第112話 『 帰ろう、あの場所へ 』
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 俺の拳とゼロの拳が衝突し、衝撃波が吹き抜けた。
(――重いッ)
ゼロの最後の一撃は凄まじく、俺は僅かに押されていた。
(最後に何て一撃を放ちやがるんだ、コイツはっ……!)
腕が軋む。
血管や筋肉が切れる。
――負ける。
(このままじゃ負ける……!)
腕が壊れる。そしたら、あの拳は俺の心臓を貫き――殺す。
――ピシッ……。
拳の骨が折れ、伝播するように腕の骨にも亀裂が走った。
「――ひゃはっ♪」
ゼロが勝利を確信し笑う。
(絶対に! 負けたくねェ!)
……俺はまだ死にたくなかった。
(俺は帰るんだ! 皆が待っている、あの屋敷に!)
――お兄ちゃん
……キャンディ。
――ムカつくがてめェの手柄だ! くれてやる!
……ラビ。
――私がペルセウス王国近衛騎士団、団長――クリス=ロイスと知っての狼藉か!
……クリス。
――僕がただ今説明に与った、ファルス=レイヴンハートだよ
……ファルス。
――甲くん、何てどうですか?
……セシルさん。
――わたしはペルセウス王国、第一王女。ペルシャ=ペルセウスです……!
……ペルシャ。
――甲平っ!
(……姫っ!)
歯を食い縛れ!
拳を握り直せ!
(生き残るんだ! 生きて皆とまた遊ぶんだよ!)
――俺の拳が吹き飛んだ。
「――っ」
「ひゃはっ♪」
ゼロの拳はそのまま俺の拳を無くした腕を破壊する。
「 な 」
……まだ、拳が壊れただけだ!
「 治れェェェェェェェェェェェェッッッ……! 」
――俺は超速再生で腕と拳を再生した。
「――っ」
「悪いな、ゼロ=ベルゼブブ」
――ゼロの腕が弾かれる。
「 俺とお前とじゃ、生きる覚悟が違うんだよ 」
――俺の拳がゼロの土手っ腹を貫いた。
「――がっ……馬鹿……なっ」
血飛沫が舞う。
衝撃波が吹き抜ける。
「……じゃあな、帰らせてもらうぜ」
俺はゼロから腕を抜く。
ゼロが崩れ落ちる。
「……俺達の帰るべき場所にな」
ゼロは地面に俯せで倒れ、それから動くことはなかった。
「……」
俺は無言でゼロの亡骸を一瞥し、姫とファルスの方へと歩きだす。
「甲平っ……!」
姫が目元に涙を浮かべながら駆け出す。
「良かったっ、生きていてくれて、本当に良かったっ……!」
姫は俺に飛びつき、大粒の涙を溢した。
「……心配掛けたな、姫」
「本当に、本当に心配したんですからーっ!」
俺は姫を抱き締め、その温もりを堪能した。
これだ。
これが俺が守りたかった温もりであった。
「帰ろう、姫」
今はただ恋しかった。
狂おしい程に帰りたかった。
「ペルシャ達が俺達の帰りを待っている」
「はいっ」
賑やかで、楽しい、あの場所へ……。