第110話 『 怒り 』
(……今のは食らったな)
……腕を硬化してガードしたのにも拘わらず腕がへし折れていた。
(……まあ、すぐに再生するがな)
俺は〝九尾〟の力で、折れた腕を再生する。
――これが人外の力である。
〝九尾‐槍型〟は変化の力だ。
大きさ・形状・状態・素材を自在に操り変化させることが出来た。
その力を体内に取り入れた俺は自分の身体の大きさ・形状・状態・素材を自在に変えることが出来るのだ。
先程も筋肉量を増やして瞬発力を上げたり、肉体を鋼にして防御力を高めたり、〝鬼紅一文字〟での自傷やゼロの攻撃での傷は肉体を健全な状態に戻していた。
今の俺はほぼ不死身である。
(――だが、油断は禁物だ)
如何に超高速で再生できようが、即死してしまえば一貫の終わりであった。
(……それに気を強く持たねェと呑まれそうだな)
……〝九尾‐槍型〟の素材は巨大な化け狐だ。
それを身体に取り込んだのだ、それは化け狐を身体の中に飼っているの同じであった。
「……頼むから眠っていてくれよ」
……今はゼロとの戦いに集中したかった。
「さて、行くか」
――ドッッッッッッ……! 俺は真っ直ぐにゼロへ飛び出した。
「来ォいっ! 化け物ォ!」
「てめェが言うなァッ!」
俺は飛び掛かった勢いそのままゼロに殴り掛かる。
ゼロも拳を振るって迎え撃つ。
――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 互いの拳が互いの頬に叩き込まれた。
「……ぐっ」
「――重ッ」
次 の 瞬 間 。
――両者は反対方向へ吹っ飛ばされた。
地面をバウンドし、建物を破壊し、瓦礫に呑まれる。
舞い上がる粉塵。
生温い風が吹き抜ける。
「ひはっ♪」
ゼロが瓦礫を吹き飛ばして立ち上がる。
「イッテェな」
俺も瓦礫を吹き飛ばして立ち上がる。
「ひはっ、腕力じゃあキリがねェみたいだなァッ!」
「……そうだな」
……とは言うものの、顔面を硬化していなかったら顔面が吹き飛んで即死していたので危なかった。
「だったらもっと火力をぶち上げればいいよなァッ!」
見 え ざ る 手
……無数の瓦礫が浮遊し天を覆う。
暴 炎
……浮遊した瓦礫が火を纏う。
「……っ!」
まずい! この射程範囲はっ!
「全部ぶっ飛べ♪」
終 末
――燃え盛る瓦礫が雨のように降り注ぐ。
「――姫ェッッッ……!」
俺はゼロに背中を向けて、姫の方へと駆け出し
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 燃え盛る火の雨が地上を吹き飛ばした。
「ひゃはっ」
燃え盛る大地。
「ひははははははははははははははははははははははッッッ……!」
ゼロの笑い声がこだまする。
舞い上がる粉塵。しかし、やがて視界は開かれる。
「……」
「……甲平っ」
姫の前に立つ俺に姫が不安と心配の声を漏らす。
「……怪我はねェか、姫」
「はいっ、それより甲平の方がっ」
俺は無数の燃え盛る瓦礫に打ち付けられ、満身創痍であった。
「問題ない、すぐ治る。それよりも――……」
俺は姫からゼロへと視線を傾ける。
「また、姫に手を出したなっ……!」
「ひはっ、キレんなよ。ここは戦場だ、安全地帯なんてある訳ねェだろうが」
見 え ざ る 手
超 ・ 暴 炎
――燃え盛る瓦礫が一ヶ所に集まり、巨大な燃える岩石となる。
「なあッ!」
炎 神 の 鉄 槌
――燃え盛る巨大な岩石が俺と姫目掛けて落ちてくる。
「またかっ! 逃げるぞ、姫っ!」
――縛ッッッ……! 俺の身体に鋼鉄の糸が絡み付き、拘束した。
「逃がさねェよ、バァーカ!」
(――これはクロエさんの
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 先程とは比べものにならない程の爆発が吹き抜けた。
「勝ったッ!」
燃え盛る大地の上、ゼロは狂笑した。
「ひゃはっ、俺の勝ちだァッ!」
舞い上がる粉塵。
灼熱の大地。
「 どうやら間に合ったようだね、伊墨くん♪ 」
俺達は生きていた。
そして、そんな俺達の前に一人の男が立っていた。
「――ファルスッ!」
……そう、俺と姫の前にファルスが立っていた。
「……何でファルスが?」
「無論、障害を乗り越えて来たよ」
そう微笑するファルスの手には黒い刃が握られていた。
「どうやら大分手こずっているようだね」
ファルスは俺に絡み付く鋼鉄の糸を黒い刃で切り裂き、拘束を解除した。
「愛紀姫さんのことは僕に任せて、君は君の戦いに集中するんだ」
「……」
「誰かを守りながらで勝てる相手じゃないんだろ?」
「……ファルス」
……お前、格好良すぎんだろ。
「ありがとな、必ず借りは返すよ」
「楽しみに待っているよ♪」
俺は姫をファルスに任せて、ゼロの方へと歩み寄る。
「二人同時に来ても構わねェぜ、俺はよォ!」
「……」
「今回は運良く仲間が守ってくれたが、次はそうはいかないぜ」
「……」
「次だ。次でお前に留目を刺してやるよ♪」
「 三回だ 」
「……はっ?」
……俺は既にゼロの目の前にいた。
「 お前は三回、姫に手を出した 」
――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 俺の渾身の拳がゼロの顔面にぶち込まれた。
「――っ」
ゼロは吹っ飛ぶ。
建物を一つ、二つ、三つと瓦解させながらも止まらない。
「……お前は俺を怒らせた」
更に四つ、五つと建物を瓦解させ、ゼロはやっと止まれた。
「 死んだって許さねェぞっ……! 」
血が沸騰しそうな程に熱かった。
肉体は理性を置き去りにした。
……これが俺の本物の〝怒り〟であった。