第106話 『 君の声 』
――俺は敗けたのか?
……真っ暗だ。
……ここには何も無い。
「……姫は?」
そう、俺は姫を助けに来たのだ。その為に命懸けでここまで来たのだ。
「……俺は……姫を守れなかったのかっ」
ここに俺しかいないということは、そういうことなのかもしれない。
――愛紀姫は綺麗で立派な姫になるんだ。そして、俺は天下一の忍者になるんだ
――そしたら、俺がお前の忍者になって命懸けで守ってやる、約束だ!
……俺は暗闇に拳を打ち付けた。
「……何が守ってやるだ……何が約束だっ」
……俺はゼロに敗けた。
……姫を守れなかった。
「結局、俺は口だけじゃねェかっ!」
情けなかった。悔しくて悔しくて仕方が無かった。
「火賀家を守れず、姫も守れず、約束の一つも守れねェのかよ……!」
俺はこんなに情けない男だったのか?
天下一の忍者になるんじゃなかったのか?
――笑止。
笑えないぐらいに格好悪かった。
「…………まだ、間に合わないのか?」
俺は暗闇の中を駆け抜ける。
「俺はまだ戦えるんだ! まだ、姫を守れるんだ!」
走って、走って、走りまくった……しかし、出口は何処にも見当たらなかった。
「姫! 何処にいるんだ! 俺はここにいる! いるんなら返事をしてくれ!」
どんなに叫んでも反響すらしない。
――深淵。
……この闇はあまりにも深すぎた。
「姫! 姫ェ! 姫ーーーッ!」
俺は暗闇に吼える。然れど、返事は返ってはこない。
「姫!」
……走る。
「姫っ」
……走る。
「…………姫」
……歩く。
「……俺は死んじまったのか?」
足が止まる。
「……もう、姫を守ることが出来ないのか?」
もう叫ぶ気力もない。
「……済まねェ、師匠。俺、天下一の忍者になれなかったよ」
――猿飛佐助の一番弟子、祟部竜峰の名に懸けてお前を天下一の忍者にしてやる
「……済まねェ、ペルシャ……姫を連れて帰れなかった」
――お願いっ……愛紀ちゃんを助けてっ
「……済まねェ、姫……俺はお前を……守り通せなかったっ」
――甲平、ずっと私の側にいてくださいね。
ああ、
結局、俺は本当に何一つ約束を守れなかったな。
――へいっ
「……っ」
……何か聞こえた。
「……………………声?」
……そう、声が聞こえたのだ。
――甲平っ
……誰かが俺を呼んでいた。
「……この声は」
……知っている声であった。
……耳のいい俺が聞き間違える筈がない。
「――姫っ!」
……そう、姫の声が、暗闇の遥か向こう側から聞こえたのだ。