第108話 『 妖狐を喰らう 』
「 姫に手を出すな 」
……俺は困惑した。
「……何で生きてんだよ」
奴はここに来る前から既に満身創痍だった。
「……何で立ち上がってんだよ」
俺は確かにコイツを殺した。
心臓だって止まっていた。
「……化け物……かよ」
……それなのにコイツは俺の前に立っていた。
今だって死にかけなのに、いつ死んだっておかしくないのに、目だけは死んでいなかった。
「……お前が」
死に損ない野郎の瞳が俺を捉える。
「 姫を傷つけたのか? 」
「――っ」
……何だ今の殺気は!
(怯えたって言うのかよ、この俺が? 第一位であるゼロ=ベルゼブブが?)
……たかが劣等種に?
「……ふざけるなっ」
見 え ざ る 手
……無数の瓦礫が浮上する。
「俺が最強だ! お前は死に損ないのクズだ!」
「 〝九尾‐槍型〟 」
……奴は金槍を握った――かと思ったら。
「 〝液化〟 」
――金槍が金色の水になった。
「……認めてやるよ、ゼロ=ベルゼブブ」
死に損ない野郎は金色の水を両手で受ける。
「……お前は俺が戦った中で断トツの化け物だ」
その金色の水をゆっくりと口元へと運ぶ。
「……人間のままじゃお前に勝てない……だから」
「……」
――ゴクンッ……。飲んだ、得体の知れない水を飲んだのだ。
「……御託は終わったのか、死に損ない」
「……」
浮遊する無数の瓦礫が僅かに動く。
「じゃあ、もう死んじまってもいいよなァッ!」
――落石。無数の瓦礫が奴を呑み込んだ。
「おまけだァッ!」
――建物一棟がそのまま瓦礫ごと押し潰した。
「……ひゃはっ」
……奴は死んだ。
……さっきの不安は杞憂に過ぎなかった。
「ひはっ、最強はこのゼロ=ベルゼブブだっ! 世界は俺を中心に回っているんだよっ!」
「 誰が最強だって? 」
――斬ッッッッッッ……。建物が一刀両断され、崩れ落ちる。
「……なっ!」
「……さっきから第一位だの、最強だの、よっぽど強さにコンプレックスがあるようだな」
……奴は生きていた。
……深紅に輝く刃を手に、再び俺の前に立ち塞がった。
「そうだな、決めたよ」
傷は癒え、
目は依然として強い生命力を帯びていた。
「 お前に世界の広さを教えてやる……! 」
「……っ」
……世界の広さ?
……教えてやる?
生 意 気 だ !
「ぶっ殺すッッッ……!」
――俺は真っ正面から突っ込んだ。
コイツは殺す!
惨たらしく、人間の尊厳をグチャグチャにして殺してやる!
「最低最悪に死んじまいなァッ!」
黒 鱗
――俺の両腕が黒く染まる。
「――」
……避けない?
……奴は身動ぎ一つしなかった。
炸 裂
――掴ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!
……奴の掌が俺の顔面を掴んだ。
「……ふざけんな、何でお前ばっかがキレてんだよ」
「――っ!」
――ぐんっ……! 強力な斥力が襲い掛かる。
「……姫を泣かせやがって……姫を傷つけやがって」
「――離
――俺は後頭部を地面を砕く程の勢いで叩きつけられた。
「……詫びも謝罪ももう遅い」
「……っ」
掌の隙間から見えた奴の顔。
――悪魔。
……まさしく、悪魔そのものであった。
奴の掌に力が加わる。
地面に亀裂が走る。
「 お前はここで俺がぶっ殺す 」
――ゴッッッッッッッッッッッッッ……! 更に強い力で押し込まれ、地面が弾け飛んだ。