閑話休題 『 人気投票は遊びじゃねェ 』
……前回までのあらすじ。
ペルシャの気紛れによって突如始まる人気投票!
正直乗り気ではない甲平!
募る不安と疑惑。
崩れ行く人間関係。
この人気投票、一体どうなってしまうんだーーーッ!
……あらすじ終わり。
「……81……82……はい、これで全員ですね」
セシルさんが集計し、今、王宮内にいる全ての人間からの票がまとめられる。
(……やるのか、本当に)
俺は点数を計算するセシルさんを横目に、冷や汗を垂らした。
(まだ、間に合うんじゃないのか? まだ、止められるんじゃないのか?)
……という訳で準備しておきましたよ、俺は!
爆弾をねっ……!
こんなこともあろうかと、俺は爆弾を懐に忍ばせていたのだ。
(この爆弾で投票用紙を吹き飛ばせばこの悲しい争いを止められるぜ!)
フッフッフッ、さあ、俺はいつでも行けるぜィ!
「……」
俺は爆弾を手に、不敵に笑う――が、そこで気づく。
(……爆弾ってやり過ぎじゃねェか)
ただの人気投票!
たかが人気投票!
それを爆破って、やり過ぎってレベルじゃねェぞ!
(しかし、どうすればこの人気投票を止められるのか、俺にはわからんぞ!)
やはり、爆弾しかないのか! 爆破するしかないのか!
いや、やはりやり過ぎなような気もする!
でも! 他の方法なんて俺! 俺!
「あー、あー、あぁー……」
……俺は口の中に指を入れる。
「……えっ? 甲平くん、何しようとしてるの?」
「いや、ゲロ出そうと思って」
「公衆の面前でっ!?」
よしっ、行けるぞ! いや、違うな、ぶち撒けるぞォ!
「せめてトイレで出して!」
……トイレで吐いた。
「……ふう、スッキリしたー」
出すもの出した俺は、晴れやかな笑顔でトイレから出る。
「 それでは人気投票の結果発表をさせていただきます♡ 」
……セシルさんが王宮中の人々を大広間に集めて、取り仕切っていた。
「……わ」
忘れてたァーーーーーーーーーーーーーッ!
俺は何でトイレでゲロ吐いてるんだよ、アホ!
人気投票を止める為にゲロ吐いたんじゃないのかよ! これじゃあ、ただゲロ吐いただけじゃねェか!
「……あっ、甲平くん。大丈夫だった? って、何でズボン脱ごうとしてるの?」
「いや、ウ○コしようと思って」
「何でここでっ!?」
……今度は屈強な騎士団の奴等に取り押さえられて、俺は無理矢理下衣を履かされた。
「クソッ、一体どうなっちまうんだっ」
もうここまで来たら止められなかった。
後は無事に終わることを祈るばかりである。
「それでは第82位、マルコ=ビッチさん――0票です♡」
――マルコビッチィィィィィィィィィィィィィィッ!
ほらね! こうなると思ったよ!
一人一票しかないのだ。つまり、二票以上獲得した人がいるということは、必ず0票の人間が出てくるのは道理であろう。
(わかっていた、わかっていたさ!)
それでも目の前の現実は目を覆いたくなる程に残酷であった。
「……うぅっ、ううっ」
俺の近くにいたマルコビッチはその場で崩れ落ち、野太い声で嗚咽を漏らす。
(……なんと惨たらしい)
同情するのも束の間、セシルさんの声が大広間に響き渡る。
「同じく総得票数0票、ハリス=ベレーさん、カリン=クワトロさん、ロビン=フックさん――……」
……次々と呼ばれる名前と響き渡る絶望の声。
(……もうやだ帰りたい)
そんな阿鼻叫喚の人気投票に俺は切にそう思った。
それから約四十名くらいの名前が挙がり終えた頃。
「……以上が82位、総得票数0票の方でした♡」
地獄のような二分間は終わりを告げた。
(……やっと終わったか)
ここから先は総得票数1以上の人間だ。先程までの悲惨さはないであろう。
「それでは0票の方はこちらの部屋にお入りください♡」
「……部屋?」
俺はセシルさんが手を伸ばした方向に視線を傾ける。
……大広間の隅に、〝0票部屋〟と書かれたプレートの掛けられた巨大な鉄の檻があった。
――牢屋じゃねェかァーーーーーーーーーーーーッ!
「はーい、一列になってくださいねー♡ 割り込まれては駄目ですよー♡」
セシルさんが笑顔で0票の人達を牢屋へと案内する。
(酷い! 酷過ぎるッ!)
あまりの仕打ちに俺は涙を流す。
「嫌だ! 嫌だぁ! 俺は行きたくないっ! 助けてくれーーーッ!」
……マルコビッチが無理矢理〝0票部屋〟へと連れていかれる。
「マルコビッチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!」
俺の叫びも虚しく、マルコビッチは牢屋の中へとぶち込まれる。
(何でだっ!)
ただでさえギスギスするのに何で追い討ち掛けるようなマネすんだよ!
頭と性根ネジ切れてんじゃねェの、マジで!
「それでは引き続き41位以降の発表をしまーす♡」
セシルさんは全く気にせず司会を継続する。
「第41位、ユーリ=クリシファーさん、ワキガのピエールさん、マイク=ドリーさん、アニス=ゾマさん――……」
次々と名前を呼ばれるが先程に比べてどんよりとした空気は流れない。
(……まあ、ここから先は一票は保証されてるから安心だな)
マルコビッチには悪いが、まだ名前の呼ばれていなかった俺はほっとしていた。
そう、俺は油断していたのだ。
しかし、それは容易く覆される。
「――あっ、言い忘れていましたが1票の方はあちらの〝1票部屋〟で待機していてくださいね♡」
そう言ってセシルさんが案内したのは――……。
……牢屋だった。
「 牢屋じゃねェかァーーーーーーーーーーーーッ! 」
「ちなみに、こちらの部屋にはシャンデリアが備え付けられていますよ♡」
……でも、牢屋じゃねェか。
「しかも、この牢屋の中にはお菓子とマットもあるんですよ♪」
牢屋って言った! 今、牢屋って言ったよね!
「えっと、続きを言いますね。ナナ=リーナさん、シルビア=ルークさん、グルド=ロックスターさん」
名前を呼ばれた人達が絶望的な眼差しで〝1票部屋〟へと連れていかれる。
「レイナ=シトラスさん、サーベル=ペルセウス様……以上が41位となります」
やっと終わったか。
「……………………いや、待てよ」
セシルさんは言った。
――サーベル=ペルセウス
……あれ、何か聞いたことのある名前のような?
俺は〝1票部屋〟の方へと視線を傾ける。
……王様が牢屋の中にいた。
「……」
「……」
「……」
「……」
――王様じゃねェかァーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
阿鼻叫喚の人気投票。
牢屋にぶち込まれる王様。
――To be continue
「まだ、続くのっ!?」
……人気投票はまだまだ続く。