第117話 『 えっちな本はお好きですか? 』
「……てな、ことがあった訳よ」
……休憩時間、俺はラビとロキとで談笑していた。
「へえ」
「ほーん、で?」
「何だよ、お前ら! 何でそんなに反応薄いんだよ!」
折角、男同士でのエロトークなのに二人のリアクションは薄かった。
「……いや、別に俺はそういうの読まねェし」
「ボクも」
……えぇー、そうなのォ。
(……てっきり、男なら皆大好きだと思っていたのに、そうじゃないっていうのか?)
どうやら、俺は世の認識を改め直さなければならないようであった。
「……てか、本読みたいんだが、もう戻ってもいいか」
「あっ、ボクもや」
「おっ、おう、悪かったな」
……何だよコイツら、ノリ悪くない?
二人は休憩所として使われている談話室のソファーに腰掛けながら読書を始める。
(……お前ら、本とか読んじゃうタイプなのかよ)
戦闘馬鹿とチャラ男なイメージだったので正直意外であった。
そろそろ俺の休憩時間も終わりそうであったので仕事に戻ろうと立ち上がる。
「……」
ふと覗けたラビの読む本のページ。
その本は重厚な色合いのカバーが掛けられていた。
「……っ」
……しかし、中身は幼女があられもない姿で、触手に弄ばれている絵であった。
――エロ本じゃねェかァーーーーーーーーーーーーッ!
……重厚な色合いのブックカバーで擬装されているものの、中身は幼女が触手の化け物に○される話であった。
(……コイツ、カマトトぶりやがった! てか、性癖が絶妙にマイノリティーなのなんなのッ!)
「おまっ、それ――……」
ツッコミたかったが、わざわざ隠しているのにさらけ出させるのも悪い気がした。
(……まあ、今日は見逃してやるよ。達者でな)
俺は心の中で格好つけてラビに背を向けた。
「……」
ふと、無意識に俺はロキの読む本の中身をチラ見してしまう。
……しかし、ただの文字の羅列であった。
(……だよな、それが普通だよな
ロキがページを捲る。
……何故かチ○コの付いた可愛らしい女の子が、ドレスのスカートを摘まみ挙げ、男性の象徴をさらけ出している。そんな挿し絵が挟まれていた。
――エロ小説じゃねェかァーーーーーーーーーーーーッ!
……ロキが読んでいたのはエッチな挿し絵付の官能小説であった。
(てか、何でお前も絶妙にニッチな性癖してるんだよ!)
幼女触手プレイにふた○り……すまん、理解できそうにないッス。
(……それにしてもコイツら、二人揃ってムッツリ野郎じゃねェか)
それなのに!
そーれーなーのーにー!
「……いや、別に俺はそういうの読まねェし」
「ボクも」
……目!
……ゴミムシを見るような冷たい目!
……そんな目で俺を見たんだよ、君達!
「えっ? お前エロ本読むの? 引くわ~、頭と下半身猿かよ~~~(笑)」
↑妄想。
「なんや、自分エロ本読むんか? 知っとるか、エロ本読み過ぎると脳みそスカスカになるんやで(笑)」
↑妄想。
――あいつらァ~~~~~っ! 好き勝手言いやがってェ~~~~~~~っ!
俺は怒りで歯軋りを鳴らした。
(どうにかしてコイツらのメンタルにダメージ与えてやらぁ!)
俺はなに食わぬ顔で読書を続ける二人を見下ろしながら復讐の炎を燃やす。
「……」
エロ本を読むラビ。
「……」
エロ本を読むロキ。
「……」
復讐計画を立てる俺。
「……」
エロ本を読むラビ。
「……」
エロ本を読むロキ。
「……」
エロ本を読む俺。
「……………………はっ」
しまったァァァァァッ! つられて俺も読んでしまったァァァァァァァッ!
(……いかんいかん、気の迷いで買った熟女寝取りもののエロ本を読んでしまっ
……………………あっ。
閃いてしまった! 悪魔の計画を!
(さてと、早速作戦開始だ!)
俺は懐から煙玉を落とす。
「……あっ、やべー(棒」
――煙玉が爆発して、談話室が煙幕に包まれる。
「……っ!」
「オイ! 馬鹿、何してやがる!」
ロキとラビはエロ本を机に置いて、部屋の換気をする。
そして、しばらくすると煙は晴れ、視界は鮮明になった。
「すまんっ、手を滑らせて落としちまったんだっ」
「……たく、気を付けろよな」
「ははっ、自分おっちょこちょいやなぁ」
俺は二人に頭を下げ、二人もしつこく怒ることはなかった。
「さて、読書に戻るか」
「せやなー」
二人は再び読書を再開した。
――ニヤリッ……! 俺は心中で笑った。
(……悪いな、お二人さん)
俺はポーカーフェイスで二人を見下ろす。
(既に仕掛けは終わってるんだよ……!)
「……」
エロ本を読むラビ。
「……」
エロ本を読むロキ。
――ラビは見た。熟女の人妻が寝取られセッ○スする絵を……。
「――がはッッッ……!」
血吐いたァーーーーーッ! 想像の十倍ぐらい効いてるゥーーーーーーッ!
(まさかここまで効くとは……ロキはどうなんだ?)
――ロキは見た。汚いおじさんにレ○プされる熟女の挿し絵を……。
「――オロオロオロロロロロロォーーーーーーッ!」
ゲロ吐きやがったァーーーーーッ! メチャクチャ汚ェーーーーーッ!
「ラビ大丈夫か!」
流石にやり過ぎたと反省した俺はラビに駆け寄る。
「……いや、心配すんな。このぐらい屁でも――うっ! オロオロオロロロロロローーーーーーッ!」
コイツも吐いたァーーーーーッ! そして、俺の服に付いたんだけどォーーーーーッ!
(……いや、マジ汚ねェよ。何かひじきみたいの混ざってるし)
ゲロまみれになった俺はただただテンションが下がった。
「ロキは大丈夫か?」
「……しっ、心配あらへんよ。熟女ぐらいなら軽傷や」
ロキはウィンクして、余裕さをアピールする。
「……いや、ちょい待ち」
笑顔から一転、ロキは無表情になる。
そして、フラフラと窓際まで歩く。
――ロキはヘッドバットで窓ガラスを叩き割った。
「どうしたんだ、お前ェーーーーーーーーーーーッ!」
突然の奇行に突っ込まざるを得なかった。
「……いっ、戒めや」
「いっ、戒め!」
「可哀想なやつで抜かへんって決めといたのに、可哀想な女の子で反応してもうた、これはその戒めやねん」
覚悟が恐いッ!?
「……どうすんだよ、これ」
ゲロと血でまみれ、窓ガラスが割れた談話室を前に俺は途方にくれた。
「とっ、取り敢えず服を脱ごうっ」
ゲロまみれでは片付けすら儘ならなかった。
俺は服を脱ぎ、褌とブラジャーだけになる。
(……さて、片付けはどうしたものか)
二人は既に死に体である為、俺が掃除しなければならなかった。
確か部屋の隅に掃除道具が仕舞われていた筈である。
「……はあ」
俺は溜め息を吐き、掃除道具に手を伸ばす。
「 伊墨、いつまで休憩しているんだっ! 」
――談話室の扉が乱暴に開かれ、クリスが姿を見せた。
「……何だ……これはっ」
……クリスは目の前の光景に戦慄した。
ゲロと血にまみれた床や衣服。
叩き割られ、無駄に風通しのいい窓。
ゲロまみれで死にかけの二人。
褌とブラジャーだけの俺。
……まさに、地獄絵図であった。
「ふざけているのか、馬鹿者ーーーーーーーッ!」
「すみませんでしたぁーーーーーーッ!」
クリスが剣を抜き、俺は謝りながら逃げ出した。
……一時間後、クリスに捕まった俺は談話室の掃除をさせられた。