋すら見当たらなかった。


 「……うむ、君は確かフェリス君と言ったかね」

 「……はい」


 オルフェウス従事長は拙を見下ろしながら、疑問を口にする。



 「 私は君に圧倒的な敗北を与えた。何故、君は既に刃を構えているのかね? 」



 ……彼が言うように拙は一度手離した剣を握り、その切っ先を向けていた。


 「すっ、すみません、負けたままでは悔しかったのでついっ」


 ――超負けず嫌い。これが拙の本性であった。


 「昔からこうでして、一度負けたら勝つまで食らいついてしまうのです」

 「……ほう」


 オルフェウス従事長が興味深そうに拙を見下ろした。


 「ですのでお願いします! 拙が納得するまで手合わせをお願いします!」


 このままでは悔しくて悔しくて、一睡も出来そうになかった。


 「構わぬよ、君の気が晴れるまで相手になろう」

 「ありがとうございます……!」


 ……それから拙は何度も何度もオルフェウス従事長に戦いを挑んだ。


 何度も打ちのめされ、何度も敗北した。


 しかし、一勝どころか掠り傷一つ負わせることすら出来なかった。


 気づけば、日が暮れ、日付が変わり、朝日が昇っていた。



 ……しかし、拙は一睡もすることなくオルフェウス従事長に挑み続けていた。


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