第131話 『 試験一日目 』
「 初めまして、私がフェリス様の試験を担当させていただきます――セシル=アスモデウスで御座います 」
……優美可憐な侍女はエプロンドレスの端を摘まんで挨拶をする。
「此方こそよろしくお願いします、メイド長殿」
拙もそれに倣うように深いお辞儀で返す。
「それでは、早速ですが試験の説明をしていただいてもよろしいでしょうか」
「あら、意外にせっかちな方なのですね♪」
頭を上げてすぐに本題に入る拙をメイド長がクスクスと笑う。
「それではお望み通り、すぐに説明に入らせていただきます……では、まず修練場へと参りましょう」
「はっ、はい」
……修練場ということは実践形式の試験なのだろうか?
(ならば、ありがたい。実践形式なら望むところです)
拙をメイド長と共に修練場へと向かう。
「ところで、フェリス様は何故騎士団へ?」
道中、メイド長が拙に訊ねる。
(……これも面接の一環かもしれませんね)
その可能性もあった為、拙は慎重に言葉を選んで答える。
「―― 一つはロイス流剣術の復興、もう一つは第一王女様との縁で御座います」
「……」
拙の回答にメイド長は沈黙で続きを促す。
「一つ目のロイス流剣術の復興ですが……現在、我が流派はあまり知名度がありません。ですので、拙が騎士団長になればより多くの人がロイス流剣術を認めてくださると思います」
これは父……堅物親父の考えである。
「二つ目の第一王女様との縁ですが……姉上がペルシャ様と幼馴染みであるように、拙にもペルシャ様を傍で護りたいという意志があります」
これも拙の本意ではない。確かにペルシャ様との接点はあったが、拙は姉上のように身の程知らずの真似は出来なかった。実際はほとんど遠くから見ているだけであった。
(……この二つは建前に過ぎない)
しかし、真実は語らない。あまりにも幼稚で意地の悪い話であるからだ。
「……なるほど、立派な志をお持ちのようですね♪」
メイド長は朗らかに笑う。
「ですが、それでしたら同じロイス流でお嬢様の幼馴染みであるクリス様をわざわざ騎士団長の座から引きずり落とす必要がないのでは?」
「……」
……当然の意見である。しかし、返す言葉は既に準備している。
「姉上は五年前にロイス流を破門になっております」
……拙に敗れて。
「ですから、姉上にロイス流は名乗れません。そして、ペルシャ様の傍にいる騎士でしたらより強い方がいいと思ったからです」
「ごもっともです♪」
メイド長はどうやら納得してくれたようであり、拙も心中で胸を撫で下ろした。
「……到着しました。こちらが三日間、フェリス様の試験をする場所ですわ」
話している内に修練場の入口前に到着したようだ。
「では、早速ですが試験の説明をさせていただきます」
メイド長は説明を始め、拙はそれを傾聴する。
「内容は簡単、これから三日間、私が指定した方と手合わせをしていただきます。この際、勝敗には拘りませんが手合わせの中で実力を見ますので全力で戦ってください……以上がルールです、ご理解いただけましたか?」
「……」
本当にシンプルであった。しかし、気になることもあった。
「あの、勝敗に拘らないと言いましたが、敗北と勝利が同じ採点という訳ではありませんよね」
「はい、当然敗北より勝利の方が高評価となります……しかし、敗北したからといって減点することはありません。何故なら、本試験はフェリス様の実力を見極めることが目的なのですから」
「……なるほど」
加点式ということなのかもしれない。
「わかりました。すぐに始めましょう」
「気合い十分ですね♪ では、お望み通り、すぐに始めましょうか」
メイド長は修練場の引き扉を開き、拙を中へと案内する。
「紹介します。こちらが一日目試験を担当させていただきます――……」
それは拙とメイド長の前に堂々と立っていた。
「――っ」
拙は驚愕のあまりに息を呑む。
「 センドリック=オルフェウス様で御座います♪ 」
ペルセウス王宮で働く者の頂点。
王国最強の守護神。
……従事長――センドリック=オルフェウスがそこにいた。