第105話 『 甲平VSゼロ 』
(……腕が千切れそうだ)
……俺は今、ベルゼブブ家最強の男と対峙していた。
(……身体に力が入らねェし、気を抜くと倒れそうだ)
……満身創痍で。
「オイ、お前。粋がっていた割りには死にかけじゃねェかよ……そんなんで俺を楽しませられられんのかァ?」
「うるせェな、こんなのハンデだよ、ハンデ」
強がってはいるが正直身体は悲鳴を上げていた。
無理もない、ここに辿り着くまでに多くの強敵を退けたのだ。寧ろ、よくここまでもったものである。
「そォかよ、だったら――全力で踏み潰しちまっても文句はねェよなァ!」
――ドッッッッッ……! 無数の樹木がゼロの足下から飛び出した。
「〝九尾‐槍型〟」
〝鬼紅一文字〟から〝九尾‐槍型〟に持ち替える。
無数の樹木は枝分かれして、俺に襲い掛かる。
「 斬る 」
――斬ッッッッッッ……! 俺は迫り来る樹木を全て斬り伏せる。
「 ひゃはっ 」
ゼロが狂暴に笑う。
――斬り伏せた筈の樹木が全て切り口から再生し、俺に襲い掛かる。
「無駄無駄ァ! その程度じゃあ、止まらねェんだよォ!」
「――くっ」
俺は後ろへ跳んで樹木を回避する。が、樹木の追尾は止まらない。
「しつけェんだよっ」
更に建物の屋上へ跳び、すぐに隣の屋上へと跳び移る。
樹木も執拗に俺を追い掛けては逃がさない。
(逃げても逃げても切りがねェ!)
――火遁
「だったら焼き払うまでだよ……!」
火 龍 熱 焼
――轟ッッッッッッッッッ……! 業火が迫り来る樹木を全て燃やし尽くした。
「よし! 再生しな
――閃ッッッッッッ……! 炎の隙間を抜け、右肩を細い光線が貫いた。
「――っ」
「ひはっ! 大的中だっ!」
俺は堪らず、建物と建物の間に落ちる。
(――クソッ、植物ばかりに気を取られちま
――ズズッ……。建物が微かに動いた。
「 〝見えざる手〟 」
「――っ」
――二棟の建物が引き寄せ合い、俺を押し潰した。
「お前さァ、誰を相手にしているのかわかってんのかよ!」
建物は衝撃に耐えきれず崩壊する。
「ベルゼブブ家最強の戦士だ! 〝奇跡〟が二つや三つで済む訳ねェだろうが、よォ!」
舞い上がる粉塵に火花が散る。
次 の 瞬 間 。
――轟ッッッッッッッッッッッッ……! 粉塵に火花が引火し、大爆発が周囲一帯を吹き飛ばした。
「いいねェ! 最高に派手に死んじまいなァ!」
「 死なねェよ 」
土遁――……。
「 〝土竜斬〟 」
――斬ッッッッッッ……! 俺は地面から飛び出し、同時にゼロの背中を金槍で斬り裂いた。
――否。
(……斬れて……ねェ)
そう、ゼロには傷一つ見当たらなかった。
「てめェ、何かしたか?」
「――っ」
ゼロの拳が迫り来る。
(――ガード間に合えっ)
俺は腕を交差して、ゼロの拳を受け止める。
「…………お前、何で〝魔装脈〟が使えんだよ」
ただ拳を受け止めただけなのに、ゼロは偉く驚いていた。
(……そう言えば、ラビが言っていたな)
ここへ乗り込む前にラビからゼロの情報はある程度聞いていた。
ゼロの持っている能力で確認できたのは五つあった。
一つはあらゆる攻撃を凌ぐ絶対防御。
一つは超火力の光線。
一つは瞬間移動。
一つは植物を操る力。
一つは相手の魔力的防御を突破する力。
そして、先程の戦闘から念動力と火を操る力もあるようであった。
(……俺の防御は〝氣〟を使った防御であって〝魔装脈〟じゃない。だから、奴の魔力防御を突破する攻撃でも破れなかったのか)
しかし、ガード出来ただけで奴の防御力にはまるで歯が立たなかった。
(……手応えからして硬度が硬くなった訳ではないな)
先程の手応えは寧ろ、ビィドルの〝絶衝〟に近い手応えであった。
……硬度による防御ではなく攻撃そのものの無力化、ということであろう。
「 生意気だなァ、お前ェ 」
「――っ」
――ゾクッッッ……。ゼロの殺意が昂る。
「 〝暴炎〟 」
「――っ!」
――轟ッッッッッッッッッ……! ゼロの身体から爆炎が吹き出し、俺は堪らず吹っ飛ばされる。
俺は地面を転がりながらも体勢を立て直して静止する。
(クソッ、無前兆からの爆発、流石にかわせなかったか)
それでもまだ限界を迎えていない、まだ戦える。
「……ゼロは?」
俺は黒煙の中にいるゼロへと視線を向ける。
「……少しイラついたぜ、クソッたれが」
ゼロの両腕には黒い妖気が纏われていた。
「何でこんな雑魚に粘られなきゃなんねェんだよ」
「――」
……ゼロの姿が消える。
「あ"あ"ッ!」
――トンッ……。ゼロが俺の目の前にいた。
(――瞬間移動っ)
ゼロの黒い妖気を纏った拳が迫る。
俺は腕を交差してガードし
(たら、駄目だっ!)
咄嗟にガードから回避に切り替える。
「ひゃはっ!」
俺の後ろにあった建物にゼロの拳が打ち込まれる。
――破壊。ゼロの正面にあった建物三棟が一瞬にして瓦礫となり、弾け飛んだ。
(――この威力! リゼッタ以上か
――掴ッッッ……! 強靭な蔓が俺の足首に巻き付いていた。
「――っ!」
「ひははっ! 上へェェェ! 参りまァァァァす!」
俺は強靭な蔓によって遥か上空へとぶん投げられる。
(まずい! 空中じゃ身動きが
「 〝見えざる手〟 」
――既に俺の四方八方には多量の瓦礫が包囲していた。
「――っ!」
「 〝圧殺〟 」
――潰ッッッッッッッッッ……! 多量の瓦礫が空中にいる俺を押し潰した。
「……連刀必殺」
紅 桜
――斬ッッッッッッッッッ……! 俺は押し潰す瓦礫を木っ端微塵に斬り刻み辛うじて脱出する。
が
「 ひゃはっ♪ 」
……既に俺の真上にはゼロが拳を構えていた。
「 〝刹那〟 」
――斬ッッッッッッッッッ……! 俺の神速の抜刀がゼロに炸裂した。
「……クソッ……たれ、が」
……しかし、ゼロには傷一つすらつかなかった。
「無駄な努力ゥお疲れ様でしたァァァァァッ……!」
「――っ」
――直撃。ゼロの黒い妖気を纏った拳が俺の土手っ腹に叩き込まれた。
「――ッッッッッッ……!」
俺は凄まじい勢いで落下する。そして――……。
――轟ッッッッッッッッッ……! その衝撃が周囲一帯を吹き飛ばした。
「――かはっ……!」
粉塵が吹き抜ける。
地面が弾け飛ぶ。
礫や砂利が飛び散る。
「甲平ッッッ……!」
姫の呼ぶ声がやけに遠くから聞こえた。
視界に火花が散り、意識は薄れて行く。
身体は首から下が無くなってしまったかのように感覚が無かった。
落ちる。
落ちる。
意識が落
ちる。
暗い海の底に沈むように俺の意識は落ちていく。
ぼんやりとした意識の中、ある二文字が脳裏を過った。
限 界
……そして、俺は暗く深い闇の底に沈んだ。