表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

124/262

 閑話休題  『 人気投票は一日一時間 』



 ……どうしてこうなった?



 俺は〝1票部屋〟という名の牢屋にぶち込まれた王様を遠い目で見つめる。


 「……」


 「……」


 「……」


 「……」


 何だ、この沈黙はァーーーーーーーーーーーーッ!


 頼む! 誰か何か言ってくれェ!


 いや、ホント、マジで頼むからっ!


 「……どうすんだよ、伊墨っ」


 後ろから小声で声を掛けられる。


 「この声、ラビか」



 ……ラビは〝0票部屋〟の中にいた。



 「……お前、0票って、お前」


 コイツ、三番隊隊長とかじゃなかったっけ?


 「そんなことはどうでもいい、今は国王陛下の話が先だ」

 「そっ、そうだな」


 俺は現状を打破する為、ラビと作戦会議をする。


 「……で、どうすんだよ。このままじゃあ、王様ぶちギレんじゃねェのか?」


 ……そうなれば俺達使用人にどんな被害が被るのかわかったものではなかった。


 「いや、その心配はなさそうだ」

 「……?」


 俺はラビの視線の先を追い掛ける。



 ……王様が無言で泣いていた。



 ――王様ァーーーーーーーーーーーーッ!



 「……確かにキレてはいないが、見るに堪えないな」

 「どうすんのこれ? 収集付くのこれ?」

 「……そうだな」


 ラビが腕を組み、思案に耽る。


 「何かテキトーに良い感じなこと言ってフォローしてきてくれ」

 「ぶん投げたっ!」


 ……まあ、コイツは〝0票部屋〟から出られないし、仕方ないと言えば仕方なかった。


 「――いや、ちょっと待て! よく見ろ!」

 「何だよ――ッ!?」


 俺は目の前の光景に目を見開いた。




 ……同じく〝1票部屋〟に居た、ワキガのピエールが王様の肩に手を置き慰めていた。




 「……なっ」


 何やってんだ、お前ェ~~~~~~~~~~ッ!!


 そいつは王様だぞ!


 お前が肩に手を置いているのはこの国で一番偉い奴だぞ!


 さっきまで〝1票部屋〟で泣いてたけどっ!


 「……やっ、ヤバいぞ、伊墨」


 「ああ、確かにな」


 「いや、落ち着いている場合じゃねェッ!?」



 ――異臭。



 ……この異臭は?


 「――ワキガかッッッ……!」


 鼻が曲がりそうになる異臭がこちらまで流れてくる。

 この距離でもこれだけの威力! 至近距離の王様へのダメージは想像を絶する筈だ!



 ……王様は白目を剥いて、涎を垂らしていた。



 駄目だ! もうメンタルケアどころじゃねェッ!!


 「とにかく、今はワキガのピエールと王様を引き剥がすことが先だッ……!」


 「頼んだぞ、伊墨ッ!」


 俺は覚悟を決めて行くことにした。


 「誰に言っている。俺は天下の伊墨甲平だぜ」

 「……伊墨」 


 ラビに見送られながら、王様とワキガのピエールの下へと向かう。


 (……気の利いた言葉、気の利いた言葉……クソ、何かないのかっ)


 無論、そんな言葉が瞬時に思いつくほどのエリートでクレバーな脳みそは持ち合わせてはいなかった。


 (まずい、気合い入れて来たがマジで何も思いつかねェぞっ!)


 もう、王様との距離はほとんどなく向こうもこちらを見ていた。


 (――よし、腹を括れ! 伊墨甲平っ!)


 涙を流す王様はもう目と鼻先まで近づいている。


 「……」

 「……」


 二人の視線が交差する。


 「……」

 「…………あっ」


 俺はゆっくりと口を開く。


 「……」


 しかし、俺は何も言わず王様の前を横切り、ラビの前に戻った。


 「……えっ、ちょっ、伊墨っ」


 「…………だった」


 「……はっ?」


 俺の呟きはか細く、ラビは聞き取れなかった。


 「無理だったァーーーーーーーーーーーーーーーッ!」


 「てめェェェェェェェェェェェェッェェェッ!」


 ラビが檻の中から俺の胸ぐらを掴んだ。


 「あれだけ啖呵切っておいて、無理だったはねェだろうがよッ!」

 「いや、だって! 王様、近くで見たら思っていたより三倍泣いてたもん! あと、想像以上に臭かった」


 あんな悲惨な顔をしたオッサンに掛ける言葉など俺は持ち合わせてはいなかった。あと、この異臭に近づく勇気も。


 「うるせェ、もっかい行ってこい! 次こそバシッと決めてこいや!」


 「無理無理、お前が行ってこいよ!俺は何か用事思い出したから!」


 「いや、俺、出られねェから!」


 俺はラビの手を振り払って、その背中を向ける。


 「ちょっ、待てよ! 逃げんなっ!」


 「はっ、逃げてねェし! 俺はただ王様なんて別に好きじゃねェから、話し掛けないだけだし!」


 「いや、それ俺も一緒だけどよ! 一応体裁ってものがあるだろ! 俺も嫌いだけど!」


 「そうかよ! だったらお前が行ってこいや!」


 「いや、だから、俺出られねェって!」


 何故か、俺とラビで醜い口論が始まる。


 「甲平、ラビさん、少し騒ぎ過ぎですよっ」


 ……そんな二人の口論に割り込んだのは姫であった。


 「すっ、すまん。ちょっと、熱くなりすぎたな」

 「……俺も悪かったよ」


 俺もラビも落ち着く。


 心が落ち着くと周りがよく見える。


 例えば、俺達の声が思っていたよりも大きかったこと。


 例えば、俺達と王様の距離が思っていたよりも近かったこと。


 ――はっ、逃げてねェし! 俺はただ王様なんて別に好きじゃねェから、話し掛けないだけだし!


 ――いや、それ俺も一緒だけどよ! 一応体裁ってものがあるだろ! 俺も嫌いだけど!


 「……」



 ……王様が牢屋の隅っこで体育座りしていた。



 ――王様ァーーーーーーーーーーーーーーーッ!



 ……その月の俺とラビの給料は少しだけ減った。それと、ワキガのピエールは居なくなっていた。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「それではこれから上位八名の発表をしまーす♡」


 ……気づけば既に上位八名まで迫っていた。

 総点数の都合上同点がほとんどであり、0票が41名、1票が25名、2票が8名となっていた。

 ちなみに、姫・ロキ・クリス・王子や妃とかが2票であり、幸い〝2票部屋〟は準備されていなかった。


 (……いや、誰だよ。姫に入れた奴)


 ……俺も姫もまだ二ヶ月しかこの王宮にいないんだが。


 「それでは第八位――伊墨甲平さん、3票です♡」


 ……おおっ、何故か3票も貰えたぞ。


 「センドリック=オルフェウスさん、ソフィア=クラリネットさん、ロキ=キルシュタインさんも3票で、同列第八位おめでとうございます♡」


 知り合いの名前も次々と挙がる……逆にラビは何で0票だったんだろう。


 「第四位――キャンディ=シロップさん、4票です♡」


 「いぇい、なの」


 ……ロリは強し。


 「……ふん」


 心なしか、〝0票部屋〟にいるラビも誇らしげであった。


 「ここからは第三位の発表となります」


 第三位の発表に周囲がざわめく。


 「第三位――ファルス=レイヴンハート、総得票数は5票です♡」


 「ありがとね、投票者の皆」


 『キャーーーッ! ファルス様ーーーッ!』


 ……まあ、イケメンだしな。ホモだけど。


 「続いて第二位、総得票数8票――ペルシャ=ペルセウス様です♡」


 「そんなぁっ!」


 一位ではなかったことにペルシャがショックを受ける。いや、まあ父親の八倍得票したのだ、十分過ぎるであろう。


 「そして、栄えある第一位は総得票12票――……」


 ……じゅっ、12票っ!?



 「 私、セシル=アスモデウスでーす♡ 」



 ……納得しかしなかった。恐らくこの王宮にいる男子の三割近くの票を独占したであろうが、それでも納得しかしなかった。

 可愛いし、エッチだし、男ならそりゃあれたくなるわな……いや票の話だけど。


 可憐な笑顔で手を振るセシルさん。


 悔しそうにハンカチを噛むペルシャ。


 牢屋からそれを無言で眺める王様や使用人達。


 「……うん」


 俺は思った。


 「やらなきゃ良かったな」



 ……心の底からそう思った。








 ……人気投票が終わり、使用人達が会場の撤収をしていた。


 「あっ、セシルさん。それ片付けるの待って貰えないかな」


 わたしは投票箱を片付けようとするセシルさんを止める。


 「どうかされましたか、お嬢様」

 「いや、ちょっと投票箱欲しいなーって思ってね」

 「……?」


 わたしのお願いに小首を傾げるも、セシルさんは投票箱を渡してくれた。


 「処分するときは呼んでくださいね」

 「ありがとう、セシルさん」


 わたしはセシルさんに一礼して、投票箱を自分の部屋に持っていく。


 「とりゃっ」


 ――バサァッ、とわたしはベッドに投票用紙をばら撒いた。


 そして、わたしはまず最初に〝伊墨甲平〟と書かれた紙を探した。


 「あった」


 三枚の投票用紙を拾い上げる。


 「この字は!」


 一枚目は自分の字。


 二枚目は筆文字。


 三枚目はホモ臭い文字。


 「……わかりやす過ぎるね」


 概ね予想通りで納得したわたしは、81枚の中で一番汚い字を探した。


 「……あった」


 すぐに見つかった。それ程までに抜きん出て汚かった。


 (甲平くん、投票した人は――……)


 胸をドキドキさせながら見た投票用紙には――……。



 ――姫



 ……と、書かれていた。


 「……………………だっ、だよねー」



 ……わたしは小さな溜め息を吐き、投票用紙を片付けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ