第114話 『 動き出す〝大罪〟 』
「聞いたかい? 〝暴食〟が壊滅したってよ」
――アモン邸。
「へえ、〝暴食〟のゼロは世界でも十本の指に入るんじゃなかったっけ?」
「そうそう、そのゼロだよ♪」
……ここはアモン邸。シルビア王国の首都――東アモーレ市街に建つ広大な屋敷である。
「 しかも、壊滅させたのはたった一人の男らしい♪ 」
僕は甘いミルクティーを口に運ぶ……やはりミルクティーは甘いにのに限る。
「……へえ、てかそれ角砂糖何個入れた奴だよ」
「えーと、十個以上だったかな?」
「うへぇ」
ソルトが僕の回答に顔を青ざめさせる……双子の兄弟だというのに、僕とソルトの趣向は正反対であった。
「……次代の〝神〟を決める十三人によるサバイバルゲーム。ペルセウス王国は無視できないレベルにまで成長しているね」
王国最強の守護神――センドリック=オルフェウス。
〝色欲〟の魔女――セシル=アスモデウス。
不死なる執事――ファルス=レイヴンハート。
そして、一夜にしてベルゼブブ小隊を壊滅させた新参者。
……この四名は特に注意しなければならないであろう。
「まあ、何にしても〝神〟になるのは僕らの主だ」
「だね♪」
ここは珍しく意見が合致した。
「……して、我等が主はどちらへ?」
「さっき蝶々を追い掛けたままどっかに行っちゃったよ」
「……全く困ったものですね、我が主の奔放さには」
……僕は溜め息を吐き、ティーカップに口をつけた。
――ルシファー邸。
「……帰りが遅いね、あれは一体何処で油を売っているのやら」
……窓から月光の射し込む一室で、私は彼の人を待つ。
(……最近、力を付けているベルゼブブ家の様子を見てこいと向かわせたのに、もう定時報告の時期から一日が経っているね)
やはり、あの男に行かせたのが間違いだったのかもしれない。
(能力は高いが如何せん自由奔放で不真面目過ぎる。これでは待っているだけでくたびれてしまうね)
困った部下であるが、同時に信頼もしていた。
(――彼は必ず帰ってくる)
……それは確信であった。
「……まったく、最強の中の最強であるこの私を待たせるなんて彼ぐらいだよ――そうだね、竜峰?」
「やはり、俺が行くべきだったな」
私の問い掛けに一人の男が静かに呟く。
「君には行かせないよ、仕事が雑だからね」
「……」
男は不満そうに沈黙する。
「……それより、ベルゼブブを壊滅させた男が気になるな」
「ただの噂だ。あまり鵜呑みにするのはよした方がいいよ」
それ程の実力者が今まで姿を隠し続けていたとは考えづらかった。
「確かに突然そんな強者が出てくるなんて普通は考えられない。だが、前例が無い訳ではないであろう」
「……よく言うよ」
竜峰が言うように前例ならあった――私の目の前に……。
「何にしても楽しませてくれそうじゃないか」
「ああ、まったくだ」
月のよく見える夜。
静寂した部屋。
……私は溜め息を吐き、彼の人を帰還を待ちわびた。