第113話 『 ただいま 』
……目が覚めると俺はベッドの上にいた。
(……あれからどうなったんだっけ?)
俺は腕を組んで記憶を振り返る。
(……ゼロに勝って、姫とファルスと一緒にドラコ王国から逃げ出して、ペルセウス領に辿り着いたくらいで力尽きたんだっけ?)
その後のことは覚えてはいないが、この広い部屋は間違いなく俺の部屋であり、恐らくファルスがここまで連れてきてくれたのだと想像はついた。
「……いや、本当によく生きて帰って来れたな」
ベルゼブブ小隊やドラコ王国軍と連戦を続け、最後にはベルゼブブ家最強のゼロまで倒したのだ。自分で言うのもあれだがかなり凄いことをしたような気もする。
(……血塗れの服を脱がしてくれたのは有難いが、服ぐらい着せて欲しかったな)
掛け布団を取ると、俺は何故か全裸であった。
「あれ、服あるじゃん」
暗くてよくわからなかったが床に寝巻きが転がっていた。
取り敢えず俺は、ベッドのすぐ近くにあるランタンの明かりを灯した。
「……」
……………………えっ?
「……えっ、何これ?」
俺は目を擦って、改めて現実を直視する。
「 やあ、目を覚ましたかい――伊墨くん 」
……ファルスが俺のベッドで横になっていた。全裸で。
「……えっ、ちょっ、どういうこと?」
訳がわからなかった。
否、脳みそが理解することを拒否していた。
「……俺が寝ている間に一体何がっ」
「 抱いたよ 」
「…………おっ、俺が寝ている間に一体何がっ」
「 セッ○スしたよ 」
「……おっ、俺が寝ている間に
「 寝ている君も中々可愛かったよ♪ 」
「……」
……えっ
……あっ
……うっ
――うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ……!
嘘だ!
「嘘じゃないよ」
うっ、嘘だ! まさか童貞を通り越して処女を奪われるなんて、そんな馬鹿な!
「まあまあ、落ち着きなよ」
何かお尻もヒリヒリするし!
「塗り薬、使うかい?」
認めたくはないが、俺は寝ている間にファルスに襲われていたらしい。
「……」
駄目だ! やっぱり認められねェ!
「――いや、待てよ」
俺が処女を奪われた証拠なんて、ファルスの言葉以外に何もない! そう、何もないんだ!
「塗り薬、使うかい?」
お尻の痛みもあれだ! 姫を助けに行く前に出した特大なアレで肛門を切ったに違いない! いや、そうであってくれ! 頼むから!
「塗り薬、使うかい?」
「ちょっと、黙ってて!」
「ふんふんふんふー、ふーふんふんふー、ふんふんふーふんふんふふー♪」
「鼻唄やめろっ!」
「……」
「……ふう、やっと静かになったな」
「ふんふんふんふー、ふーふんふんふー、ふんふんふーふんふんふふー♪」
「だから、鼻唄やめろって!」
一先ず冷静になれ!
俺は今、混乱しているから冷静な判断が出来ていないんだ!
「……そっ、そそそそうだ。取り敢えず、ふっ服を着ようっ」
俺は立ち上がって床に転がっていた寝巻きに手を伸ばす。
――ブシャーーーーーッ! 俺のケツから大量の血が噴き出した。
……………………はっ?
「……えっ? 血?」
何で血が?
こんなに沢山?
「……痛い? 夢、じゃない?」
「塗り薬、使うかい?」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ……!」
……俺は肛門に塗り薬を塗った。
……………………。
…………。
……。
……肛門に塗り薬を塗り終えた俺とファルスは、取り敢えずペルシャの部屋に足を運ぶ。
「ペルシャ、入るぞー」
俺はペルシャの部屋の扉をノックして、ドアノブを回して開いた。
「……甲平くん」
「……ペルシャ」
そんなに経っていないのに、とても長い間会っていなかったような錯覚をした。
「怪我はもう大丈夫なの?」
「ああっ」
……心にはついさっき深い傷を負ったが。
「……あっ、そうだ」
俺は屋敷を出る前のやり取りを思い出した。
「約束は守ったぜ、ペルシャ」
「……っ」
――約束するよ。必ず姫と一緒に帰ってくるから
……俺はそうペルシャと約束した。
「うん、おかえりなさいっ」
「ああ、ただいま」
――だから、そのときは満面の笑顔で出迎えてくれよな
……ペルシャは約束通りの満面の笑顔で出迎えてくれた。