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 第125話 『 剣術と忍術が交差するとき、世界は覆る 』



 「裏で君とフェリスについて調べさせてもらった」


 ……私はクロウに呼ばれ、山小屋の中で彼の話に耳を傾ける。


 「双子の姉妹にして、ロイス流剣術の同門。一人は王宮の近衛騎士団へ行き、一人はロイス流剣術の道場を継いだ」

 「……よく調べているようだな」

 「忍の情報収集能力は並みではないからな」


 クロウは話を続ける。


 「〝鬼才〟のフェリス、その名の通りはフェリスの剣の才は超人的だ。そして、その真価は剣士同士の戦いでこそ発揮される」

 「……」


 ……まさかここまで調べているとはな、彼の情報収集能力は本物のようである。


 「彼女の〝奇跡スキル〟――〝否剣アンチブレイド〟は他人の剣を完膚なきまでに否定する力だ」


 「……」


 「あらゆる剣技を一見で見極め、その癖を、その弱点を、看破する力……剣士である君が負けるのも無理はない」


 「……そこまで知っているのか」


 「当然だ、忍には常に28個の情報機関とのコネクションがあるのだからな」


 うさんくさ。


 「……まあ、そこまでわかっているのであれば話は早い」


 私はクロウを真っ直ぐ見つめる。


 「〝否剣アンチブレイド〟に勝つ手段があるのか?」


 「 ああ、勿論だとも 」


 彼は私の問い掛けに二つ返事で頷く。


 「フェリスには如何なる剣術も通用しない、君のロイス流剣術だとしてもだ」


 「……」


 「ならば、それ以外の土俵で戦えばいい! 例えば――……」


 ……そこでクロウの言わんとすることがわかった。


 「忍術を使う、とか?」


 「その通りだ!」


 私の回答にクロウは頷く。


 「君の剣術に忍術を組み合わせる、そうすればフェリスの〝否剣アンチブレイド〟を攻略できる筈だ!」


 「……っ」


 ……剣術に忍術を組み合わせる、だと。


 「……不満があるようだな」


 「……」


 私の表情からクロウが察する。


 「納得いかぬ、私は今まで剣術一筋で戦ってきたのだ。今更、それを変えるなんて」


 「……」


 「それにフェリスは剣術で戦う、それに対してこちらは剣術に加え忍術で戦う……そんなの卑怯ではないか」


 「……」


 クロウが言わんとすることはわかる。しかし、私にもプライドがあった。

 姉として、元騎士団長としてのプライドがあるのだ。


 「この勝負、平等でなければ皆も納得しないだろう。だから、忍術は使えない」



 「 君は挑戦者だ 」



 申し出を拒否する私にクロウは静かに言い放つ。


 「形振り構っていられる状況ではないことぐらい、自分でもわかる筈だ」


 「……っ」


 クロウは子供に諭すような口調で私の矜持を否定する。


 「ペルシャ嬢の傍に居られなくなってしまってもいいのか? 彼女が本当に窮地に陥ったときに真っ先に駆けつけられなくてもいいのか?」


 ……嫌だ。


 「認めろ、剣術だけでは〝鬼才〟のフェリスには勝つことなど未来永劫叶わない! 正しいだけの人間では自分の居場所すら守れない!」


 ……嫌だっ。


 「古い考えは捨てろ! 今を捨てられない人間に未来はない!」


 「……」


 「さあ、革命を起こそう……!」


 クロウが私に手を差し伸べる。


 「手を取れ、クリス=ロイス!」


 ……私は


 「君の剣術と俺の忍術で世界を覆すのだっ……!」


 私はどうしたいんだ?


 私はフェリスに勝ちたいのか?


 私はプライドを守りたいのか?




 ――クリスちゃん!




   違    う    !



 ……私はあの笑顔を守りたいのだ、あの笑顔を一番近くで見ていたいのだ。


 その為に手段を選んでいる余裕があるのか? ある筈がないだろう!


 クロウは私に言った。


 ――君は挑戦者だ


 まったくもってその通りだ。


 泥に塗れろ。

 がむしゃらであれ。


 (私はなんとしてでも勝ちたいっ! だから――……)



 ――私はクロウの手を取った。



 「……お願いしますっ」


 ……もうここには、ロイス流剣術免許皆伝者もロイス騎士団長もいない。


 「 私に忍術を教えてくださいっ……! 」


 「 ああっ! 」



 ……これが、挑戦者――クリス=ロイス誕生の瞬間であった。


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