第115話 『 恋の始まり、僕は君と口づけを交わす。 』
「本当に無事に帰ってきてくれて良かったっ」
ペルシャが涙ぐみながら俺の生還を笑顔で迎えてくれた。
「いや、今回ばかりは流石の俺も危なかったよ」
軽く三、四回は死にかけたしな。
(……でも、まあ)
……ペルシャの笑顔を見たら、頑張った甲斐はあったのかなと思えた。
「そういえば姫は? 怪我をしていなかったか?」
「愛紀ちゃんなら私が怪我を治したし、今はお風呂に入ってるよ」
……良かった。大きな怪我はしていなかったが、姫は俺の主君だ。心配はいくらしても足りなかった。
「それにしても心配したんだよ、甲平くん、もう三日間も寝ていたんだよ」
「へえ、俺そんなに寝てたんだ」
道理で身体がやけに鈍っている訳だ。
「甲平くんが寝ている間はファルスくんが看病してくれたんだよ」
「……あっ……えっ……そう」
人選どうなってるんだっ、おま~~~~~~~ッ!
「やっぱり男同士の方が気兼ねなく看病できていいよね、着替えとか♪」
「…………だな」
着替えで済む訳ねェだろォがっ! 考えればわかるだろォォォォォォォッ!
「まさか、何かあったりした?」
「……いや、あの、その」
「ふふっ」
「何その意味深なリアクション!」
何故かペルシャが興奮気味に頬を染める。
「ふんふんふんふー、ふーふんふんふー、ふんふんふーふんふんふふー♪」
「何で鼻唄っ!?」
……それは俺にもわからん。
「……そっ、それは置いといてー」
ペルシャはこれ以上の深追いは危険だと感じたのか、話題を変える。
「甲平くんは何か欲しいものとかないかな?」
「……欲しいもの?」
「うん、甲平くん、今回凄く頑張ったから何かご褒美あげようかなーって」
……ご褒美、か。
(まあ、確かに自分で言うのもあれだがかなり頑張ったな。にしても、ご褒美か……)
ほわん、ほわん、ほわーん。
「甲平くーん♡」
……ペルシャ(メイド.ver)
「甲平くーん♡」
……ペルシャ(ビキニ.ver)
「伊墨くーん♡」
……ファルス(全裸.ver)
「ファルス♡」
……俺(全裸.ver)
「伊墨くん♡」
「ファルス♡」
……こうして、俺とファルスは永遠の愛を誓った。
ほわん、ほわん、ほわーん。
「誓うかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ! 誓ってたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「急にどうしたの甲平くーん!」
突然の乱心に、ペルシャが驚いた。
「すっ、すまない。ちょっと、ケツの穴にバナナを入れる想像しただけなんだっ」
「どんな想像してるのっ!?」
まずい。俺も何かおかしくなってるな。
「じゃあ、ここにバナナあるけどお尻に入れちゃう?(///」
「何でバナナあるんだッ! てか、バナナでかっ!」
ペルシャの手に握られていたバナナは通常のバナナの倍くらいあった。
「じゃ、じゃあ入れるよ、バナナ(///」
「……えっ、入れるの? ちょっ、マジでっ!?」
何故か、流れで俺のケツ穴に特大バナナを入れることになった。
「えーと、本当に入れるんですか、ペルシャさん」
俺は四つん這いになり、ペルシャがバナナを俺のケツに近づける……って、無表情でガン見すんなファルス!
「甲平くん、罰ゲーム何だからグチグチ言ったら格好悪いよ」
「 罰ゲームだったのっ!? 」
……いつの間にか、ご褒美から罰ゲームへと趣旨が変わっていた。
「……いっ、入れるよ(///」
バナナを俺のケツに近づけるペルシャ。
「おっ、おう」
下半身裸で四つん這いになり、バナナ挿入を待つ俺。
「……」
無言でそれを見つめるファルス。
「 ペルシャさん、国王陛下が捜されてましたよ 」
……ノックをして、扉を開けたのは――姫であった。
「……………………あっ」
そして、姫は目の前の光景に息を呑む。
下半身裸で四つん這いになる俺。
そのケツにバナナを挿入しようとするペルシャ。
それを真剣な表情で見つめるファルス。
「……なっ(///」
目の前の光景に息を呑む姫。
下半身裸で四つん這いになる俺。
そのケツにバナナを挿入しようとするペルシャ。
それを真剣な表情で見つめるファルス。
「 何やらせてんだっ、おんどりゃーーーッ! 」
――姫の跳び蹴りが俺の顔面に炸裂した。
「――ぐぼァッ!」
俺は堪らず吹っ飛ぶ。
「ひゃんっ」
ペルシャが驚いて尻餅をつく。
「……あっ」
「……えっ」
まずい! 俺が吹っ飛んだ方向にペルシャがっ!?
(こっ、これは!)
避けらんねェっ!
……俺とペルシャの顔は、もう目と鼻先までに迫っていた。
「……あっ」
姫もそこで現状に気づくが、勢いのついた慣性は誰にも止められなかった。
(……えっ、これってまさか、接ぷ
――ちゅっ……。
……そして、二つの唇は重なった。
「 ふう、危なかったね 」
……俺とファルスの唇がッッッ!
「……………………はっ」
……えっ? 何これ?
「危うく君のファーストキスを奪われるとこだったよ」
「……ちょっ、おまっ」
……キスしたのか? ファルスと? ケツ穴だけに留まらず?
「……こっ、甲平くん」
「ごっ、ごめんなさい、甲平」
ペルシャと姫が憐れみの視線を向けてくる。
……俺のファーストキス。
……ファースト……キス。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ……!」
俺は叫んだ。
もう、叫ばずにはいられなかった。
「ふふっ、照れ屋さんだね、君は♪」
優雅に微笑するファルス。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ……!」
半狂乱で泣き叫ぶ俺。
……こうして、賑やかで楽しい日々は始まりを告げたのであった。
……惜しかったな、ってわたしは思った。
(……どうしよう、まだドキドキしてるよぅ)
甲平くんの顔がすぐ近くまで迫って、あと少しでキスしそうになった。
(……収まって、わたしの心臓)
思い出しただけで顔から火が噴きそうになる。
(変なの、甲平くんはただの友達なのに)
――ただの友達。
……その言葉に違和感を感じ始めていた。
いつからだろうか?
いつから変わってしまったのだろうか?
――俺はお前が大好きだっ……!
……きっと友愛の意味で使われた言葉だ。
わかっている、頭ではわかっていた。
なのに、
それなのに、
(……甲平くんの女たらし)
……どうして、こんなにも動悸が早くなってしまうのだろうか?
(……もう、訳がわからないよー)
〝それ〟は甘くて、酸っぱい果実。
〝それ〟は小さな春の芽生え。
……わたしはまだ、〝それ〟を何と呼んでいいのかわからなかった。